飼育員さんの別れ(3)
ティーアは何でも置いている雑貨屋さんを目指しました。
理由としては料理用のブドウ酒だとアスカさんからは聞いていたので本格的なものでなく料理にも使いやすいものと考えたからです。
しかも、そこはティーアがよく行く雑貨屋さんです。
香辛料なども豊富で迷ったらここに来ればなんでもあるので重宝している場所です。
「おはようございます。」
「あら、ティーアちゃん。おはよう。」
いつも笑顔で出迎えてくれる店主のクレアさんです。
ティーアが初めてアスカさんに言われて買い物に来たときによくしてもらって以来の知り合いの方でティーアはよく料理についても教えて貰っています。
今日の朝食のニンジンスープもクレアさんからヒントを貰って作りました。
「今日はどんな注文だい?そうそう、来週くらいに新しい紅茶も入れるからそしたら教えてあげるね。」
「そうなんですか!?ありがとうございます。お願いします。」
実はこのお店はティーアのお茶コレクションのほとんどを担っているといっても過言ではありません。
ここでクレアさんにお茶を教えて貰ってからティーアはよりお茶の魅力に取り付かれてしまいました。
「でも、今日はお茶ではなくてブドウ酒を探しに来たんです。しかも料理の味付けに使いやすい物を探しているんですけどありますか?」
「ブドウ酒?珍しいね。酒なんて。」
「ええ、頼まれてしまいまして。」
やはりクレアさんは普段ティーアがそういったものを買わないので疑問に思ったようです。
まあ、当然です。
ティーアはまだお酒飲めませんし。
「うーん。量をで使うならこれでいいかと思うんだけど…………」
そう言いながらクレアさんは一本のブドウ酒をくれました。
アスカさからは特に指定は無かったのでクレアさんがいいと言うならこれで間違いないでしょう。
「はい。これで大丈夫です。」
ティーアは二つ返事で答えました。
そのブドウ酒は新物のようでした。
「良かったわ。それは煮込み料理なんかちょうどいいの。使ってみて。」
「そうですか。ちょうど良かったです。ありがとうございます。」
ドラゴンスープとアスカさんは言っていたのできっと何かしらの煮込みにはなるはすです。
きっとその時このブドウ酒が効果を発揮してくれるでしょう。
ティーアはお代をクレアさんに渡しました。
「では、今日は急いでますのでこれで。お茶よろしくお願いします。」
「うん。分かったよ。気を付けて帰りなよ。」
「はい。」
これでアスカさんからの頼みも物は全て揃いました。
ティーアはクレアさんの見送る姿を背に家へ帰ることにしました。
「アスカさんに頼まれたものは完璧です。後はアスカさん次第ですね。しかし、少し重いですね。」
最初の予定では肉とブドウ酒だけがいつの間にか魚が入り肉もおまけで貰いと少々ティーアが一人で持っていくには重量になってしまいました。
しかもこの状況を想定していなかったため荷車を今日は持って来ていませんでした。
「まあ、無理な量ではありませんが、普段より時間がかかりそうですね。」
でも、あまりぐずぐすしても時間がかかるだけなのでティーアは手にした食材を担いで行くことにしました。
…………しかし、中々のしんどさです。
「おーい。ティーアちゃーん。」
「ん?あれは…………フラミーさん。」
ちょうどその時でした。
聞き覚えのある声がしたのでその方向を見るとそこには馬車に乗ったフラミーさんがいました。
「あれ?お買い物?なんか荷物多そうだね。」
「そうなんです。アスカさんに頼まれたのとあとは色々で…………」
「良ければ馬車乗る?どうせアスカの所にこれから行く予定だし。」
「あっ、ありがとうございます。お願いしたいです。」
これは物凄い助け船です。
ティーアはお願いすることにしました。
しかし、フラミーさんが乗る馬車は普通の馬車でした。
これでは、ミーアは運ぶことは出来ません。
