羅北の闘諍4
大剣を構え猛攻するリダイアに、レオーネは押されていた。
攻撃力もレオーネに拮抗する程に高まっている。
緑色の眼球が光を帯び、残像の弧を残す、その素早い動きに続き、巨大な剣の刃がレオーネに振り下ろされる。
レオーネは、斧を両手で支えるようにそれを防ぐと、すぐに斧を振り払うように振るう。
リダイアはそれを防ぐと、地を思い切りに蹴り飛ばし、2,3回回転すると、両手で持った、それを渾身の力を込め振り落とす。
ギィーン、と刃と刃の交じり合う鈍い音が響き渡る。
華奢な体躯からは想像のできない程の力だ。
繰り出された、その一撃は、隕石でも防いだのか、と思わせるほどに強力なものだった。
レオーネの後足が、後ずさりするように地面を擦ると、「クッ」と力を腕に込め、獣のような雄叫びと共にリダイアを押し返した。
リダイアは宙から地に着地すると、喉に上がって来た赤い液体を、プッと地面に吐き、口元を拭った。
その様子に、息の切れ始めたレオーネは、笑みを浮かべた。
「何だァ? かなり強力な剣技を放ってる割には、すでに満身創痍みたいだな」
そうだ。レオーネの最初の一撃でリダイアはかなりの負傷を負っている。
その直後に、身長を越える、あんな大きな剣を片手や両手で振り回しているんだ。
不釣り合いな体には、バカにならない負担がかかっているに違いない。
そのレオーネの推測は、的を射ていた。
既にリダイアの身体の各器官、四肢からは悲鳴が上がっていた。
しかし、
「確かに普通の猛者であれば、お前の読み通り、この剣で連撃を繰り出すことは捨て身の技であろう。だが、金色の勇者よ。お前は一つ見落としているぞ」
「ん?」
「それはこの剣の持ち主が、この私であるという事だッ!!」
揚々とした笑みを浮かべ、リダイアは剣を横に構え勢いよく駆け出す。
素早い。
目に捉えられない速さに、レオーネの思考に焦燥が加速を促す。
「くっ……! “アウルム・ガデューカ――!!”」
レオーネが天に掲げた戦斧を勢いよく振り下ろすと、金色の光を放つ刃から扇状に鋭爪のような衝撃が広がる。
リダイアは、何かを唱えると、大剣が赤く輝き、その剣を迫りくる金色の刃の一つに力強く振った。
その光景にレオーネは、目を奪われる。
リダイアは、金色の刃の一つを天に跳ね除けると、その勢いのまま、気が付いた時にはレオーネの眼前にいた。
戦斧を――いや、間に合わない。
レオーネの思考が止まった時だった。
勝利の笑みを溢し、レオーネにリダイアは大剣を振り下ろすと、レオーネの額に届くことなく動きを止める。
その反動で押しのけられる様に、リダイアは弾かれると、不安定に地面に叩きつけられる。
ペスカの魔力結界。
ようやくそれに気が付いたレオーネが、ペスカに礼を言うと、ペスカはポカリと巨漢の頭を叩いた。
「頭ごなしに戦わない」
抑揚のない叱咤に、レオーネも渋々と返事を返す。
「もう良い、レオーネ。後は下がっていろ」
その声に、リダイアとレオーネは視線を向ける。
人型の黒馬。黒みがかった紫の鎧に身を包み、上流騎士隊長のような姿をしている。
片目は黒い眼帯で塞がれ、腰には紅蓮の鞘に納められたレイピアを携えていた。
威圧的なその赤い瞳が、立ちあがるリダイアの方に向くと、
「後は、セア様の片腕である、この私が始末をしよう」
レイピアを抜くと、レオーネは舌打ちをし、
「ようやく来たと思ったら、美味しい所取りか。そうはさせねェぞ。戦いはまだ終わっちゃいねェ。どちらかが生き絶えるまでだ。ガイル様は引っ込んでてもらおうか」
皮肉交じりの様付で呼ばれるも、ガイルと呼ばれたその魔物は、冷静な態度で答える。
「レオーネ、勇者はまだこの地に複数といる。お前にはその処理に回ってもらいたいのだ。だからここは手を引いてもらおうか――」
ガイルがレオーネに歩み寄ろうとした時だった。
「ガイル、お前も取り敢えず、すっこんでろ」
どこからともなく聞こえた少女の声。
ガイルは、その声に「セア様……!」と一驚し、跪く。
リダイアは、眉を立て、大剣を構えた。
今までに感じてきた、どんな魔物よりも悍ましい感覚が身体に走る。
堂々とその場に歩いて現れた、その人物が、只者でないことはすぐに分かった。
そして、その者が勇者の力を、それもこの世で一番禍々しい力を持つ者であることも。
ガイルが、垂れた頭を向ける、その人影は、小柄な輪郭を描いていた。
肩を越えツインテールに束ねられた、紫を帯びた白銀の髪。
瞳は、柘榴のように紅く、肌は美しい純白。
膝元まで体を覆っている黒マントの両端を、スカートのように指先でつまみ、令嬢のように上品にお辞儀をすると、その少女は、首を傾げ可愛らしく微笑んだ。




