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羅北の闘諍3

「何だ、あれは……!?」


 レドヘイルの雪山を越える中、絶えず鳴り響いてきた爆音の正体が露わになると、アルス達は足を止めた。

 黒い土肌の見える山の影から、土煙が勢いよく天に突きあがり、赤みを帯びた白い光と黄金の光が煙の中から漏れ出すように輝く。

 閃光と共に稲妻もパリパリと宙を走る、その光景にアルス達は、何事だ、と目を奪われていると、シエナが声をあげる。


「あ、あれを見て下さい!」


 シエナが指差したその方向を見ると、アルス達は息を呑んだ。

 魔界の門は完全に開き切り、渦巻く漆黒の世界から、無数の影が漏れ出すように放たれていた。

 宙を飛ぶのはドラゴンの影だろうか。

 不規則に空を舞う、竜たちは炎をまき散らし、地上にいる何かを襲っている一方、その竜の群れの中には、次々と赤い爆発が華のように咲き乱れていた。

 

「おいおい、マジかよ……!」


「どうする、アルス?」


 フォレシアがアルスに訊ねると、アルスが決断を下す前に、ヒマリの隣にいた、寡黙な少年が、遠方の(よど)みが絶えず放たれる山を見て、静かに言った。


「あちらから、微かですが勇者の力を感じます」


 ウィルが言うと、アルスもその山から立ち込める煙を見つめる。


「じゃあ、向こうで戦っているのは――」


 アルス達が顔を合わせると、フォレシアの隣にいたエルダ老は頷き、


「一方は恐らく緋炎の勇者じゃろう。昔感じた力の感覚と同じじゃ。そしてもう一人は」


 エルダ老から話のバトンを受け取ると、ミーニャは言った。


「以前、フォレシアさん達を襲った、金色(こんじき)の勇者かと思われます」


「金色の勇者!?」


 フォレシアとアルスの声が重なると、互いに顔を合わせた。

 エルフの里でフォレシアを襲った、傲然とした巨漢の姿を思い浮かべると、アルスは舌を打つように言う。


「あの野郎か……! フォレシア、ウィル。俺は、緋炎の勇者とあのデカブツの方に行く。お前たちは、魔界の門の方へ向かってくれ」


 アルスが言うと、フォレシアは、


「アルス、私もそちらへ行く」


「こっちは一人で大丈夫だ。勇者2人の喧嘩くらい止められねェと、ソロの野郎にも笑われそうだからな。それに、魔界の軍勢を止めるには、できるだけ広範囲の攻撃をできる奴が良い。フォレシアなら、あの矢の雨を降らせることができるし、ウィルは魔法系統の勇者だと聞く。接近戦型の俺よりは多勢を相手するのに向いているはずだ」


 ヒマリとウィルはそれぞれ頷くと、フォレシアも、目を一瞬瞑り、


「分かった。気を付けて行くんだぞ」


 アルスは強く頷くと、ダイガ達に向き直る。


「ダイガとシエナも魔界の門の方へ向かってくれ」


「分かった」「分かりました」


 そして、最後にミーニャに向き直ると、アルスは一瞬口を止めた。

 喉まで出かかった何かを一度戻すように、アルスは間を置くと、ミーニャに、


「分かった。ミーニャは俺と来てくれ。多分その目は、危険だから来るな、と言っても効かないだろう?」


 アルスが苦笑すると、ミーニャも同じ笑みを浮かべた。


「アルス、また後で落ち合おう」


 ダイガが声をかけると、アルスは頷き、それぞれは左右別々に分かれ、足を駆けらせた。



 坂の様な丘を駆け上がると、その足元には、地獄のような世界が広がっていた。

 魔界の門の下で、蟻の様な無数の影がぶつかり合い、あちこちから火の粉と砲煙が燻り上がっていた。

 山脈を囲む騎士達の赤い軍旗を見ると、ダイガは、


「剣を咥える黒鷲。イルヴェンタールの騎士団か……!」


 最新の兵器だろうか。

 魔界の門を囲む山脈の至る所に巨大な大砲が設置されており、魔界の門から現れる魔物たちに向けて赤い流星のような砲弾がいくつも降り注いでいた。

 それは黒雲で覆われた空を舞う竜たちにも放たれており、流れ弾が飛んできても、おかしくはない状況だった。


 ダイガ達は互いに頷くと、雪の斜面を一気に駆け下りる。

 騎士と魔物の残骸がゴロゴロと見えてくると、ダイガは剣を抜き、魔物と交戦するイルヴェンタールの騎士達の中に飛び込み、戦斧を豪快に振るった。

 強固な鎧に覆われた魔物の兵を軽々と投げ倒していく。

 ウィルとフォレシアは、ダイガよりもう少し標高のある場で足を止めると、互いに武器を構えた。

 フォレシアは、弓を天に向け大きく引き、ウィルは、先端に紫水晶のついた、魔術師のような銀色の杖を空に構える。

 

「"主を守護するが為に(ディ・ディフェンシオ)果敢なる弓を持って(フォル・アルクス)その力に命ず(ユヴェオ)――「"天水の弓(ローラティオ)"」


「"流れゆく、その生に()き止めを齎さん"――"死せよ、(セリスティキ・)天を舞う竜たちよ(ミハーニ)"」


 フォレシアの弓から光の矢が放たれると、イルヴェンタールの騎士達の踏み込めない、魔界の門に向けて矢の雨が降り注ぐ。

 門から絶えず現われる魔物たちに、光の雨が降り注ぐと、悲痛の声をあげ、次々と倒れ雲散していく。

 ウィルの詠唱が終わると、ウィルの杖が澱んだ紫色(ししょく)の光を放ち、火球のようなものが連射砲弾のように天に向かって勢いよく発射されていく。

 それは、迷いのないように、天を舞う竜達に向かって一直線に飛び、それぞれに竜に直撃すると、竜は力を抜き取られたように、音もなく次々と地上へと落下していく。

 


 一方、アルスは、緋炎の勇者と金色(こんじき)の勇者の激闘地へと足を走らせていた。

 アルスは、何かに気が付くと、駆けらせていた足にブレーキをかけ、ミーニャを庇うように、その足を止めさせる。

 砲弾の落下したような音と共に、目の前にそれが落ちると、その衝撃と共に石つぶてが、アルスとミーニャに殴りかかった。

 アルスとミーニャは目を開くと、アルスはすぐに剣を抜き、そいつに向けた。

 夜闇のような漆黒の毛が全身を覆う中、目元には刺青のように白い毛が走っている。

 アルスの身長の2倍はあるであろう、そいつの顔は熊のように凶暴な顔つきで、白い牙を剥きだしながら、巨大なナタのような武器を担ぎ、アルス達を見下ろしていた。


「誰だ、てめェは。生憎こっちはお前の様なデカブツに構っている暇はないんだがな」


「ほざくな、鼠輩(そはい)者。我は、我等が聖なる世界を治める(きみ)、セア様の片腕、オルゴンゾラであるぞ」


 巨大な熊戦士が名乗ると、アルスは嘲笑を浮かべ、


「ハン、お前みたいに権力振り(かざ)し脅すような名乗り方をする奴に、碌な奴はいないからな。名乗る時は、シンプルにだ。アルスだ」


 アルスが挑発気味に言うと、オルゴンゾラも嘲るように微笑み、


「アルスか。良かろう。若気の至りである、そのお喋りな口を、数分のうちに永遠の沈黙に葬ってみせよう」


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