第十二話 『部隊長の資質』
戦闘が始まった様子を、『雪』は冷ややかな眼差しで見ていた。
「――少しは期待していたのだけれど、残念だったわね」
『雪』が『残念』と言ったのは志賀の能力に対してではなかった。
問題は、能力ではなく判断力に向けられたものであった。
『雪』は当然、この作戦が失敗に終わることは見えていた。
このような開けた戦場において、敵を強烈に誘引する権能を有する縁を背後に置いた状態で、志賀が囮を務めることなど不可能であったからだ。
「指示をしたのはボクだけど、あの子も可哀想ね」
『雪』と縁は、当然『甘露』の危険性は知っていた。
しかし、縁が志賀に自身の権能の作戦上の不都合を伝えることは『雪』に禁じられていた。
これまでの生活の中で十分類推が可能な危険性であったからだ。
「素直なのは良いことなのだけれど、これじゃあまだ部隊長は無理ね」
少し呆れたように『雪』は吐き捨て、縁が狙われ始めた様子を見て本格的に魂を回収する準備に移る。
――しかし、まだ飛び出そうとはしていなかった。
ここからまだ二人が勝利出来る道筋があったからだ。
◇◇◇◇◆
「――縁さんッ!!!」
突然のことに正気を取り戻し、呆気に取られている禄助の隙を突いて、志賀は縁を抱き上げて退避する。
縁の左腕は切断されており、生々しい傷口に思わず目を背ける。
「ごめん――、ごめん――! 俺の考えが甘かったばかりに……!」
「……大丈夫です。志賀さんが無事でよかった」
焦燥している志賀の頭を、縁は優しく右手で撫でる。しかし、縁の左腕はまだ再生しない。
神人の受けた傷は全身に分散される筈であった。明らかな実力差のある宮と志賀であっても霊器や拳が身体を貫通することはあっても切断されることはなかった。
――たとえ神人でも切断された部位は元に戻らないのでは。
そんな想像が働いてしまった志賀はこんな愛らしい少女に取り返しの付かない傷を負わせてしまったという自覚が芽生え、吐き気を催す。
「『雪』様に……、いや、明星家の皆になんて言えば……!」
「心配いりませんよ、大丈夫です」
「大丈夫な訳が……!」
強く責任を感じている志賀に対して、もう一度縁は優しく微笑む。
「大丈夫ですよ。だって、ほら――」
そう言った直後――、志賀に抱きかかえられていた縁の身体は血飛沫と共に爆ぜる。
――一滴の血も志賀に付けずに。
「……え?」
呆気に取られる志賀。
冷静に考えれば、縁の防御能力は極めて低い。禄助の攻撃の一撃で既に死んでいてもおかしくはなかった。
しかし、肩を落としていた志賀の前に光が集まると、それは縁の姿を形作る。
「なっ!?」
志賀が驚いている内に光の中からは五体満足で服も元通りとなっている縁が現れた。
「ふぅ……。やはり、実戦で使うのは緊張しますね」
縁が左手を数回握りつつ再生した体を確かめる。
「こ、これは、一体……?」
「術技、『自切』です。耐久値の半分を犠牲に、魂と肉体を一時的に切り離し、あらゆる損傷を一度だけ肉体ごと捨てる術です。連発は出来ませんが、いざという時の緊急回避として使えます」
「そ、そんなものが!? よ、良かった……」
初陣でいきなり引退級の大怪我を負わせてしまったと思っていた志賀はその五体満足の姿を見て安堵する。
距離を取られて『甘露』の影響下から抜け出した禄助は左腕が復活した少女を見て『テメェ等、またハッタリかよ!』などと怒った様子で叫んでいる。
「丁度、運よく距離が取れまして、振り出しに戻りましたね。ここから、反撃しましょう」
縁は立ち上がり、両手でしっかりと幣杖を握り締める。
しかし、耐久――即ち生命力の半分を失った縁の身体は震えており、額から冷や汗も見える。
もう一度、縁が敵の射程に入れば彼女は一瞬で挽き潰されてしまうだろう。
「――分かった。二人で勝ち切ろう」
志賀は今一度、気持ちを切り替えて集中する。心情的にも戦闘的にも、ここで縁を傷付けさせる訳にはいかない。
当初の陣形を更に極端な物に変え、数百間も後方に待機するように指示を行った。
(連携は難しいが、とりあえず俺だけが狙われる状況を作る!)
