100 死なば諸共
【固有スキル】、【ホワイト・クイーン】の効果は、女性に対して強い威圧感、優越性を持たせ、男に対しては弱く微妙な印象を与える。
つまり、女によく魅せ、男にみすぼらしく見せるという効果のスキル。
それそのものは、強力な暗示というだけで内容を変更することはできないし、内容そのものも都合が悪いとしか思えない。
しかし、セイラはそれを良いように利用できている。
元々男勝りな性格をしていたセイラは、女に対して良く見えるこのスキルを活かして、百合ハーレムの頂点に立っていた。
なにより、突っかかってくる男は、セイラを甘く見積もって、いつだって油断する。
実力差があろうと、経験値に差があろうと、油断してしまえばそれだけで足元を簡単に掬える。
だからこそ―――
◇◆◇
全身を血まみれになりながら、しかし意識を飛ばさずに膝で立っているリュウコ。
油断大敵。そう、油断である。
リュウコはセイラを見誤った。それがスキルによる効果であることを差し引いたとしても、致命的な油断。
痛みと共にそれを理解するが、時間は戻らず、結果は変わらない。
今のリュウコには、身体的なダメージと、足元をすくわれたことに対する精神的なダメージの両方が、酷い重さとなって襲い掛かっている。
「一杯食わされたって感じだ……」
「恥じることは無いよ。ボクはそれだけ全力でキミと戦った。これ以上無駄に傷つく必要は無い。」
「そうだな。」
「では―――」
「———勝負はここからだ。」
リュウコは、【ホワイト・クイーン】によって無意識的に作っていた縛りを破る決意をする。
それは、魔力以外の使用。
しかし、そこまで制限を破るつもりも無く、それは【ホワイト・クイーン】の効果が続いているからなのか、元からなのかは分からない。
つまり、だから、きっと
「?どういう」
「こういうこと」
悠々と、リュウコに勝利宣言をかまし、勝ち誇っていたセイラに対して、リュウコは機敏な動きで足を掴む。
それは、全身に五つも風穴を開けられた者の動きではない。
しかし、事実として動いたリュウコは、目を疑うような膂力に任せてセイラを一投。
上空に放り投げられたセイラは、ぐるぐる回る視界が止まるまで混乱が止まらなかった。
投げられた勢いが消え、重力による自由落下が始まる。
それと同時に、鈍い痛みが足を襲う。
足首と膝と股関節。リュウコに掴まれた足の関節という関節が、遠心力によって脱臼したのだ。
「ははっ、これでダメなら負けてやる。」
「なッ!!?」
見下ろすセイラが目撃したのは、地面に大の字に寝転がるリュウコの姿。
そして、右手を一本、セイラのいる空に向かって突き上げている。
セイラの落ちる真下。つまり、それは
「ふざっ」
落下は止まらない。セイラにそれを止める方法も、軌道を変える方法も無い。
何も成す術が無いまま、セイラの体は地面に吸い込まれ
「———ごぉおっ!!」
「———ぐぅっ」
突き刺さった腕は、手首、肘、肩をぐしゃぐしゃに入れ替え、元々大変おグロいことになっていたものを更に悲惨にさせた。
対して、セイラの胸部、鳩尾にクリーンヒットした腕は、背中越しにも見える程大きな山を作り、セイラの口から血泡が噴き出て白目を剥かせる。
生命に届き得る痛みの中で、セイラは完全に失神した。
リュウコも、ミンチになった右腕の痛みに耐えながらも、どうにか残った左腕を、セイラ越しに突き上げ、勝鬨を上げる。
「白百合のセイラ、気絶!勝者、リュー!!」
受付嬢のコールの後、響いたブーイングと、それに紛れる走ってくる足音。
それを聞きながら、リュウコも残っていた意識を飛ばした。
◇◆◇
リュウコが使ったのは、『宝力』による身体強化の一部の応用。身体操作を、補助でなく直接的に操作した結果である。
肩、腹筋、大腿部、体の損傷が激しく、意識も殆ど消えていたリュウコに取れた最善手。
つまり、かなりギリギリの戦いを強いられたということ。
目を覚ましたリュウコは、そのことを猛省、テンプレ的な絡まれ方をしたことにたいして、浮かれていたと自覚する。
仮にスキルの効果であったとしても、戦いの場でありえない思考、遊び。
「勝ったというのに……ずいぶん悔しそうだね……」
聞こえたのは、苦々しい気持ちのある声。
それは、隣のベッドで横になっているセイラの声。
ガラガラになってはいるが、特徴的なハスキーボイスは誰のものなのかをすぐに理解させた。
「————ッッ!!?」
声のした方を見ようとするが、全身の激痛で身動き一つとれない。
「あの女よりもアンタの方が超重傷だから、絶対安静。旅の続きは延期よ。」
そんなエリサの声を聞きながら、リュウコは再び意識を遠くへ飛ばした。