「フラミーさん。これで行くんですか?」
「うん。そうよ。」
「でも、これだとミーアは運べませんよ。」
「勿論分かってるよ。ドラゴン用の竜車は後で来るよ。今はちょっと忙しくて。」
「はあ……」
他にも何か用事があってのことでした。
先にフラミーさんだけが来るようです。
「今日は品評会の予選会だからね。竜車の依頼が多いんだよ。ドラゴニアにドラゴンを輸送するためにね。」
「なるほど。フラミーさんはそういった仕事もしてるんですね。」
「まあね。こういうのは手広くやらないとね。」
「はあ……」
フラミーさんは簡単に言っていました。
やはりフラミーさんはかなりやり手の方みたいです。
最初の雰囲気からして出来る方だとは感じていました。
改めてこういったことを知るとまざまざと感じられます。
「ところでそんなにいっぱい何を買ったの?見たところ肉や魚みたいだけど…………」
馬車に乗ってすぐにフラミーさんが訪ねてきました。
ティーアの両脇にはたくさんの買った食材が置かれていました。
「ええ、実は…………今日アスカさんが料理をすると言い出して。それで頼まれたんです。」
「えっ?それってもしかして…………アスカのドラゴンスープ?」
「フラミーさん知ってるんですか?」
なんとフラミーさんはアスカさんのドラゴンスープを知っていました。
しかもフラミーさんの表情はどこか嬉しそうでした。
「懐かしいなあ、鶏肉とか入ってるやつだよね?昔食べたよー。」
今度はとても懐かしそうです。
表情を見る限りはいい思い出なのでしょう。
ティーアが心配しているよりドラゴンスープはずっと美味しいのでしょうか。
「ねえねえ、ティーアちゃん。もしかして今日アスカってちょっと変じゃなかった?」
「えっと…………変なのはいつもですけど今日はいつもと違いました。いつも朝はティーアが起こすんですけど、今日はティーアより早く起きててしかも家の屋根に登ってて朝日を見てたなんて言うんですよ。」
「ふむふむ、そっかあ、昔と変わらないねえ。アスカは。」
「昔ですか?」
「そう。全然変わってない。」
そう語るフラミーさんの微笑みは昔懐かしい親友に会うことが出来たような顔でした。
ティーアはアスカさんとフラミーさんの付き合いの長さを物語っていました。
「私とアスカは元々は同じ師匠の元でドラゴンの飼育員をやってたんだよ。」
「そうなんですか?初耳です。」
これは意外でした。
まさかフラミーさんが元々ドラゴンの飼育員だったなんて。
「うん。まあ、私は途中で辞めちゃったんだけどね。その時の私達の師匠がドラゴンが自分の所を巣立つ時には必ず弟子に振る舞ってくれたの。美味しかったなあ。それでその弟子が見習いを卒業すると作り方を教えてくれるのよ。」
「…………そうだったんですか。」
「うん。それにね、アスカは昔からドラゴンを送り出す日には必ず高い所から朝日を見るの。何でもアスカなりの送り出し方なんだって。」
「…………」
そんな理由があったとは…………
知らなかったとはいえアスカさんを怒ったティーアは自分を恥ずかしく思いました。
アスカさんはドラゴンとの別れに慣れているとか何とも思ってないとか勝手に思っていた自分が恥ずかしいです。
「その辺りが一流の金等級になれる証なのかもね。昔の古いしきたりたけどさ、自分でちゃんと引き継いだりしてる。一匹のドラゴンに対する愛情が尋常じゃないんだよ。アスカは。」
「…………凄いですね。アスカさんは。」
ティーアにそんな事が出来るのでしょうか?
アスカさんの話を聞くたびに自信を無くしてしまいます。
「うん。でもね。アスカはティーアちゃんに期待してるはずだよ。」
「そうでしょうか?」
「勿論。だって今はティーアちゃんがアスカの弟子なんだから。」
「…………そうですね。」
……ティーアはアスカさんのようなドラゴンの飼育員になれるのでしょうか?




