飼育員さんの別れ(5)
お昼は結局、魚をソテーにして食べることにしました。
お昼から魚のソテーは普段は滅多にやらない中々豪華になってしまいますが、フラミーさんも来ていることですしいいでしょう。
ドラゴン達のご飯はアスカさんが引き受けてくれたのでティーアはこちらに専念出来たのでとても助かりました。
しかし、これだけでは少し殺風景なのでパンにちょっと工夫を施して卵を絡めてみました。
晩御飯をアスカさんに任せられる分ティーアはここで全力を尽くしたいと思います。
そして、心置きなく晩御飯のドラゴンスープを迎え撃ちたいと思います。
フラミーさんは絶賛していましたが作るのは二人の師匠さんではなくて『あの』アスカさんです。
まだ心配な部分は正直あります。
でも、どんな物が出てきてもティーアは全力で称賛したいとと思います。
「よし。出来ました。完璧です。」
それではアスカさんを呼んでくることにしましょう。
フラミーさんの姿が先程から見えませんが恐らくはアスカさんと一緒にいるでしょう。
「ティーア!お腹空いたー」
「あっ、ちょうど呼びに行こうと思ってたところです。出来てますよ。お昼ご飯。」
「うわー、いい匂い。」
ちょうどいいところに二人が戻ってきました。
呼びに行く手間が省けました。
しかも、ご飯は出来立てです。
二人を先に座らせて料理をお皿に盛り付けます。
「はい。どうぞ。」
「うわっ、ティーア、お昼から気合い入れすぎじゃない?こんなお昼ご飯初めてじゃない?」
やはり、普段より豪勢なお昼にアスカさんが驚きの声を上げます。
ティーアもそう思いましたから。
「今日は食事作りに専念出来ましたし、それにお客様も来てますから。」
「あら、お客様って私?」
「えー、フラミーが来たから豪華なの?」
ティーアがフラミーさんをえこひいきしたと思ったのでしょうか、アスカさんが不満げな声を上げていました。
「まあ、それは冗談です。今日はたまたま街で美味しいお魚を勧められたので新鮮な物は新鮮なうちにみんなで食べれば美味しいですから。」
「だよねー。このお魚立派だもんね。食べよ。さあ、フラミーもティーアも早く!」
「ふふっ、そうね。」
「……分かりました。」
ティーアは誤魔化した気だったのですが……アスカさんは本当に疑わない人ですね。
場が一気に明るくなったところで三人でご飯を食べ始めました。
やはり一人増えただけで食卓というのは賑やかになります。
とても楽しい食事になりました。
「ところでフラミー。竜車はどれくらいでここに来る予定なの?」
「うん。一応、予定ではそろそろ来る。予選会は午前でほぼ終わるからね。終わり次第ここへ来ることになっているよ。」
ほとんど料理を食べ終えた頃でした。
アスカさんがふと切り出してきました。
「そうですか…………そろそろなんですね。」
いよいよかと思うとやはり寂しさが出てきます。
でも、態度に見せたらダメなんです。
ティーアが決めたんですから。
「そうだ。ティーアは竜車へのドラゴンの搬入は始めてだよね?」
「はい。そうですね。」
なんせ、ドラゴンを送り出す事自体初めてですから。
ましてや、竜車に積むなんて……
「うーん。じゃあ、今日は私がやるから見てて。」
「はい。分かりました。」
「でも、ドラゴンは賢いからあんまり苦労は無いけどね。」
「そうなんですか?」
アスカさんはははっと笑いながら言いました。
元々ドラゴンは賢いから少し教えれば大抵のことはマスターします。
恐らく台か何かを使い竜車に乗るだけなのでそこまで難しくはないと言うことでしょう。
しかし、今回はお言葉に甘えるとしましょう。
分からないでやってミスがあるといけませんから。
「じゃあ、私とフラミーは準備しちゃうからティーアは片付け次第竜舎に来て。早く来ないと手順見せないからね。」
「……じゃあ、ティーアが行くまで待つという選択肢を提示します。」
ティーアは全部見たいですから。
「そうだよ。アスカ待ってあげれば?ティーアちゃんだって見たいって言ってるじゃない?」
フラミーさんナイスアシストです。
それを言われたアスカさんはまたちょっと不満げな顔をしていました。
「…………二人してなんだか急に仲良くなってない?」
「そんな事ないですよ。」
「そうだよ。気のせいだよ。」
「…………そう?」
「そうそう。」
まあ、何もなかった訳ではありませんがそこはフラミーさんと秘密にすると約束をしたので気のせいにします。
結局、アスカさんはフラミーさんの意見を聞きティーアが終わるまで待っててくれました。
…………意外と素直なんですね。
それともフラミーさんが言ったからでしょうか?
うーん。
この二人の関係っていったい…………
フラミーさんは昔、同じ師匠の下でドラゴンの飼育員を志していたといいう話でしたが、途中で辞めてしまったようですし……ティーアは今のところ一人弟子なのでこういったことはなさそうです。
「フラミー…………一応先に言っておくけど。」
「ん?何?」
「ティーアと私は師弟を超えた越えた深い仲だからね。」
「…………そうなの?」
「………………違います。」
…………本当に一人弟子で良かったです。
こんな兄弟弟子は勘弁してほしいですから。
片付けが終わった頃とうとう竜車が来ました。
いよいよミーアを乗せないといけません。
「よし。準備出来たよ。ミーアを連れてきて。」
フラミーさんがドラゴンの入る部屋を開けてくれました。
ティーアはアスカさんと一緒に竜舎に入りました。
ここからはティーアは見ているだけです。
でも、しっかりと目に焼き付けておかないといけません。
アスカさんがミーアのところまで行って外に出します。
この時足に鉄輪を着けます。
これはもしもの時のために識別用に着けないといけないものだそうです。
「少しの間だけ我慢してね。」
「グーグー」
アスカさんはミーアに優しく語りかけながら足に鉄輪を着けました。
ミーアも一切嫌がることはなく素直に鉄輪を装着されます。
「よし。行くよー!」
「ケーケーグー」
ミーアはアスカさんの言葉に一切迷うことなく付いていきます。
「…………ミーアはこれからのこと分かってるんでしょうか?」
「……分かってると思うよ。」
「ああ、フラミーさん。」
思わず呟いたティーアに後ろから声をかけてきたのはフラミーさんです。
フラミーさんも竜舎に見に来たようでした。
「受け売りにはなるけど、ドラゴンはね、賢いってのもあるけど人の気持ちも読めるんだって。たぶんあのドラゴンはアスカの気持ちも汲み取っていてああしてるんじゃないかな?…………たぶんだけどね。」
「…………そうだといいですね。」
アスカさんの思いは恐らく一つです。
送り出した先でも元気でやってくれること。
その為に毎日手塩にかけて育ててアスカさんなりの送り出し方で送り出すのです。
言うのは簡単ですがやるのは毎日の苦労があります。
ティーアもアスカさんの所で働き初めてやっと分かりました。
それは多分たくさんの人がいて毎日決まった事をするような大きな竜舎とは違っていて、それぞれのドラゴンにその子に合わせた愛情を時間をかけて注ぎます。
ティーアには何となくアスカさんが軍を辞めてしまった理由がここにあるのではないかと思いました。
「ほら、ティーアも一緒に行くよ!」
「はい。すぐに行きます。」
「ちょっと私もいるよ。」
突如ティーアに向けられたアスカさんの元気な声に現実に戻されるとティーアとフラミーさんははすぐにアスカさん達の後について竜舎の外に出ました。