(何だ……? 女を逃がしたのか? 丁度いい、厄介なあの女さえいなければ問題ない)
禄助は志賀を完全に侮っていた。
謎の権能によって暴走していた禄助に対し、その隙を付いて仕留めることも出来ず振り回され、少女を庇うことしかできなかった少年を見ていれば無理もないだろう。
(俺達に勝ち筋があるとすれば、奴の防御の低さ――。攻撃面はカラッキシの俺でも、その上で更に最低限の攻撃力しかない巫傘での足払いが『通った』。ここに勝機を見出すしかない!)
志賀は見せ掛けの防御の構えを解き、傘を閉じて騎槍のように構える。
巫傘・凍雲の穂先は奇しくも坂郎会の拠点に潜入したあの日、怨敵を殺すために用いた『銀の杭』に似ていた。
「来いッ!」
「言われなくても行ってやるよォ!」
激しい拳撃とそれを弾く音が草原に響き渡る。
拳の正面には傘を当てないよう、細心の注意を払いながら拳を避けていく。
(真正面を防御すると、覇身はそれを貫通してしまう……! 徹底的に側面を狙うんだ!)
志賀の防御行動は、あくまで軌道を逸らすためのものだ。いかに防御力の低い禄助であっても、それだけで損傷を与えることはできない。
(クソッ……! 何で当たらねぇ!?)
苛立つ禄助は大振りの拳打を放つが、志賀に躱されてしまう。
そして、その好機を志賀は逃さない。
(――ここだ!)
志賀の槍のような一撃は無防備な脇腹に突き刺さる。
「ぐうぅ!?」
対只人であればこれで決着が付いたかもしれない程の弱点への一撃。
しかし、これは神人同士の戦いである。
「小賢しいわ!」
「!」
即座に手刀の横薙ぎが空を切る。
心臓や脳を直接刺せない限り、神人においては柔らかい部位も硬い部位もそれ程関係はない。
それを、つい先程学んでいた志賀は油断することなく、辛うじて回避する。
「あああああぁぁぁ!!!」
怒りで頭が煮えている禄助は拳を振り回し、志賀を追い掛けていく。
明らかな自棄による攻撃――。しかし、それでも志賀は当たる訳にはいかず。必死に回避を繰り返す。
(本当にあの日みたいだ――)
志賀は、坂郎会の首領、利根 煬大と只人の身で戦っていた時のことを思い出す。
志賀を鬱陶しく思っていた煬大は武器である銃を乱射していたのであった。
あの時は銃の残弾が少なくなるにつれて、徐々に正確に狙いをつけるようになっていたが、目の前の男は我武者羅に乱打を繰り返す。
(拳に残弾はないからな。ずっとこのまま乱雑な攻撃を繰り返すだけだろう)
しかし、志賀は徐々に後方に追い詰められていく。
攻撃が命中する気配はないが、集中力の限界に達しつつあった。
「くっ……」
「辛そうだな、『葬儀屋』! 他人を弔う前に自分が死ぬんじゃねぇか!?」
「……五月蝿いな『格闘家』。もっと技を磨いてから出直せ!」
悪態を付き合いながらも戦場は動いていく。
当初の禄助が隠れていた場所からは大きく離れた場所で二人は戦っていた。
草原から外れ、戦場は岩場に移る。
「うわっ……!」
「貰ったぁ!」
平地から外れたことで、志賀は体勢を崩される。その隙を見逃さなかった禄助は拳を振り下ろす。
「ぐうぅ!」
「チッ! これも避けるのかよ!」
志賀は必死に巫傘を振り回し、拳の軌道をずらす。しかし、最早体勢は完全に崩れてしまっている。
「まぁ、良い。これで終わりだ!」
倒れている志賀に向けて、禄助が飛び掛かる。禄助の両足が大地から離れ、宙に舞う。
その時、不意に禄助の鼻腔を甘い匂いが満たす。その直後であった――。
(『二人で』勝ち切る……!)
