飼育員さんの別れ(6)
外には先程、フラミーさんが準備してくれてた竜車の檻が口を開けて待っています。
そこに竜車に備え付けられていた傾斜になった登るための台が置いてあってドラゴンが登りやすくなっています。
「………それじゃ……登って!」
「コー!」
アスカさんの掛け声に合わせてミーアが台を一気に駆け上がります。
一気に駆け上がったせいか竜車がガタガタと激しく揺れましたが、その竜車を引っ張るドラゴンは全く気にする様子がありませんでした。
「よし。良い子だね。フラミーいいよー。」
「りょうかーい。」
アスカさんがミーアが檻に入ったのを確認すると、フラミーさんに声をかけます。
それに合わせてフラミーさんが檻の口を閉めます。
…………いよいよ、その時が近づいて来たようです。
「うん。大丈夫だね。」
フラミーさんは檻の口の所をガシガシと何度もちゃんと閉まっているか確かめていました。
ティーアは本当に見ているだけでした。
二人の作業が円滑過ぎてティーアが手伝う必要性は全くありませんが、せっかくのミーアの門出だというのに蚊帳の外みたいです。
しかし、本当に淡々と進んでいくんですね…………正に作業のようです。
そして、あっという間に作業は終わりました。
「後は出発するだけですか?」
ティーアはアスカさんに確認を取りました。
アスカさんはティーアの声に気付くとミーアの側から離れてこちらに来てくれました。
「まあね。ちょっとミーアの様子を見て 落ち着いて大丈夫そうなら出るよ。」
「そうですか…………じゃあ、ちょっと見てきてもいいですか?」
「うん。いいよ。興奮はさせないでね。」
「はい、分かりました。では。」
アスカさんに承諾を得たのでティーアは竜車の檻まで行きました。
フラミーさんは竜車を連れてきてくれた方と帰る道筋の確認をしていました。
ここでティーアに出来る事はありません。
少しでもミーアを同様させずに声をかけます。
「ミーア、大丈夫?落ち着いてる?」
「フーフー」
ミーアは至って普段通りに見えました。
嫌がる様子も暴れる様子見ありません。
「頑張るんだよ。ティーアもここで頑張るから。」
「フーフークーゥ」
「よしよし。」
柵の隙間から鼻をちょこっとだけ出してきたのでティーアは優しく撫でてあげました。
ティーアはこれ以上は冷静ではいられないと思いました。
一気に色んな物が込み上げてきます。
もしかしたら目は真っ赤かもしれません。
「またね。ミーア。」
「ケークーゥ」
言葉を最小限にしてミーアの元を離れました。
竜車を降りるときアスカさんの姿が正面に入りこちらに来るのが分かりましたが、ティーアはずっと下を見てアスカさんに顔を見られないようにしました。
「………………」
アスカさんは何も言わずにティーアの横を通り過ぎてフラミーさんの所へ行ってしまいました。
数分後またアスカさんが戻ってきました。
「フラミーが出るって。私はミーアはもう大丈夫だよって言ってきたから。あと、フラミーがティーアによろしくって。」
「……そうですか。」
フラミーさんはティーアには挨拶はしないで帰るようです。
アスカさんが気を使ってくれたのかフラミーさんが空気を読んでくれたのか分かりませんがティーアはちょっと助かります。
ティーア自身自分の顔がどうなっているかいまいち分かりませんし、アスカさんも何も言ってくれませんから。
その直後竜車はゆっくりと出発しました。
時間と共に徐々に竜車は遠退いていきました。
「私は中に入るけどティーアどうする?」
「…………もう少し居てもいいですか?」
「………………しょうがないなあ。」
そう言うとアスカさんは一人で家の中に入っていきました。
ティーアは竜車が見えなくなってもその場を離れることが出来ませんでした。
どれくらいその場にいたのでしょうか。
気付いたときには日が西にすっかり傾いていました。
こんな気持ちで過ごす時間はこんなにも早いのだとこの日ティーアは学びました。
「…………アスカさん。すみません。遅くなりました。」
だいぶ時間が経っていたのは分かっていたのでアスカさんにはもしかしたら何か言われてしまうかもと思いながら家に入りました。
「あっ、ティーア、やっと戻った?」
「…………はい。すみませ……ん?」
奥から出てきたアスカさんはティーアの見たことのない格好をしていました。
「ん?なんか変?あっ、そうか。これティーアの前では初めて着たからなあ。どう可愛い?」
「可愛いって言われましても…………」
そう言いながらしきりにポーズをとるアスカさんはエプロン姿でした。
確かに今日の晩御飯を担当するとは言ってましたがまさかエプロン姿とは…………
というかアスカさんがエプロンを持っていたとは……
「ティーアが遅いからドラゴンの今日の世話も一人でやっちゃったし、今は晩御飯を作ってるんだよ。」
「えっ?あっ?すみません。そんなにさせてしまって、ティーアは…………えっと……」
「今日の仕事は終わったからティーアは上で休んでていいよ。晩御飯できたら呼ぶから。」
「えっ、でも、ティーアばかり休んでては…………」
「い・い・か・ら!休んでて!出来たら呼ぶから!」
「…………はい。」
結局アスカさんに圧倒される形でティーアは自室で休む事にしました。
戻ったのはいいのですがこんな時間から自分の部屋にいることはなかなか無いのでなんだか落ち着きません。
「やっぱりアスカさんは気を使ってくれたのでしょうか?」
さっきは普段と変わらない様子でティーアに接してくれましたが、少しオーバー過ぎる気もします。
「ふーっ、分かりません。」
ティーアはそのままベッドに倒れ混みました。
そのままボーッと天井を見上げます。
見上げた先には木の板しかなくティーアはなんとなくその木の板の木目に沿ってなぞるように目を動かしました。
「しかし、案外に落ち着きました。」
ミーアと最後に触れあっている時は感極まるものがありましたが、それから竜車の進んだ方向をじっと見ていた間、ティーアは何も考えられませんでした。
いや、単に考えていなかっただけかもしれません。
頭を空っぽにして心の整理がしたかったのかもしれません。
そのせいか今はティーア自身では随分落ち着いたような気もします。
「これも、アスカさんが許してくれたお陰ですかね。」
あの時、アスカさんはティーアに時間をくれました。
一人でいてもいいと。
少し迷惑をかけたかもしれませんが有効に使わせてもらったようです。
「…………アスカさんも最初はこんな気持ちだったのでしょうか?だからアスカさんなりの送り出し方で気持ちの整理をつけているのでしょうか?いつか聞いてみたいですね。」
アスカさんとこういう話を懐かしく話せる日にでも笑い話として聞きたいとティーアは思いました。
そう。
ティーアが一人前になってアスカさんの元を卒業した後に。
今聞いても恐らく喋ってくれませんから。
アスカさんはそういう人です。
「ふふっ。」
何故かティーアは自然と笑いが出てきました。
アスカさんの事を考えて笑ったのは久々です。
そして笑ったらお腹が空いてきました。
「アスカさん…………大丈夫でしょうか?ドラゴンスープ完成するんですかね?」
そんな事を心配し始めたちょうどその時でした。
「ティーア!出来たよー!早く降りといで!」
噂をすればのアスカさんです。
どうやら料理が完成したようです。
「はーい。すぐに行きます!」
ティーアはベッドから飛び起き部屋の扉を開けました。
そしてその勢いのまま食事に真っ直ぐ向かいました。




