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飼育員さんの別れ(7)

「うわあ、いい匂いです。」


ティーアの部屋から下に降りていくと奥の台所からでしょうかなんとも言えないいい匂いがしました。

今まで半信半疑な部分が多くて信じきれなかったアスカさんの手料理ですがこの匂いは美味しそうです。


「はいはい。座って座って。アスカさん特性のドラゴンスープだよ。美味しくて明日から毎日作って欲しいって言いたくなるよ。」


奥からエプロン姿のアスカさんが両手に食器を抱えて現れました。

まだそのエプロン姿に違和感は拭いきれませんがとても楽しそうです。

そしてテーブルにはいつもティーアがスープを作っている鍋が真ん中に鎮座していました。

というかそれしか有りませんでした。


「えっと、これがアスカさんのドラゴンスープなんですね。」


ティーアは一応確認の意味も込めてアスカさんに訪ねました。

食器を並べ終えたアスカさんはもうティーアと自分の器に件のスープを盛り付け始めています。


「そうだよ。昔、私の師匠から教わったんだけどね。私多分料理ってこれしか出来ないと思うんだ。でも私にとってとても大切な料理だよ。」

「…………そうなんですね。」


フラミーさんから少し聞いてはいましたがアスカさんには言わずに初めて聞いたことにしました。

しかし、ティーアの予想通りアスカさんはやはりこれしか出来ないようでした。

でも、アスカさんがせっかくティーアのために作ってくれたものです。

無下にすることは出来ません。


「では、いただき…………」

「ちょっと待った!」

「はい…………なんでしょう?」


早速食べようとしたその時でした。

アスカさんはティーアを止めました。

ティーアは突然の事に思わずキョトンとしてしまいました。


「食べる前にティーアに言わなくてはいけないことがあるの。」

「…………はい。」


なんでしょう?

しかも、アスカさんにしては口調が少し変です。

何かティーアは悪いことでもしたのでしょうか?

皆目検討がつきません。


「今日はミーアがここから巣立ったね。これはとてもおめでたいことなんだよ。」

「はい…………分かります。」


アスカさんの言うとおりです。

ティーアはミーアがいなくなり寂しさを感じましがミーアが世の中の役に立つために巣立ちを迎えたのはおめでたいことです。


「私はドラゴンが自分所から誰かの所に行くことを誇らしく思うの。それは自分の育てたドラゴンが誰かに必要とされている証だから。」

「ティーアもそう思います。」


ティーアも勿論自分の育てたドラゴンが役に立ってくれるのはとても嬉しいです。


「だからしっかり育てなくてはいけないっていう責任が飼育員にはあるんだと私は思うの。それはどんな携わり方でも変わらない。」

「……はい。勿論です。」

「ティーアは今日、ミーアを見てて何を感じた?」

「えっと…………ティーアはミーアを見ていて居なくなるという寂しさとか悲しさ…………後はティーアも頑張らないととか。」

「…………それだけじゃない?」

「…………そうです。」

「私の言いたいこと分かる?」

「言いたいことですか?」


ティーアは先程からのアスカさんの話を思い返し直しました。

ティーアが今日思い描いていたのは寂しい悲しいとかそれをなるべく見せないようにするとかそういうことでした。


「…………ティーアは自分のことしか思ってないです。」

「……寂しいとか悲しいは自分の思いだよね。勿論、そう思うのが悪い訳じゃないんだよ。ティーアはとっても優しいからそう思うんだよ。それはティーアがドラゴンを育てていくのに大切な特徴であり武器になるものだと思うんだ。…………でも、今日初めてドラゴンを送り出した日だからこそティーアに心に刻んでて欲しいの。私達はただペットの世話をしてるんじゃなくて、仕事でドラゴンを飼育しているの。これは仕事なんだよ…………私達の。だから自分じゃなくてもっとその先を見て、思って、欲しい。それは別に私と同じ思いじゃなくてもいいの。ティーアなりの思い持って見て欲しいと私は思う。」

「………………」


思いを語るアスカさんに圧倒されてティーアは何も言えませんでした。

それと同時に今日1日でアスカさんがティーアに対してこんな事を思っていたという事にも驚きました。


「知ってる?心が熱い内に聞いた言葉は身になるんだって。今日はその日。だからティーアには今感じて欲しいんだ。戯言だと思ったらそれでいいし。」

「いや、そんな事は…………」


ティーアはそれ以上何も言えませんでした。

普段と違うアスカさんの言葉に戸惑ってしまって動揺してしまっていました。


「さ、この話はこれで終わり。ごめんね。改めて食べようか?ちょっと冷めちゃったかな?温めてくるね。」

「…………はい。」


そう言ってアスカさんは鍋を温め直すために台所へ行ってしまいました。

その後は温め直したアスカさんのドラゴンスープを食べましたが、ティーアはせっかくのアスカさんの手料理の味を一切覚えていません。

アスカさんも色々話しかけてくれたのですが何を話したかもうろ覚えでした。

…………アスカさんの思いは強すぎてティーアにはすぐに消化出来ませんでした。

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