「やあああぁぁぁ!」
「何ィ!?」
岩陰に隠れていた縁が飛び出す。同時に大きな光の球が禄助へと迫る。
宙に居た禄助は回避することは出来ない。
「ぐ、うわああああぁぁぁ……――!!!!」
凄まじい熱撃が禄助にまともに命中する。
そのまま禄助は大きく側方に投げ出される。
「――良しッ! ありがとう、縁さん!」
「はい! 上手く行きました!」
普段、表情の固い縁が笑みを浮かべる。
――全ては作戦であった。
志賀は大きく離れた岩場に縁を待機させ、回避に専念することで劣勢を装って禄助を誘導したのだ。
不安定な足場で禄助の跳躍を誘い、回避不可能な状況で確実に仕留める――。これが狙いであったのだ。
「縁さんは狙われると不味い! 今の内に逃げてくれ!」
「はい! ご武運を……!」
志賀はまだ敵が生きている可能性を考えて縁を今度こそ退避させる。
縁が岩場を跳び上がるのを確認し、ふぅっと一息吐く。
そうして、禄助が吹き飛ばされた場所に振り返ろうとした。
「――戦技……『疾風脚』――ッ!!!」
反応出来なかった。
否、想定出来なかった。
その一撃は音の速さなどという次元ではなかった。
「――ごぼっ!?」
技の名を聞くよりも早く、志賀の身体は崖に激しく打ち付けられていた。
「――志賀さん!」
「ぐっ……駄目だ! 逃げろ!!!」
遠くから悲痛な声が聞こえる。しかし、志賀は助けを拒む。
「――やってくれたなぁ。テメェだけは許さねぇ」
そこには全身が黒焦げとなっていた禄助が立っていた。
全身はボロボロであったが、それでも身体と衣類は再生していく。
ゆっくりと元の姿が現れるさまはまるで無敵の怪物であった。
「女は逃がしたか。どうせ、助けでも呼んで来るんだろ。だが、テメェだけは道連れだ! 死ね――!」
動けないでいる志賀に対し、再び禄助は飛び掛かる。
今度は邪魔は存在しない。志賀は必死に巫傘を薙ぐが、腕ごと大きく弾かれる。
「ぐあっ……!」
「はぁ、テメェみてぇな女をチヤホヤする奴等が俺は大ッ嫌いなんだよ。女っていうだけで無条件に愛されやがってよッ! 俺がどれだけ苦労したかも知らねぇで!」
禄助は殴打を繰り返す。少しずつ志賀の防御の隙が突かれ、殴り飛ばされていく。
そして、遂に胸倉を掴まれ、高々と掲げられる。
「オラッ! 死ぬ前に何か言ったらどうだ? 何も苦労を知らずに生きて来たボンボンがよ!」
「……。何か勘違いしているようだな。俺は別にあの子を守りたくて逃がした訳じゃない」
「ヘッ! 女をチヤホヤする奴は皆そう言うんだよ」
「……勝負は決した。早く殴れよ。だが、お前が勝った訳じゃない」
「減らず口を! テメェがここで死ぬことに変わりはねぇ! 俺を殺しに来る奴がここに来るまでに、テメェの魂を見付からねぇ所に捨ててやるよ!」
禄助はそう言いながら、自棄の拳を志賀の頭に振り下ろす。
志賀の頭は脳ごと潰れ、肉体が維持できなくなった彼はそのまま魂になる。
――筈であった。
――ガキイイイィィィィン!!!
