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飼育員さんの別れ(2)

「ティーア、今日はお願いがあるんだけど。」

「はい。何でしょうか?」


ニンジンスープをすすり終えたアスカさんがティーアに唐突に切り出してきました。


「お願いというか……買ってきて欲しい物があるんだけど……」

「ええ、構いませんよ。洗濯は昨日しましたし、今日の午前はティーアは空いてますから。何でしょうか?」


また何か必要な物でも出来たのでしょうか。

ティーアはこういうお使いは勉強になることが多いので少し嬉しいです。


「うーんとね。鶏肉を三羽分とブドウ酒を買ってきて欲しいんだ。」

「鶏肉とブドウ酒ですか?いいですけど…………肉は少しありますし、それにアスカさんお酒飲めましたっけ?」


アスカさんの答えはティーアの予想していたものとは違いました。

なんと、アスカさんは珍しく食べ物というか食材を頼んできたのです。

普段は食事は全てティーアが決めていてアスカさんが文句を言ったことは一度もありません。

しかし、何故鶏肉?

しかも、お酒なんてここに来てからアスカさんがお酒を飲んでいる姿を見たことがありません。

だから、アスカさんがお酒を飲めるかすらもティーアは知りませんでした。


「うーん。飲むというか肉もそうなんだけど料理で使いたいんだ。」

「料理ですか?何か食べたい物があるんですか?言っていただければ、ティーアが作りますよ。」


アスカさんが料理が得意ではないのは知っています。

やはり、ティーアに何か作って欲しいのでしょうか?


「ううん。違うの、今日の晩御飯は私が作るよ。」

「アスカさんがですか?」


とても意外な一言でした。

普段アスカさんは自分から作るなんて言いませんから。

それに正直ちゃんと作れるのかも心配です。


「大丈夫なんですか?やっぱりティーアが…………」

「大丈夫。大丈夫。これだけは得意なの。名付けてドラゴンスープ!」

「…………ドラゴンを煮るんですか?」

「違う!違う!とにかく私を信用して。」

「はあ…………」


とても心配ではありますがとにかくアスカさんがこれだけ自信ありげに言うのも珍しいです。

今回はアスカさんの言うとおりにしましょう。


「分かりました。じゃあ、ティーアは街へ行ってきます。」

「うん。お願いね。フラミーはお昼前には来てると思うから。」

「分かりました。じゃあ、それまでには戻ってこれるようにします。」


食事が終わるとティーアは片付け、アスカさんは竜舎の掃除を始めました。

そして、ティーアは終わり次第街へと買い物に出掛けることにしました。

ちゃちゃっと着替えてアスカさんに声をかけてから往くことにします。

アスカさんは竜舎でまだ掃除中でした。


「アスカさん!行ってきます!」

「あーい。気を付けてねー!」


これでよし。

ティーアは街へと向けて出発しました。


「それにしてもどういう風の吹き回しでしょうか?アスカさんが晩御飯を作るなんてやっぱり朝からアスカさんは変です。」


朝の行動といい、さっきの晩御飯の件といい今日のアスカさんはいつもと何処か違います。

でもその他の仕草や言葉遣い、雰囲気などはいつも通りのアスカさんであることに変わりはありません。


「…………やっぱりミーアの事が多少なりとも影響しているのでしょうか?アスカさんもやっぱり……」


やっぱりミーアが心配なのでしょうか?

