羅北の闘諍2
轟音と舞い上がった粉塵と共に、リダイアは閃光のように剣を光らせ、目の前の巨漢に一直線に走る。
巨大な戦斧の刃と細身の剣が交わると、甲高い音が空気を振動し鳴り響く。
リダイアはすぐに剣を斧の刃に擦らせるようにして話すと、十字に大きく斬る。
レオーネも、その素早い攻撃を、戦斧をまるで剣のように片腕で振るい防ぐと、勢いよく薙ぎ払った。
リダイアは大きく跳んで後退すると、着地と同時に、横に大きく跳ぶ。
レオーネの死角に入ろうと、背後に回り駆けだすと、剣を思い切りに突きだした。
しかし、赤髪の女剣士の視界は大きく下へ傾く。
駆けて来たリダイアが、剣を突き出すと同時に、レオーネは、スライディングの要領で突き出された剣を避けると共に、リダイアの足元を揺らがせていた。
「ク……ッ!」
おりゃっ、と大きく振るわれた斧を間一髪でリダイアは剣で防ぐと、再び刃達から鈍く高い音が発せられる。
リダイアは斧を弾くように剣を振るうと、レオーネの腹を蹴り、壁蹴りのように宙を一回転し、着地する。
レオーネはビクともしていなかった。
愉悦の笑みを浮かべ、久々の接近戦の戦闘を堪能していた。
リダイアは立ち上がると、剣を一振りし、態勢を立て直す。
口先だけの輩と思っていたが、確かにその攻撃力は凄まじいものだった。
レオーネの振るう斧の重力量と破壊力は、これまで戦って来た猛者の中でも間違いなく頂点に君臨するものだろう。
装甲車や一等級の防御装備でも、あの斧であれば1撃で軽々と粉砕できる。
リダイアがそんな戦斧と互角に戦えていたのは、斧から放たれる衝撃を分散される剣術を最大限に応用させていた為だった。
レオーネから繰り出される全ての攻撃に、そんな剣術を応用させることは並大抵の技ではない。
百戦錬磨を乗り越え、戦いに勝利を収める事だけに生を費やしてきたリダイアだからこそ、できることだ。
レオーネが愉悦に浸っていた理由は、そこにあった。
自身の斧を、しかも細身の剣で防ぐなどという芸ができた者は今までに他といない。
全てをその斧で木っ端微塵にしてきた、好戦的な男の闘争心を燃え上がらせる。
相手はそんな女だった。
「ブッハハハハハハ!」
レオーネは狂喜したように高らかに笑い、斧を構え駆け出す。
その恰幅の良い体躯からは想像できない、弾丸の様な速度で来るレオーネを、リダイアは剣を構え迎え撃つ。
剣と戦斧が弧を描き、互いに触れると、一瞬時間が止まった様に動きが止まる、そして、空気が一点にまとまる様な衝撃音が響くと、爆風の様な衝撃波が放円状に走る。
リダイアは勢いよく飛ばされると、巨大な雪のかかった黒い岩を粉々に砕き衝突した。
ガラガラと岩の飛び散る音のする、砂と雪の煙の中をレオーネは、満足そうに見つめる。
これくらいでは終わっていない。終わられてもらっては困る。
銀色に光る剣が雪を突き刺すと、リダイアは息を切らし立ち上がった。
額からは血が流れ、片目を滝のように覆っている。
もう片方の目も先程のように開き切ってはいないが、その眼差しにはまだ不撓不屈の光が宿っていた。
しかし、身体はボロボロであり、髪は乱れ、胸当ての部分の鎧もひび割れ、中の黒い制服のような衣服が露わになっている。
衝撃を分散させたが、レオーネの今の一撃はそれを上回る攻撃力だった。
まだ本来の力の僅かしか使っていないのだろう。息も切らさず、焦燥もなく、それどころか戦闘を楽しむ余裕を見せる。
リダイアは思わず、薄ら笑いを浮かべた。
「ん?」
リダイアの表情に、レオーネも少し怪訝な顔を浮かべる。
リダイアは、もはや身を護るのに不十分な鎧を、脱ぎ棄てると、レオーネに向かって言った。
「久々に死というものを実感するな。どうやら貴様には、この状態の剣では勝てぬようだ」
リダイアはそう言うと、剣を縦に構え、何かを唱えた。
すると、赤い電光が地に迸り巨大な魔法陣がリダイアの足元に現われる。
魔法陣から発せられる赤白光に思わず、目を伏せ、その目を再び開けると、レオーネは目を見開いた。
赤髪の少女の手元には、先程の細身の剣の姿はなく、代わりに、少女の身長を上回る、大剣を装備していた。
少女は、その剣を大きく、ブンと風音を鳴らしながら片手で振るうと、レオーネに向けた。
「何だ、その剣は?」
「この剣の本来の姿だ。緋炎の勇者に継がれる武器は、生憎このような大剣でな。私としては、美学上の都合で、先程の剣に姿を変えていたのだ。その分、この剣の力も抑えられてしまうのが傷だがな」
「……ほぉ」
レオーネは、先程より少しばかり真剣な表情になると、斧を構えた。
「行くぞ。金色の勇者よ」
激しい光と爆風が山に見えると、オルディウス達は、それを静かに見つめていた。
「…………。」
「オルディウス様」
近くの騎士の一人の声に、振り返ると、オルディウスは目を見張った。
魔界の門が渦巻くように歪み、青紫の稲光が走ると、奥から無数の声と共に影が見えて来る。
「いよいよ来るか。悪しき神々の軍勢め。者共、正義は我等にあり。必ずや勝利は我等イルヴェンタールに訪れる! 恐れる事はない、我に続けェ!」
オルディウスが一線を越え駆け走ると、それに続き威勢の良い声が次々と、魔界の門から来る軍勢に向かって駆け走った。




