聖霊の宝珠
「おっ」
真昼の港町にある市場。その1画にある円形広場で、行き交う人々の中に、待ち合わせていた人物を見つけると、アルスは手を振り、その名前を呼んだ。
その声に、地図のような物を片手にキョロキョロとしていた少女は振り向き、アルスに気が付くと、笑顔で、その名前を呼び返した。
少女は小さな足を走らせ、出迎えに来たアルスとミーニャに駆け寄ると、「いやぁ、ごめんごめん。船を降りる時の手続きで遅くなっちゃって」
「船場は込み合いますから、仕方ありませんよ」
ミーニャが言うと、アルスは頷き、
「よし、じゃあ行くか」
闇の勇者からの宣戦布告から、ちょうど一週間。
ソロが不在の間、アルス達は闇の勇者との決戦に備え、準備を進めていた。
ミーニャやアルスは、特にシャンジャーニの身を案じていたが、「わしの事よりも、闇の勇者を止めてくれ」という彼女の言葉にその思いを抑え、早くも行動に移していた。
町一番の大きな宿の一室に着くと、ダイガやシエナがソロを温かく迎えた。
再会を喜ぶ中、アルス達は、旅の師であり長い間共に過ごしてきた幼女を亡くしたソロを気に掛けていた。
しかし、ソロは以前仲間であった時と変わらず、無邪気に振る舞い、悲しむ素振りの一つも見せなかった。
そして、再会の挨拶を終えると、闇の勇者との戦いについて、最初に口を開いたのはソロだった。
「聖霊の宝珠?」
聞き慣れない言葉をソロが繰り返すと、アルス達は頷いた。
「あのセアって野郎がしようとしていることは、大軍隊使って、こっちの世界全体に戦争を吹っ掛けようって話だ。だったら、あいつがこっちに来る前に、あの魔界の門を封じて、また来れない様にすれば良い」
「え、え? そ、そんなことができるのっ?!」
ソロがアルスの言葉に驚きの余り身を乗り出すと、ミーニャが頷き答えた。
「光の勇者様から伺い、フォレシアさん達と決めた手段です。かつての聖戦では、光の勇者様お一人だけで魔界の門を初め闇の勇者をあの世界に封じ込める事が敵いました。しかし、今回開かれた魔界の門は、非常に強力なもの。光の勇者様お一人だけでは、あの門を封じる事ができないのです」
ミーニャから話のバトンを受け取ると、シエナが続きをソロに話す。
「そこで、光の勇者様に近しい、闇の勇者に対抗できる力を持った"聖霊"と云われる方々から、そのお力をお借りしようというお話になったんです」
シエナに続き、ダイガがソロに説明する。
「で、その聖霊とやらの力を宿した、聖霊の宝珠って物を、手分けして今世界各地を捜し回ってるってところだ」
「その聖霊の宝珠は、どこにあるの!?」
ソロが訊くと、ミーニャが答える。
「聖霊の宝珠は、全てで7つあると云われています」
ミーニャは、懐から何かを取り出すと、それをソロに見せた。
掌程の大きさの白い珠。水晶のようなその珠の内部は、まるで太陽の光を閉じ込めたかのように、淡く強い輝きを放っていた。
ソロは、差し出された、それを手に取ると、珍しそうにそれを見つめた。
「それが、聖霊の宝珠の一つです」
「ウィルからも、聖霊の宝珠を見つけた、とコンタクトバードで昨日連絡があったんだ。フォレシアからはまだ連絡はないが、恐らくエルダの爺さんと探しているはずだ」
アルスが言うと、ソロは珠をミーニャに返す。
「聖霊の宝珠は、世界に名だたる大聖霊と呼ばれる聖霊が持っています。この宝珠は、光の聖霊から光の勇者様が貰い受けたものです」
「大聖霊は、どこにいるかは、光の勇者でも分からないらしい。光の聖霊からは長い縁で貰う事ができたらしいが、今は伝承を頼りに探すので手一杯なんだ」
アルスが言うと、ソロは首を傾げた。
「伝承?」
「荒ぶる憤怒の渦巻く世界、深き眠りにつく神話の森、時の渓流に在りし神殿、光の統べる神域の世、星々の落つる最果ての地、常闇に浮かびし幻燈の宮殿、蒼き世界に聳えし山の頂。世界の影たる地より、七王、冠する聖なる霊王見守らん。光の勇者様より伺った、歴史の中で忘れ去られてしまった言い伝えです」
「光の聖霊のいる、光の統べる神域の世は、光の勇者が。闇の聖霊のいる、星々の落つる最果ての地は、ウィルが何とか見つけ出すことに成功した。森のことに詳しいフォレシア達には、深き眠りにつく神話の森を探してもらっているところだ。残すは、荒ぶる憤怒の渦巻く世界、時の渓流に在りし神殿、常闇に浮かびし幻燈の宮殿、蒼き世界に聳えし山の頂、この4つ。ソロ、何か心当たりのあることはないか?」
アルスに訊かれると、ソロは、腕を組み考え始める。
しばらく沈黙が流れると、ソロはハッとし、言った。
「もしかしたら、あそこかもしれない」
ソロはそう言うと、アルス達に向き直る。
「南の大陸にある、巨大な砂漠」
アルス達は互いに顔を合わせると、ミーニャがソロに訊ねる。
「それは、巨人たちの砂場と云われる、あの大砂漠のことですか?」
「昔、先生と旅をしていた時、あそこを訪れたことがあったんだ。あの砂漠の奥地にある山脈、あれを越えた先にある地帯――赤の大地」
「赤の大地……?」
重なり出た声に、ソロは頷いた。
「ボクも、実際に行ったことはないんだけど、火のように真っ赤な大地が広がっているって話を、巨人たちの砂場のオアシスキャンプ地で聞いたんだ。大昔、怒り狂った神々の怒りをその大地の中に封じ込めて、鎮めたっていう伝承があの地方にはあって、今でも地中深くで神様達の怒りが渦巻いているから真っ赤になっているんだって」
「神々の怒りが渦巻く大地か……」
ダイガが顎元に手を当て、呟くように言う。
「荒ぶる憤怒の渦巻く世界。確かに、可能性としてはありそうですね」
ミーニャが言うと、アルスも「ああ」と強く首を縦に振る。
「ソロ、俺達をそこに案内してくれないか」
アルスの言葉に、ソロは迷うことなく、頷いた。