「は……?」
その拳は、志賀の頭を確かに捉えた。しかし、拳が頭蓋骨に潜り込むその直前、六角形と五角形を組み合わせたような半球状の青白い障壁に阻まれた。
その直後――。
「ぐ、ぼおおおぉぉぉ……――?」
禄助の腹部には志賀の巫傘が深々と貫かれていた。
同時に肉体を保てなくなった禄助の身体が光に溶けていく。
「言っただろ? 勝負は決したって」
「なん……でぇ……」
禄助は消えゆく身体で志賀を殴り付けようとするが、拳はすり抜けるように当たらない。
「俺も、縁さんのをよく見ていなかった義理で言えたことじゃないけど、他人の権能はしっかり見ておいた方が良いぞ」
「な……ぁ……?」
そう、志賀には勝算があった。志賀個人が現在所持している権能は『冥加』、そして、『復讐』――。
幸運の極めて高い志賀は禄助程度の幸運の相手であれば、ほぼ確実に『冥加』を発動出来る。そして、『冥加』が発動した際には志賀の耐久は極限まで減少している。それにより、生命の危機に乗じて攻撃力が上昇する『復讐』の権能が発動したのだ。
元より、瀕死の禄助がその一撃に耐えられる筈もなかった。
「そうそう、縁さんを逃がしたのは本当に別にあの子を守りたかったからって訳じゃないんだ。あの時点で近接攻撃しか能のないお前に勝ち目はないって分かってたから標的が逸れて無駄な消耗を避けるために逃がしただけ」
「そ……ん……な……」
「そもそも、あの子は守らなくちゃいけない子なんだけど、戦闘力だけ見れば俺よりずっと強いんだよ。お前の想像は的外れだ!」
「……ぁ……」
志賀の言葉に絶望の表情をしながら禄助は消えてゆく。
「……そして、不幸なのはお前だけじゃ……ないんだよ」
その言葉を最後に聞き、禄助の肉体は完全に消滅する。その場には白い浮遊する球のような物が残された。これこそが、神人の魂であった。
「――勝ったぁ……」
禄助の肉体が完全に消滅することを確認してから、志賀はどさりと岩場に倒れ込んだ。
「……今の衝撃で俺も死んでたら大笑いだったな」
志賀は自分の右手に持っている物をちらりと見る。
瀕死の志賀に対し、主を守り抜き、止めを刺したその霊器は激戦など想像できない程、信じられないほど美しく、傷一つ付いていなかった。
『絶対、霊器を放すな!』
「ははは……。ちゃんと守りましたよ、『雪』様」
今日の勝利は先週から今日にかけての『雪』の指導によるところが大きい。
『冥加』の習得の推奨も、帰宅してからの訓練も、全て今日の勝利へと繋がっていた。
暫く倒れていると、二人の人影が近付いてきた。
一人は縁、そして、もう一人は『雪』であった。
「良くやったわ志賀。縁の権能を完全に想定の外に置いていたのはいただけなかったけど、それ以外は完璧な初陣よ」
『雪』はいつもよりも声を弾ませて志賀を労いつつ回復薬を丁寧に振り掛ける。
ある程度勝利する可能性はあったとはいえ、初陣でここまで機転を利かせられるとは思っていなかったようであった。
「……ありがとうございます。ですが、幾つか良いですか?」
「ん? なぁに?」
『雪』は志賀に振り掛けた回復薬をまるで泥遊びでもする子供のように、ぺたぺたと塗り広げていく。
普段の氷の女帝のような雰囲気とは随分と異なるが、機嫌のいい時はこういうものなのだろう。
「……幾ら何でも求めすぎ」
「うっ」
「俺は人一倍向上心はある方だと自負しています。ですが、流石に今日のコレはちょっと勘弁してくださいよ。冷静に考えたら俺、今日、初期職得たばっかりですよ。何でそんな状態の人間を初戦に行かせといて完璧な対応を求めようとしているんですか?」