ミーアはアスカさんが軍を辞めてあの家に住み始めて最初のドラゴンだと聞いています。

思いはひとしおなのかもしれません。


「だとすると、ティーアがちゃんとアスカさんの頼みをやり遂げないとダメです。アスカさんに後悔をさせてはいけないのですから。」


そうですよね。

ティーアはアスカさんの弟子です。

アスカさんを少しでも助けるのは当然なんです。


「よし。やっぱり今日のティーアはやらないとダメですね。」


ティーアは握りこぶしを作り自分に言い聞かせながら街への道を歩いていきました。


「……あれ?今日は何だか普段の街と雰囲気が違う気がします。」


街に入るとティーアはいつもの違う街の感じていました。

普段より明らかに街にいるドラゴンの数が多いのです。

勿論、普段からドラゴニアには沢山のドラゴンたちがいますが、今日は普段のそれとはまた違った様子でした。

何故なら普段よく見るドラゴン達は仕事をしていたりしていますが、今日いるドラゴン達はそれとは違い各自が様々な鎧や冑を着けてまるでこれから戦争にでも行くような様相です。


「何かあるのでしょうか?」


しかし、よく見るとその重々しい見た目とは裏腹に側にいるドラゴンの飼育員さん達は明るい表情で互いのドラゴンを見せあいながら談笑しています。


「何処かで戦闘がある…………という感じではありませんね。」


そうこうしている間に目的地の一つである。

肉屋さんに着きました。


「おはようございます。」

「おう。ティーアちゃん!今日も元気かい?」


肉屋のおじさんはティーアが挨拶すると威勢よく返事を返してきました。


「はい。とっても。ところで今日は何かあるんですか?ドラゴンが普段より多いみたいですけど…………」

「何だ、ティーアちゃん知らないのかい?」

「はい?」

「今日は品評会の予選会だよ。」

「あ…………なるほど。」


ティーアはすっかり忘れてました。

何しろ最近はそんな事を考えると間もないくらい毎日が忙しかったですから。

そんな時期であることもすっかり忘れてました。

年に一度、国をあげて盛大に行われるドラゴンの品評会ですが、ドラゴニアではより多くの優秀なドラゴンとその飼育員を集めるために参加資格がとても緩くなっています。

参加資格は本人が卵から育てたドラゴンであること。

基本的にはこれだけです。

年齢も階級も関係ありません。

ですから毎年多くの参加者が出場を希望します。

しかし、ある時期から参加者が多くなりすぎたためそれ以来毎年品評会前に予選会を行いそれに合格したドラゴンと飼育員だけが本選の品評会に出られるのです。


「ティーアちゃんはまだ見習いだもんな。これからこれから。」


ティーアと肉屋のおじさんとの会話に入ってきたのは隣にある魚屋のおじさんです。


「なんてったってあの金等級飼育員のアスカの弟子だ。きっと大成するにきまってらあ。」

「そんなの分かってるわ。横からちょっかい出してくんな。」

「何だと!」

「やるかこら!」

「……まあまあ、お二人とも。」


もはや、恒例行事というべきかこの二人はまたケンカを始めてしまいました。

ティーアはだいぶ見慣れてきたのですが最初は本当にびっくりしました。

なので最近は対処法も学んできました。


「…………買わないで帰りますよ。」

「「はっ!!ちょっと待って!」」


二人で合わせたかのように見事に反応します。

本当は仲がいい二人なんです。


「ふふっ、冗談ですよ。鶏肉を三羽分下さい。」

「あいよ。すぐ出すよ。」


肉屋のおじさんはバタバタと奥に入ってしまいました。

物凄い焦りようです。


「ティーアちゃん…………こっちは?」


声をかけてきたのは魚屋さんです。

アスカさんには言われていないので買う予定はありません。

どうしましょう?

でも、アスカさんの料理が失敗した時の予備も考えたいですし、もし使わなくても塩漬けにしてスープにしてもいいです。

はあ、ここはティーアが大人になりますか。


「…………じゃあ、お魚を二匹ください。」

「あい。待ってな!」


余程嬉しかったのか飛んでいくようにお魚を取りに行きました。

…………売れてない訳ではないですよね?


「ありがとうございます。」

「おう。またおいでよ!」

「こっちもな!」

「はい。また来ます。」

「「気を付けてなー!」」


二人にお礼を言うとティーアは、次のお店を目指しました。

今日もしっかり二人はおまけをくれました。

毎回毎回とても助かります。


「後はブドウ酒ですね。」

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