断 ~ 不完全な核 ~
学者たちは、とうとう、辿り着いた。
オクラスの監視から、逃れる術式。
だが――
「一時間しか、持たぬか」
「力の理が解けぬ限り、これ以上は無理だそうだ」
「……一時間あれば、十分だ」
「グロストは?」
「あの砦に、気配はない。いるのは、ヴォルガスと、デミウルゴス」
「あれのいない、今しかない」
賢者は、地図の一点に、指を置いた。
「部隊を、砦まで一時間の地点へ、進める」
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夜。
砦に、魔物がひしめいていた。
まず、念話の術式が、部隊に行き渡る。
次いで、賢者が、一人、また一人と、気配を消していく。
声もなく、足音もなく、兵たちが、闇に溶けた。
号令は、音にならなかった。
全員の頭の中を、ただ一言が、走り抜けた。
――今。
魔物の群れを、縫う。
誰にも見えない。誰にも、聞こえない。
一気に、本陣の二柱へ。
魔法使いたちの火球が、同時に、夜を割った。
「なんだと?」
「オクラス!」
返答は、ない。
すべてを視る眼は、その夜――何も、視ていなかった。
炎が二柱を呑み、剣士たちが、斬り込む。
支配の声も、歪曲の掌も、視えぬ敵には、届かない。
一瞬の、出来事だった。
勝った。
誰もが、そう思った。
その時。
崩れかけた二つの黒が――流れた。
水のように、互いへ。
混ざり、膨らみ、ひとつに、なる。
二柱が、一柱に。
一回り大きな悪魔が、そこに、立っていた。
賢者は、思い出していた。女神様の、言葉を。
――元は、悪魔は、一柱だった。
まさか。
戻れる、のか。
兵が、薙がれていく。
背後では、魔物の群れが、我に返る。
賢者は、死を、覚悟した。
その足元で、一人の魔法使いが、血の中から、腕を伸ばした。
「核が……不完全、だ……」
それだけを言い残し、息絶えた。
核が、不完全――?
賢者は、選んだ。
死の名誉では、なく。
気配を消す術式を、もう一度、己に掛ける。
仲間の骸の間を、たった一人、駆けた。
その姿は、誰にも、見えない。
その慟哭も、誰にも、聞こえない。
持ち帰ったのは、ただ、一言。
――核が、不完全。
その不確実な、たった、一言。




