飼育員さんのお師匠さん(2)
「えっ、じゃあ、ザハスさんて今は王様達と一緒に国外にいるの?」
あれは3日前のことです。
ティーアはその日、アスカさんに頼まれことをするために街に来ていました。
まあ、頼まれごとといっても、些細な頼まれごとでものの数分で終わってしまうようなものでした。
その帰りのことです。
例の如くロックに捕まってしまったのです。
もしかしたら、ロックはティーアのことをつけているのでしょうか?
この日もいつもの様に自慢話が始まるのかと思いましたが、ちょっと内容が違いました。
「そうなんだよ。だから、今は軍にあんまり上位等級のドラゴンの飼育員はいなくて大変なんだよ。」
ロックの話によると今、王様と王妃様が上位等級のドラゴンの飼育員、そして軍司の方々や兵を引き連れて国外にお出になられているそうです。
「でもさ、ロックそんな事私に話して大丈夫なの?国家機密じゃないの?」
「大丈夫!大丈夫!こんなこと話すのはティーアにだ・け!特別だから。」
……いや、そういう問題でしょうか?
ロックの頭はどうなっているのでしょうか。
分かりません。
あと、何か一ヶ所気持ち悪いところがありましたが絶対にツッコミません。
それより気になる事があります。
「でも、何の為にそんな大所帯で向かう必要が?それにそんなに大人数なのに何で街の人は騒いでないの?」
王様と王妃様が外に出るなんて皆が知ったら大騒ぎです。
ただでさえ謁見出来る機会すらほとんどないのですから。
ティーアも出来ることなら見てみたいところです。
「いやー、それがさ。俺には教えてくれなかったんだよね。まあ、見習いだから当然なんだけどさ。それに出るときも朝早く裏門から分からないように出たらしいんだよ。俺も朝起きてみてびっくりさ。」
「…………はあ。」
…………結局は何も知らないってことですね。
やはりロックはロックでしかありません。
そんなロックに聞いたティーアがバカだったのです。
「まあ、とにかくおかけで今城の中は人手が足りなくて大変なんだよ。ドラゴンの飼育員は白と黒等級か俺みたいな見習いしかいないし、いつもやってるん事より仕事量が多くて多くて目が回るぜ。」
「…………あんた、本当に大丈夫?ここは街のど真ん中よ?」
「?何が?」
どうも、このバカは自分がベラベラ喋っていることが大変だと言うことに気付いていないようです。
「ロック、それって簡単に言えば城の守りが手薄ですって言ってるのと同じよ。誰かが聞いてて何かあったらどうするつもり?」
「大丈夫!大丈夫!今はベールニック皇太子様が統括してるから問題ないよ。あの方は天才だからさ。」
「えっ?、ベールニック皇太子様って帰ってきてるんだ。」
ベールニック皇太子様は次期王様候補筆頭の方です。
ここ4、5年でメキメキと評価を上げてきて今では王様を凌ぐ実力ではないかとすら言われています。
そして、なんといってもカッコいいのです。
ティーアも一度だけ見たことがありますが何とも言えないカッコ良さでした。
最近はもっぱら外交を担当されているらしく中々ドラグニア国内で見ることは出来ないらしいのです。
「えって、この間帰って来ただろ?街中大騒ぎだったぜ。」
「…………」
街中大騒ぎって言われてもティーアは知りませんでした。
どーせ、ティーアが住んでいるのは街の外ですから。
そういう情報には疎いのです。
「ま、まあ、でも、結局は普通の人は普通にドラグニアにいても見れないからさ。見れてない人が多いんだよ。」
「ふーん。あっそう。」
ティーアが機嫌を損ねたのが分かったのかロックは必死に弁明していました。
でも、ティーアはそんなに機嫌を損ねてはいませんよ。
確かにベールニック皇太子様はカッコいいですけど雲の上の人過ぎてティーアにはいまいちイメージがつきにくい方です。
要するには住んでいる世界が違うというやつです。
「そ、そういえばさ。品評会ってどうなったんだ?ティーアはやっぱり来るんだろ?」
「うん。まあね。行くよ。」
ロックは話を変えたかったのか品評会の話を振ってきました。
そういえばロックはザハスさんのお陰もあっていい席で見られるって言ってましたね。
ティーアはアスカさんにお願いしたところ最初はめんどくさいと乗り気ではありませんでしたが条件付きで了承をもらいました。
まあ、その問題の条件については各々なんとかしないといけない訳なんですけど…………
「そうなんだ。…………でさ、俺実はさ、その日の午後から非番でさ。もし良かったらなんだけど…………」
「うん?私はずっとアスカさんと一緒にいるけど?」
「あっ、…………そうだよね。…………分かってたさ。…………うん。」
突然どうしたんでしょう?
ティーアのところはティーアとアスカさんの二人しかいないんだから考えればすぐに分かることでしょうに。
何がしたかったのでしょうか?
何だかやたらと落ち込んでいるように見えますが…………気のせいでしょう。
「でも!ティーア少しだけでも…………」
と、ロックがティーアに何かを言いかけたその時でした。
カーーーン!カーーーン!カーーーン!カーーーン!
「な、何だ!?」
けたたましい鐘の音が街中に響き渡りました。
ロックは目の前でおろおろし出し、周りでは街の人たちがざわざわと騒ぎ始めました。
「この音は…………まさか。」
鐘の音にはいくつかの種類があり響きの長さや感覚で伝えたいことが違います。
敵が攻めてきたり、大きな雨雲が近づいてきたり、もしくは軍隊の帰還など良いこともあれば悪いこともあります。
そして、この音が示すのは…………
「西の方からドラゴンが来るぞー!!」
「衛兵は西門に集まれ!」
「一般人は家に入るんだ!!」
「早く!早く!」
やはりそうでした。
ドラグニアは元々野生のドラゴンの度々の襲撃に悩まされてきました。
それに対抗するためにその昔、専門家であるドラゴンの飼育員を育成しドラゴンを押さえ込むという政策を作りました。
その政策は見事に的中し、人間はドラゴンを手懐ける術を手に入れました。
見事に共存の方法を見つけたのです。
しかし、ドラゴンは元々聖なる生き物です。
どれだけ時が経っても分からないことも多く特にドラゴンが何処から来るのかというのは永遠の謎とされています。
そして、ごく稀ではありますが野生のドラゴンがドラグニアの周辺で暴れたり、街に攻めてくるのです。
「やべっ!城に戻らないと!ティーアも早く逃げるんだ!」
ロックがおろおろしながらもティーアに叫びかけます。
そうです。
ティーアもここにいる場合ではありません。
アスカさんの所に戻らないと、それにドラゴン達も気になります。
街は一瞬にして大混乱でした。
お店を急いでたたむ人、家の窓を閉めて木の板で補強する人、子供を探して名前を叫ぶ人、普段は活気に溢れて笑い声が絶えないドラグニアの街の風景とは全く違う風景でした。
ティーアはあまりの光景に一瞬自分がどこに立っているのか分からなくなりました。
ティーアの目に見える景色が回って見えます。
そばでロックが何かを話しかけてきますがティーアには何と言っているのか理解できませんでした。
「早く…………アスカさんの所に……行かないと……」
ティーアは無理やり自分自身を奮い立たせアスカさんの元へと走りました。
ドラゴンがいるのは西側、私たちの家は南側にあります。
恐らく無事あることは間違いないでしょう。
でも、ティーアは力の限り走りました。
その間もけたたましい鐘の音が街中に鳴り響いていました。
その後、ティーアはどうやって家まで戻ったか一切覚えていません。
ただ必死に走ることだけを考えてました。




