飼育員さんの別れ(1)
今日からまたよろしくお願いします。
飼育員さんの1日の続きです。
一週間というのは長いようであっという間でした。
ティーアはその日は普段より早く目が覚めました。
「うっ、ううう、朝ですか?」
窓から外を見るとまだ日が登り始めたばかりなのか朝焼けがとても眩しいです。
地平線の向こうが真っ赤に染まっていました。
「今日も天気は良さそうです。洗濯物が片付きそうです。」
ここ二三日は天気が良く洗濯物も良く乾きます。
昨日洗濯はしてしまったので今日はする必要もありませんが、天気のいい日は必ずそう思ってしまいます。
「はあ、いよいよ今日なんですね。フラミーさんが来る日は。」
そうです。
今日はフラミーさんの約束の日です。
つまりは今日でミーアがここからいなくなってしまうのです。
この数日は普段と変わりなく普通に過ごしてきました。
しかし、やはり今日は少し違います。
ティーアの気持ちもこの気持ちのいい朝とは裏腹に少し重いです。
「ダメです!ダメです!こんな気持ちでミーアを送り出してもミーアは喜びません。」
ティーアは自分を奮い立たせました。
そうです。
最後までティーアがしっかりしないとダメなんです。
自分を奮い立たせたところで着替えを済ませると竜舎へとむかいました。
「よし。頑張ります!」
一つ気合いを入れてティーアは竜舎に入りました。
勿論、中はいつも通りの光景が広がっていてティーアは一匹ずつ声をかけながらご飯をあげます。
勿論、いつも通り最初はミーアからです。
「おはよう。ミーア。今日はこの後移動なのでご飯は少なめだよ。フラミーさんの所に行ったらもっと貰いなよ。」
「フーフー」
普通ドラゴンを移動させるときには前日から食べる量を減らします。
これは少しでも軽くするのと移動時にストレスを受けにくいためだと言われています。
フラミーは普段より少ない食事量で不満げですが、ここは我慢してもらうしかありません。
「……今日でここのご飯も終わりです。よく味わいなさいよ。」
「ケーケーフー」
「ミーア、味わいなさいよー。」
ティーアの投げかけも虚しくミーアはすぐにご飯を食べ終えてしまいました。
昨日から量が減らされているせいで足りないのでしょうか?
可哀想な気もしますが仕方がありません。
「また後でね。ミーア。」
「フー。」
最後に少しミーアの頭を撫でました。
ミーアは少し気持ち良さそうに目をつむりました。
その後のコクル、ヤット、コックは普通通りにご飯をあげて朝のドラゴン達のご飯は終わりです。
気合いを入れてやった割には普段とあまり変わらずなんとなく肩透かしをくらったようですが、気を取り直していきましょう。
ティーアとアスカさんの分のご飯を準備すると次はアスカさんを起こさないといけません。
昨日までアスカさんはやはり普段と変わらない雰囲気でした。
まあ、アスカさんは色んなドラゴンを送り出していますし、あの性格なら対して影響は無いでしょう。
「アスカさん!朝ですよ!起きて下さい!」
…………コンコンとドアをノックしますが返事がありません。
やはり、寝ているのでしょうか?
「ア・ス・カさん!アスカさん!」
今度はゴンゴンと強めにドアを叩きます。
…………やはり返事がありません。
今日は余程強情な日なのでしょうか?
ミーアの最後の日なのになんて人なのでしょうか。
こうなれば危険ですが強行突入しかありません。
以前に一度だけやったことがありますがほぼ寝ていたアスカさんにひどい目に遭いました。
あの時の衝撃は忘れられません。
ミーアは全てを失うかと思いました。
ですので、ここは慎重に行きます。
「アスカさん。入りますよ。」
ギィーと静かにドアを開けて中に入りました。
「アスカさん。起きて…………あれ?」
ティーアは部屋に入って驚きました。
アスカさんは部屋にいませんでした。
ベッドの上の毛布は綺麗に折り畳まれていました。
他は下着とか服が散らばってはいましたけれども。
「アスカさん…………どこ行ったんでしょう?」
今までこんなことはありませんでした。
どうしたのでしょうか?
