99 ダブルシステム
光線のようなものが『銀光剣』の切っ先から伸び、当然のようにリュウコの腕と右肩を貫く。
もう少し軌道がズレていたら肺に穴をあけられていたほど、その剣の貫通力は高く、片腕を使用不可にされた。
もちろん、魔力を込めて操作することは可能だが、リュウコはそれをしなかった。
出血を止めることすらせず、『銀光剣』の動きを見ていた。
「ふふ、ボクの使う魔剣たちはどうかな?もっとも、その腕じゃ今までみたいな動きはできないだろうけどね。」
「————」
「何か言ったらどうなんだい?」
リュウコは返事をしない。
とにかく、『銀光剣』を見続けている。睨みつけていると言ってもいいかもしれない。それほどに、一点の曇りも無く『銀光剣』を凝視している。
「反対の腕も使えなくする。それで終わりだ。」
再び、音も無く光が飛んでくる。
風を切る音も無いまま、リュウコの左肩に向かって飛ぶ。
――ッッ
宣言されていたから。動きから目を離さなかったから。理由はいくらでもあるし、全てが理由の一つではあるのだが。
ともかく、リュウコは悠然と光線による攻撃を避けた。
「!?」
驚いたらしいセイラは、当然慌てて2発3発。追って連射する。
しかし、その全てを紙一重で回避。時には服が掠って散ることはあったが、皮膚は1ミリも触れずに完全に避けきった。
「どういうことかな?いい加減喋ってほしいところだけど。」
「その魔剣、魔力内蔵式だろ。受けた光の魔力とアンタの魔力が全然違うし、何よりラグが激しい。」
通常であれば、魔法を行使する際。言ってしまえば指を動かす時に意識との誤差がどれくらいあるのか。そういう線引きにおいて、『銀光剣』はセイラの感覚とかなりのズレがあった。
というのも、心を読んだとかではなく、その反応速度を見ての推測でしかない。
一度目の回避はただの偶然。しかし、二発目以降ですべてのタイミングが理解できた。
安物のイヤホンを使ってやる音ゲーのように、その挙動全てが異常にずれていた。
そのズレを秒数に表すと、0.1秒。発射されてから着弾までを0.001秒とするのなら、発射前のラグは非常に大きい。
「———ッ!!ならこれはどうかな!!」
左手に挟んでいる二本の魔剣と『銀光剣』を、やたらめったらに振り回す。
それだけでも十分に効果を発揮するほど、魔剣の効果とその価値は高い。
広範囲に、飽和と貫通の両方の性質を併せ持つ弾幕を展開されると、リュウコは簡単には近づけなくなる。
理に適っている。理に適ってはいるが、相手に準備する隙を与えすぎだ。
リュウコはそんなことを考えつつ、3歩だけ後ろに下がる。
紫剣の射程、約10メートル。
紅剣の射程、約12メートル。
銀光剣の射程、約6メートル。
つまり、13メートルの先から攻撃すれば、セイラは魔剣で防御に回る。
「『魔星』」
リュウコの周囲に、球体の魔力が出現する。
高濃度の魔力によって可視化されているその物体は、超高速で軸回転し、空気をキュルキュルと鳴らしている。
そこで、一つの違和感に気づく。
「……?」
自分は何故、棒立ちで剣を振り回しているセイラが、その場から動かないと錯覚していた?
というより、確信に近い何かがあった。
棒立ちで魔剣を振り回す。そんなやつが、エリサたちの警戒網に引っ掛からないほどの猛者なのか?
その疑問の答え合わせは、すぐ目の前にある。
「君が強いことはすぐに分かったよ。だからこそ、全力で行かせてもらう。」
目の前に立ち塞がる。セイラの顔のどアップと、同時に襲い掛かってくる魔剣たちの猛攻。
しかもそれは、むやみやたらに振り回されるものではなく、リュウコの急所、人体の要を重点的に狙ってくるものだった。
◇◆◇
「リュウコ!!?」
観客席で見ていたエリサが、リュウコの出血を見て慌てふためく。
端から見ているエリサにとって、リュウコの様子は明らかにおかしかった。
立ちはだかるセイラは、明らかに強者だった。
どんなに強いのか。その覇気はおそらく上位冒険者のソレであると直感できた。
それなのに、リュウコは一手一手が足りなかった。
一度、背負い投げした時も、倒れたところに攻撃を入れればよかった。
魔力だけでなく、他の力を使って戦っても良かった。
距離を取っただけで、まるで呑気に魔力を練っていた。
最初から最後まで、相手の力量が分かっていないかのようなほどに手を抜いて、当然のように致命傷を受ける結果となっていた。
「なにを――――ッ!?」
出血箇所5か所。展開していた【魔星】も霧散し、膝で立っているような状態になっている。
「アレこそがセイラ様の固有スキル【ホワイト・クイーン】」
セイラ・L・ストライドは、千年に一度の逸材と言って過言ではない。
本来であれば、一つでも持っていれば人生安泰であるという【固有スキル】、【固有属性】、【固有武装】のうち、二つを持っている。
【固有】属性は【魔剣】。
本来であればそれなりに大きな力を持つ魔剣のデメリットを無効化できるというもの。
例えば、銀光剣は扱うために視力を失う必要がある。
例えば、華獣剣は扱うために家族同然の獣を殺して魂を込める必要がある。
例えば、断界剣は扱うために呼吸を止める必要がある。
これは魔剣を手に持っているだけでも、腰に下げているだけでも生じるデメリット。
つまりは、魔剣の数だけ強くなれるという特別。
そして、【ホワイト・クイーン】の効果は――――




