105 世界の脅威
世界には、人間に敵対すると言われる存在がいる。
魔物、魔族、『魔女』、魔王、魔神。
とにかく魔法以外の魔のつくものは、たいてい人間の敵であるとする。
この場合の人間には亜人も含まれ、エルフや獣人なども含む。
そして、魔族や魔物、魔王らとは別枠とされる『魔女』。
その特徴は、全て女であり、【固有】属性のようなものを扱う。
存在するだけで世界に害がある場合が多く、見つかり次第処刑するべきというのが大半の国での法だ。
もちろん、リュウコも王城で勉強していた際にそのことについては学んだ。
だからこそ驚く。
「彼女は【無冥】の魔女。名前はナディ・エルロン。18歳。処———」
「ぃ!そういうのはいいから!む、無冥ってどういう能力?」
「それは一応、本人の希望で秘匿とさせていただきます。もちろん、旦那様に不利益のある能力ではありませんし、彼女は能力を完全に支配していますし、ちゃんと教育も完了しています。」
スッと社長机の前に歩いて出てきたのは、資料にある写真のままの女性だった。
透き通るような白い肌に、それ以上に真っ白な髪。
受付嬢としての制服は白く改造されており、瞳も虹彩まで真っ白に見える。
「ご指名いただきありがとうございます。ナディ・エルロンと申します。リュー様のお役に立てるよう尽力致しますので、これからよろしくお願いします。」
恭しい態度で、深々と頭を下げられる。
慣れない状況に、居心地が悪いリュウコは、どうにか別な話題を寄越してほしいという雰囲気を出す。
「旦那様はこれから、冒険者の街へ向かうのでしょう?そこでの専属受付嬢としてナディを向かわせます。もちろん、魔女であることは隠していますし、専属についても旦那様に迷惑を掛けない範囲での活動とします。」
「ぇ」
「つまるところ、今までの冒険者生活とさほど変化はないかと思います。もちろん、セイラのような絡んでくる者はいるでしょうけど、旦那様の起こすトラブルはこちらで最小限に収めて差し上げます。」
「……要らん。」
リュウコは、力づくで膝上から脱出すると、社長机の上に立ちランメルを見下ろす。
「過保護はいらない。何をするつもりか分からないから提案は呑むが、完全に好き勝手させるつもりはない。」
「……そうでしたか。それは失礼いたしましたわ。」
少々テンションは下がったが、怒ることもなく受け入れた。
すんなりと受け入れられすぎて逆に怖い。
もう、ここに来てからというもの、リュウコは恐怖しか感じていないかもしれない。
「では、専属受付嬢だけですが、本部に来るまでには色々と整えておきます。もちろん邪魔は致しません。これからも何度か、お呼びいたしますので、その時はよろしくお願いします。」
「できれば少なめでよろ。」
「そうですわ!こちら、旦那様に渡したいと思っていましたの!」
そう言うと、ランメルは右手を左手のひらに押し当てると、ずぶずぶとその中に指先を突っ込んだ。
まるで抵抗も無く、前腕の半分ほどが入ると、まさぐってなにかを探しているような動きをした。
かと思えば、何かを手にとって引き抜く。
「お預かりしていた『星剣』です!」
剣、とつけていたはずなのに、取り出したのは完全に星だった。
ヒトデや、クリスマスツリーの頂点の部分のように見える。完全な星。
ミリのサテライトによく似ていた。
「お返しします!」
「ぇぇ?」
差し出されたそれを受け取って、手の中で観察する。
見る角度で、金色にも銀色にも、青にも赤にも見える妙な色合いをしている。
かといって、金属というよりはプラスチックのような軽さと、硬さと柔らかさを両立したような手触りをしている。
魔力、感じない。他の力も、感じない。
本当にただの星型の何か。
「一応預かっておく。返してほしければ返すけど。」
十分に観察してから、『異界』に放り込む。
そのまま、特に引き止めも無いためそそくさと部屋から飛び出す。
「いつでもお越しください。いつでもどんな状況でも、お待ちしていますので。」
◇◆◇
「こえぇ~」
ギルドから出てかなり離れた場所で、1人そう呟いた。
呼び出されて、突然抱き着かれたあたりからずっと、恐怖が止まらなかった。
なんかよくわからない女に旦那様なんて呼ばれて、魔女が専属受付嬢とか言われた。
もう途中くらいから考えるのを辞めていたし、脊髄反射で話していた気がする。
色々なことがありすぎた一日で、一刻も早く戻って眠りたい気分だった。