まさか、ミーアとの別れが辛くて居なくなってしまったのでしょうか。
まさか、アスカさんに限ってそんなことは考えられません。
「アスカさーん!アスカさん!何処ですか?」
家のなかを探しましたが、何処にもアスカさんはいませんでした。
本当にどこいったのでしょう?
ティーアは外まで探してみることにしました。
「アスカさーん!アスカさーん!居ませんか?」
「何ー?ティーア?」
あれ?
何処かからかアスカさんの声がしました。
しかし、辺りを見回しますが何処にもいません。
「アスカさーん!何処ですか?」
「ここ、ここ!」
「えっ?」
アスカさんの声のする方を見てティーアは驚きました。
なんとアスカさんがいたのは家の屋根の上だったのです。
なんて所にいるのでしょう。
「アスカさん!何やってるんですか!?」
「ん?…………えーと、朝日が綺麗だったから、つい。」
「ついって………さっさと降りてください。危ないですよ。」
「うん。そろそろ降りようと思ってたところ!」
全くどこから屋根に登ったんでしょう?
少なくともティーアには絶対出来ないことです。
「えっ?」
すると、アスカさんはあろうことかするすると屋根から降りると天井裏の窓に入っていきました。
そう。そこはティーアの部屋です。
それに気が付いた瞬間、ティーアは自分の部屋に全力で走っていきました。
「アスカさん!」
「ああ。ティーア。おはよう。」
ティーアが自分の部屋に行くとちょうどアスカさんがティーアの部屋から出てきたところでした。
「おはようじゃないですよ。何やってたんですか?」
「ん?だから、朝日を見てたの。」
「…………朝日って何時からですか?」
「んー。暗い内から。」
アスカさんはけろっとした顔で答えました。
暗い内からって………それに、まさかではありますが。
「…………もしかして、ティーアが寝てる間にティーアの部屋の窓から出たんですか?」
屋根に登るにはティーアの部屋の窓から出るしかないはずです。
暗い内からとなるとティーアが起きた時には日が登り始めていたので必然的にティーアの寝てる時に入るしかあり得ません。
「うん。でも大丈夫だよ。ティーアの寝顔しか見てないから。」
「やっばりですか!もう!何やってるんですか!」
結構な重大事件です。
酷い顔で寝てたとしたらどうしましょう。
見たのがアスカさんとはいえ恥ずかしいです。
「ごめん、ごめん。でもいいじゃない。お互い知らない中じゃないんだし。やっぱりティーアは寝顔も可愛いよ。」
何が知らない中じゃないですか。
ティーアにも見られたくないものくらいありますよ。
「…………はあ、もう止めて下さいね。」
「はーい。」
もう、アスカさんには本当に困らされます。
こんな日になんてことをしているのでしょうか?
今日がミーアのここで過ごす最後の日だということを忘れてるのではないでしょうか。
「…………他には何もしてませんよね?」
「うん。大丈夫。で?用事は何?」
「…………朝ごはんです。」
「うん。ちょうどいいね。お腹も空いてきたところ。」
「…………そうですね。……行きましょう。」
朝からあんな運動をしていればお腹も空くでしょうとティーアは思いながらアスカさんを食卓へと連れていきました。
「ねえ、今朝は何?」
「今朝は、ライ麦のパンとニンジンスープです。」
ニンジンスープは最近街で教えて貰った新しい料理でした。
前に作った時にアスカさんに気に入って貰ったので食卓では再登場になる料理でした。
「うんうん。いつもティーアのご飯は美味しそうね。」
「ありがとうございます。」
「いつもいつも、色んな料理が出てきて凄いよね。流石、私の子ね。」
「………………アスカさんの子供は苦労が絶えませんね。」
本当に心からそう思いました。
ティーアだって一応アスカさんのためを思って日々お料理も勉強しているのです。




