飼育員さんの別れ(8)
「ティーアの向き合いかたですよね…………」
ティーアはお風呂から上がっても晩御飯での出来事が抜けきれていませんでした。
アスカさんがあんなに真面目にティーアに何かを言うのは初めてです。
しかもティーアが感じていたのことよりずっとずっと深く重い内容でした。
ティーアはお風呂上がりの濡れた髪を拭きながら考えました。
ティーアは今日初めてドラゴンを送り出すという事を経験しました。
「でも…………アスカさんの言うとおりなんですよね。」
アスカさんの言っていた事は正しい事でした。
ティーアの心うちもすっかり見抜かれていました。
でも、確かに仕事である事は間違いありませんが、ティーアはこれからどうしていくのがいいのでしょう?
突然、この仕事を難しく言われたような気がします。
毎日、ドラゴンと接して育てていき、最終的に立派なドラゴンを育て上げる
これがこのドラゴンの飼育員としての仕事だと思っていました。
毎日真剣ですし、愛情も注いできたつもりです。
アスカさんもそこは否定している訳ではありませんでした。
「結局は向き合い方なのでしょうか?」
簡単には答えは導き出せそうにありません。
髪を拭き終えティーアは日記を取り出しました。
何となくまだ書く気がしなくてペラペラと何気なく日記をめくってしまいました。
とても、日記を書く気分になれませんでした。
「ふう…………」
パタンと日記を閉じるとティーアは気分を変えたくて窓の外を見ました。
今夜も天気が良くて月が綺麗でした。
窓からは竜舎も見えます。
ミーアはいなくなっても変わらずそこにあり続けます。
「…………そうだ。」
ティーアはヒントがあるその場所を見つけたような気がして一度着た寝間着を脱ぎ外に出ました。
「よいしょっと……」
ティーアは竜舎の扉を開けました。
この時間に来ることは初めてでしたが夜で暗いことを覗けば特に問題はありませんでした。
三匹のドラゴン達も既に寝ているようでした。
ロウソクに火を灯し静かに進むとミーアがいた場所の所で止まりました。
「…………もう、こんなに綺麗に。」
住人が居なくなったその場所は元々敷いてあった藁や色々な汚れ等は一切なく、今日この場所が作られたばかりかのように綺麗でした。
ティーアはここの掃除には携わっていないのでアスカさんがやったのは間違いありません。
恐らくはティーアがミーアを後を引きずりずっと立ち尽くしていた間にやってしまってのでしょう。
「……もう、アスカさんは次へと進んでいるんですね。」
ティーアは側のロウソク立てにロウソクを置き中を無言で見つめました。
自然とミーアとの思い出が浮かび上がってきます。
自然と涙が出ました。
もう区切れたとはティーア自身思っていたのですが…………
「やはり、ティーアはティーアです。まだまだ子供ですね。」
涙をすっと拭きながらそう言葉が出ました。
「…………ミーアには新しい所で立派になって欲しいです。」
ティーアの混じりっけなしの心からの意見です。
単純でひねりはありませんが、それが一番でありそれはミーアに限らずコクルだってヤットだってコックだって変わりはありません。
「そうですね……アスカさんはああ言いましたが、やはりティーアはティーアなりにやりたいと思います。」
今思っているこの寂しいや悲しさを忘れてはいけないと心に決めました。
この思いの分だけティーアは大きくなれる気がしたのです。
それがティーアの答えでした。
アスカさんにはすぐに見抜かれるかもしれませんがティーアは急に強くはなれません。
でも、このままでいい弱さもありだと思いました。
そう決めたとたんモヤモヤした気持ちが取れるように感じました。
まだまだ問題はありますがこれが今のティーアのドラゴンとの向き合い方です。
「よし。じゃあ、明日からは新生?いや、元のままのティーアとして頑張りましょう。」
その日の夜の日記は久しぶりに長編となりました。
そして、不思議な高揚感のある執筆となりました。
次の日のティーアはとてもすっきりと朝を迎えられました。
アスカさんも不思議と目覚めが良くてティーアを襲いませんでした。
しかしそれ以外は相も変わらずといった普段のアスカさんでした。
「ふん。ふっふーん。アスカさんご飯出来ましたよ。今朝はいつものパンとベーコンと卵です。」
すっきりと気分もいいティーアは自然と鼻歌も出ます。
「あれ?今朝は普段よりご機嫌だね。ティーア。」
「ええ、今朝はアスカさんも襲ってきませんでしてたし、今日からまた頑張りますよ!」
「…………ふーん。そりゃ頼もしいね。」
「はい!」
アスカさんはそう言ってパンを齧りながらニヤニヤとこちらを見ていました。
まあ、変なのはいつもなので対して気になりません。
「ティーア。」
「はい?」
「良いこと教えてあげる。」
「はい…………何でしょう?」
アスカさんは突然ティーアにそんな事を投げ掛けてきました。
どうせ、大した事ではありませんが万が一ということもあります。
ティーアは素直に聞くことにしました。
「ある人から聞いたんだけどさ…………子供は勝手に育つんだって。ある程度は放置しても…………。」
「…………はい?」
そう言うとアスカさんは朝ごはんをバクバクと食べていました。
一方言われたティーアにはよく意味が分かりませんでした。
どうして今その事を言ったのでしょうか?
分かりませんがとにかく今日もドラゴンの飼育員としての1日が始まります。
その日も空は晴れていて窓からは太陽の光が眩しく差し込んでいました。
今日も良い1日になりそうです。
今日で飼育員さんの別れて終了です。
次回からは話が新しくなります。
よろしくお願いします。