縁が隣で顔を伏せて笑っている。縁も理不尽には耐える方であったが、流石にやりすぎだとは思っているようであった。
「ボ、ボクが後ろに控えているから良いかな……って」
「良くない! 月曜日と火曜日以外の人格が甘いのは確かですけど、幾ら何でもやりすぎ! 全部が厳しいならまだ良いんですよ! 何でこの二日間だけ激烈に厳しいんですか!?」
実際、宮の人格の中で厳しく指導するのは『雪』と『焦』だけである。他の五人格はあまりやる気を感じられない。
しかしながら、その二人格に関しては逆にあまりにも対応が厳しすぎる所があった。
先週の『冥加』の習得に関しても、別に無理に火曜日に済ませる必要などなかったのだ。
「兎に角! 教えていないことを現場でやらせるのは事故の元! 『宮』様に託されて焦る気持ちも分かりますが、もうちょっと長い目で見てくれませんか!?」
「……はい。ごめんなさい」
『雪』は涙目になりながら萎れてしまった。
意外な脆さに志賀は罪悪感を覚える。
「逆に、他の人格には少し厳しくするように言ってもらえるとありがたいです。俺も、部隊長になるために可能な限り、経験は積みたいですからね」
「……分かったわ。伝わるよう努力する」
『雪』は志賀の機嫌を少しでも直そうと肩や背中をむにむにと按摩している。
(しかし、何でこうも極端なんだろう?)
人格による差異があるのは当然だと志賀は思っている。
しかし、訓練と言えるようなものを行ったのは『雪』と『焦』の二人格に過ぎず、そのどちらもが極端な指導を行う。
(もしかして、この二人格だけが極端、という訳じゃなく、『宮様達』にとっての指導がこういう極端なものであるという可能性もあるのか?)
優秀な軍人が指導者としても優秀であるとは限らない。
最強の頂に辿り着くまでには才能だけでなく、努力も必要であった筈である。
常人には成しえない程の地獄のような鍛錬で内部から変容した末の最強であれば、宮の指導が異常に厳しいことへの説明が付く。
(ただ、宮様にはそんな努力の陰が見えないんだよなぁ……)
宮はどの人格も志賀の鍛錬をしていた『雪』と『焦』を除けば姉妹や屋敷の人間との団欒を重視している。そこに、鍛錬の鬼としての性質は見えてこない。
仕事に至っても現場に出ることは殆どないとされている。
(冷静に考えたら、神倭皇国の港でも白表機関っぽいゴロツキを斃すだけなのに、規格外の攻撃をしていたし、宮様って最強の神人と言われている割に何かおかしくないか……?)
急に志賀は背後に立つ少女のことが不気味に思えて来た。
しかし、それを口にすることは出来ない。まだ、彼は宮のことも、明星家のことも殆ど知らないのだから――。
(今は、考えても仕方ないか……)
志賀は、いずれ宮の方から話してくれることを期待し、口には出さなかった。
「そう言えば、コイツどうします?」
「白菊 禄助の魂ね。本来であれば、国に引き渡して霊器の素材にでもするのでしょうけど、今回は秘密裏に斃した相手だし、こちらでやりたいこともあるからボクが預かるわ」
そう言って『雪』は禄助の魂を磁石のように手元に引き寄せる。
『雪』の白磁のような肌に黒い亀裂が走り、そこから星屑が鏤められた『筒』が姿を現す。
そのまま、その魂は『筒』の中へとゆっくり吸い込まれ、見えなくなってしまった。
(利根 煬大の末路と同じか……)
バラバラに引き裂かれながら吸引された煬大と比べれば、幾分かマシな最期であった。
「――さて、ボク達は早く屋敷に戻るとしましょう。そろそろ日没だから、お姉様が寝てしまうわ」
