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悪魔転生奇譚Ω  作者: 草間保浩


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102/105

102 腰抜け

「『銀光剣』の基となったボクの母は、【銀光】という【固有】属性を持っていた。」

「……続けてくれ。」

「君も見たように、全てを貫く銀の光。貫通特化の【固有】属性。そして、ボクを愛して、ボクの代わりに死んだ。その時に、人が魔剣に成るのを見た。」

「————」


 実際に目の前で見た。そういうことであるのなら、その仮説に信ぴょう性はある。

 セイラの話を全て鵜呑みにするという前提があるのなら。


「デメリットがあるのは、なんでだ?娘がデメリットを無視できるにしても、『銀光剣』にデメリットがある理由が分からない。何の不利益だ?」

「……これも仮説だが、魔剣はより純粋な人間の魂であり、その分矛盾があるのだと思う。」

「……?」

「大好きだから腹が立つ。悲しむと同時に喜ぶ。人の心にある矛盾。混沌とした感情が、より剥き出しになる。みたいなことだと思う。」


善い感情は能力として昇華され、悪い感情は呪いとして縛り付ける。

その両立が行われていると、セイラはつづけた。


「『銀光剣』は持った者の視力を奪う。一時的にだがね。切ったとしてもそれは発生せず、柄を持ち、鞘から引き抜いて、そこで初めて視力を奪われる。そういう剣だ。」

「まだ、全部理解するのは難しいが、面白い話を聞けた。感謝する。」

「なに、敗者は勝者に逆らえない。当然の事さ。」


 妙に殊勝なことを言うセイラ。

それに対して、特に反応することもなく、ミリに視線を移す。


「私はあまり信じられませんね。田舎育ちの狭い見識で恐縮ですが、そもそも魔物と人間を一緒に考えることが難しいです。」

「デスヨネー」


 魔物と人間を、同じ生物として見る人は圧倒的に少ない。

現代日本のような、多様性が認められ受け入れられる社会だったとしても、動物と人間を同一視しようものなら、流石に否定される。

 この理論を仮説としてでも受け入れるのは、リュウコが異世界人だから。だけではないかもしれないが。 


「面白い話だった。」

「む」

「そうかい、なら良かったよ。」

「むむ」


 妙に距離感の近くなった二人に、話の合間を見て椅子を再び同じ位置、セイラに被る位置に戻す。

 これ以上の会話は許さないと、言外に示しているのだ。

今日の会話はこれでお終い。

 サティとエリサは会話を許してはくれないだろうから、最低でもここから二日間は喋ることができず、恐らくそのまま退院になると思う。

 できることならもう少しだけ話を聞きたかったのだが、リュウコはそのまま眠たくもないまま瞼を閉じた。


◇◆◇


「で、どうするのかな?」

「———なにが」


 声に反応し、目を覚ますと、部屋の中は真っ暗で、セイラの声だけが聞こえてきた。

 窓から覗く星明りだけが、ほんのりと室内から見える。


「君たちのこれからだよ。ギルド本部に向かうのだろう?」

「そうだけど」

「ボクも連れて――」

「絶対に断る。」


 もぞっと、少しだけ寝相を正すと、続きを話す。


「理由は特に無いけど、多分これからの旅でお前とは上手くいかない。確信がある。」

「————フラれてしまったね。まあいいよ。これも想定済みだから。」


 少し声が震えている。

顔は見えないし、見る気も無いが。


「命令権を持つのは君だからね。何を頼むか、はやく教えてほしい。」

「……明日で」


 何を頼むのかをリュウコは考えていない。

というよりも、エリサたちに頼んでいた。

 何故か昔から、人にものを頼むのが苦手だった。

 これは賭けの報酬ではあるのだが、それでも何となく気乗りしない。


「じゃあ、提案するよ。こんなのはどう?」            


 次の瞬間、雲の間から月の光が室内を照らす。

そこには、三日月を背に見えるセイラのシルエットがあった。

 うっすらと透ける布のカーテンからはっきりと見える体のライン。

 つまり、今、セイラは何も身に纏わず、リュウコとの間にあるのは、薄い薄い布一枚。


「体で払う。こういうのが男は好きなんだろう?」


 唐突なことに、リュウコは何も反応できず、しかしその目は、想像力を掻き立てられる白黒にくぎ付けにされた。


「どうかな?勝者へのご褒美としては、妥当なところだろう?それとも、ボクじゃ細すぎて好みじゃないかな?」


 言葉が続くたびに、少しずつ震えているのが分かる。

慣れているわけではない。恐怖なのかは分からないが、緊張感が伝わってくる。


 こんな時に、どう答えるべきなのか。

答えは一つしかないと、そう思う。



「———zzzzzZZZZZ———」



「……へ?」


 爆速の睡眠導入。眼鏡の少年も驚くほどの速度。

意中の人には絶対に見せられない極度の引け腰。


 つまるところ、超ヤバヘタレ。


どう声を掛けても、今まで聞いたこともないいびきだけが帰ってくる状況に、ついには服を着なおして不貞寝に入ったセイラは、涙と赤面を夜の闇で隠すハメになり、眠たくも無い目を無理やり閉じて朝を待つことになった。





 そんな一幕のあった屋根の上を伝って走る影があった。

それは、フリルのついたドーム状のスカートを靡かせ、メイド服とリクルートスーツの間のようなものを身に纏い、疾風のごとき速度で駆けている。


 それは、リュウコとセイラの決闘の見届け人をしていた、『受付嬢』であった。


 彼女は、夜の闇に紛れながら、ある場所を目指す。

それは、彼女たちの頂点。ボスと呼ばれる、ギルドのグランドマスターがいる場所。


 なぜなら、グランドマスター。彼女の恋人が、街に現れたから。

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