106 小休憩の束の間
ギルドに呼び出された日から5日が経過。
現在リュウコ達は次の街、ギルド本部のある街に行く準備の最中だった。
食料品から消耗品など、最低限程度買い込んでいるが、あくまでも目と鼻の先程度の街に行くまでの途中に必要なものだけ。
それ以外の準備といえば、討伐系の依頼をうけてできるだけ金を稼ぐことだけだった。
ディープロクスとの闘いの傷も完治し、パーフェクトリュウコになったため、自身も戦闘に参加して魔物を大量狩りしていた。
「『魔星』」
「『サテライト』!」
「『ドライブ』!」
それぞれが遠隔か、高速系の技で乱獲する。
エリサだけが、そういった技を持たないため、体力温存と回収に徹してもらっている。
いつ、どこから、どんな強敵が現れるか分からないからだ。
「リュー!そっちに行った!」
サティの声に反応し、『魔星』をオートに移行。『魔力拳』で応戦する。
飛んできたのは、サンシャインバット。獣爪種の光属性系の魔物。
個体数が多くHPが低い、いわゆる雑魚モンスターだが、その敏捷性から採れる素材の希少さが注目の魔物だ。
「ちぇりぁああああ!!」
奇声を上げてコウモリの動きを一瞬止める。
その隙に、殴るのではなく掴んで殺す。
そうすることで羽の部分を分離させて殺すことが可能。
こうして、コウモリの羽と核を手に入れることができる。
「もう袋パンパン。一旦戻りましょう。」
日も傾きはじめ、少しずつコウモリの数が減る。夜になれば、ミッドナイトバットが出てきて、こちらもまた更に高く取引されるが、さすがにリハビリには危険ということで、街に戻ることにした。
リュウコは『異界』に物を収納できるが、その分だけ使用可能魔力の上限が低くなる。
「そろそろ本格的に準備するか。」
「サティとミリ、私とリューでそれぞれ手分けして買い物よね?」
「抜け駆けぇい!!」
「それよりも、役割分担をちゃんとしましょう。」
「そうそう。準備で足りないものがあると大変だからね。」
四人の会話のわちゃわちゃに呆れるリュウコ。
セイラ以外の三人が特に強く反発しあうので、一つの物事を決めるのにも大変時間がかかる。
「———ッ!?」
「やぁ、ずっと一緒に参加していたんだが、やっと気づいてくれたか。」
何故か会話に参加しているセイラに驚くリュウコに、笑顔で挨拶を返す。
そもそも、セイラは自分のパーティを組んでいたはずだ。
「ボクのパーティは活動休止中なんだ。再開予定までまだあと十数日ある。」
「アンタが復活したなら、繰り上げて活動再開したらいいじゃない。」
「……そういうわけにはいかないんだよ。」
「で、リューのストーカーになったってワケ?陰湿ね。」
どうやらリュウコ以外のメンバーは多少気配を察知していたらしい。
特に驚いた様子も無く普通に嫌そうな態度をとっていく。
「まあまあ、別に君たちの邪魔をする気はないよ。ボクもリハビリの一環でしかない。けど、魔物を討伐するのもまだむずかしい。それだけさ。」
なんとも含みのある言い方をするが、とにかく離れるつもりはないらしい。
とはいえ、今までこのメンバーで大丈夫だったということで、一旦話を終わらせて、街の方に戻ることに。
決めた段階で、リュウコ達の前に一つの影がどこからか落ちてくる。
「清算予定の素材があれば、先に預かります。」
「あ、はい」
降りてきたのは、【無冥】の魔女でありリュウコの専属受付嬢のナディ。
既に何度かその対応を見ているため、慣れたように素材を渡す。
専属受付嬢と言うだけあって、身の回りのギルド関連からそうでないことも、色々と手伝ってくれる。
前に、昼飯を用意して持ってきた時は本気でビビった。
既に慣れているとはいえ、最初の頃はエリサの圧が半端じゃなく、エリサ視点で言えばたまの散歩に出たかと思えば、専属受付嬢とかいうものを携えて帰ってきたということになる。
ちょっと目を離したらすぐに女に手を出す男のレッテルを貼られてしまった。
ちなみに、こうやってタイミングを見計らって唐突に現れるのは、受付嬢としての技能であって、【無冥】とは何の関係も無いらしい。
「では、街へお戻りするまでにはお金と明細の用意をしておきますので。」
そう言って、またしても音を立てずに消える。瞬きに合わせて出たり消えたりするから、本当に消えているように見える。
◇◆◇
「少し暗いが夕飯時間までまだ時間があるだろう?少し寄り道していかないかい?」
換金を終えて、時間ができた時にセイラがそんな誘いをしてきた。
ここ数日、まるで認知されていなかったことを取り返すかのような距離の詰め具合。エリサは私用で別行動、ミリとサティは、欲しかった物を買いに一緒に別行動。
必然的に二人きりになってしまった。
「ねえ、このアクセサリーなんか、君に合うと思わないかい?」
「……なんとも。」
そもそも戦闘に邪魔になるので、基本的に着けない主義。
「これ、気に入ってくれると嬉しいんだが。」
なんだかんだと見ていたら、いつの間にかセイラが1つのリングを差し出して来た。
金属製の質素な指輪。少しだけ太く、関節間の半分程度。
魔法的な効果は特にない、本当にただの指輪。
ちょうど良い大きさなのは人差し指。今までつけたことの無いアクセサリーに違和感はあるが、 フィット感が良く慣れるまで時間はかからないだろう。
「ふふ、似合っているね。」
「けど、俺は拳を使って戦うんだ。これが傷つかないかが心配だ。」
「……そうだね。では、ボクの魔法をかけておこう。」
そう言うと、セイラは指輪に『紋』を刻み始めた。
内容は知らない文法の物で、リュウコには読めなかったが、確かな魔力を感じる。
「これで、この指輪は簡単には壊れない。それに、もし壊してしまっても大丈夫。またプレゼントするさ。」
そう言いながら、指輪にそっと、触れるようなキスをする。
それが術式の完成に必要なものだったのかは定かではないが、それによって『紋』は刻まれた。
「ありがとう。」
「————ふふっ、喜んでもらえたなら何よりだよ。」
少し紅潮した頬に、見下ろしているハズの上目遣い。
その妖艶さに少しドキッとしたリュウコは、少し目を背け、視線を誤魔化した。