「そうですね。折角ですので、履修登録にも付き合ってくれるとありがたいのですが……」
志賀は履修登録が完了しなければ士官学校での講義を受けることが出来ない。
折角、授職初日で落伍した犯罪者の討伐という大仕事をやってのけたにも関わらず、学校の講義に出遅れてしまっては本末転倒である。
「私にも手伝えると思います。兵種の方向性は大きく異なりますが、少なくとも半年は基礎的な講義が主となると思いますので」
「分かった。お願いするよ、縁さん」
志賀と縁が共闘したのは今日が初めてであった。
しかし、共に死線を潜り抜けたことは互いを理解する上で大きく先に進むこととなった。
どこか、他人行儀な所があった二人は既にすっかり打ち解けていた。
『雪』から出された試練は理不尽なものではあったが、今日の勝利で二人が得たものは大きかったのだろう。
三人は跳躍し、太陽が完全に沈む前に屋敷へ戻るべく帰路を急ぐ。
少し後ろを跳ぶ『雪』は前を跳ぶ二人の様子を微笑ましく見ていた。
……屋敷に戻った『雪』が夢から大目玉を食らったのは想像に難くない。
<金星 縁>
[個人情報]
種族:神人/性別:女神(未恋)/身長:四尺九寸五分(一五〇〇粍)
所属:葦野国/登録:訓練神人
眷属:向日葵/神力色:飴・向日葵
趣味:料理(強いて言うなら)
好物:何もない真っ白な部屋(場)
苦手:粘着質な物(物)/食事(食)/蛞蝓(生)/幻聴・幻覚・睡眠(事)
生年月日:〇九八〇年〇八月三一日(一七歳)
神人転生:〇九九三年一二月二五日(転生:一三歳)
[基本情報]
属性:陰・陽/性質:微善(+一)/兵種:報時(下級職)
[能力素質]
耐久:凡↓/神気:天↑/膂力:劣-/呪力:優↑
防御:良-/敏捷:秀↑/技巧:優↑/幸運:優-
素質総合:一〇〇/神階:一
[霊器適性]
棍:-/刀:-/鎚:-/鏡:-/礫:-/鐸:劣/杖:凡
槍:-/鎌:-/身:-/傘:-/弓:-/扇:-/璽:-
副:-
[習得権能]
天賦権能:魔眼(一五)・千里眼(二五)・甘露(三五)・絶食(〇)
練達権能:(無)(-)
汎用権能:祈(二)・心眼(五)・八方美人(五)・能面(一〇)
兵種権能:管理
権能限界:九七/一〇〇
※作中現在年月日:〇九九八年〇四月一五日時点
<術技:『自切』>
分類:自己補助、霊属性、罪穢術
肉体を切り捨てて魂を生き長らえさせる補助術。
発動中に被弾した場合、本来受けるはずだった損傷を肉体ごと切り捨て、最大耐久値の半分相当の代償損傷へと置換する。
魂を一時的に退避させ、肉体を消滅・再構築している間は新たな損傷を受けない。
発動後は即座に耐久値を回復させたとしても連続使用は不可能。
極めて強力な補助術であるが、即時解除等の融通が利かない。
たとえ防御を貫通出来ないような弱い一撃であっても反応し、発動してしまうため、使い処には注意が必要。
理論上は神気を伴った宇宙を崩壊させるような一撃でも耐えられる。
<戦技:『疾風脚』>
分類:近接攻撃、天属性、打術(身術)
反撃を許さない雷撃と風撃を伴う超高速の跳び蹴り。
攻撃後は即座に距離を取ることで、反撃をさせずに一方的に攻撃出来る。
また、『転倒』の状態異常を高確率で付与する。
(※転倒:身体能力とは無関係に強制的に体勢を崩される状態異常)
自身の身体能力を遥かに超えた速度の一撃であるが、威力は極めて低い。
志賀は大きく吹っ飛ばされたが、『冥加』が発動するほどの損傷は受けていなかった。
神人の攻撃はいかに神気を込めるかが重要であり、見掛け上の速度・重量・温度等はあまり意味をなさない。




