7-1「上位種の実力」
一応、農耕都市モスティス編の最終章という立ち位置です
6章である程度、対戦カードばら撒いたのでその回収がメインになると思います
静寂に包まれるギルドのホール。
つい数分前まで群れていたシュミラクラは殲滅され、新たに湧き上がってくる様子もない。
周囲の人間――ギルド職員であったり、冒険者であったり、そしてギルドマスターすらも、驚愕に目を見開き、固まっている。
何を驚いているんだろう?
周囲の反応に対して、俺は冷静にそう思った。
いや……まぁ、原因は何となく分かる。
俺が、会得者が圧倒的に少ないとされる雷属性の魔法を事もなげに連発したからだろう。
かつてアズエルがクレイジータイガーへのとどめに《指雷哮》を使用したと説明した際の反応や、今の状況から分かるように、魔法というトンデモが珍しくないこの世界にあっても雷属性の魔法というのはそれ程に珍しい代物――らしい。
と言うのも、そもそもが雷という現象についての理解度の低さが、そのまま魔法習得の妨げになっている現状がある。
魔法を使う上で重要視されるポイントが大きく分けて二つある。
一つは、呪文に代表される『術そのものの明確なイメージ』。
そして二つ目が、『属性への理解』。
このポイントを踏まえて説明すると、要はいくら正確な呪文を唱えてそれに必要な魔力を供給したとしても、そもそも『属性への理解』が低ければ魔法が成立しないのだ。
その点で言えば、他の属性――『火』『水』『風』『地』といったモノは比較的イメージが容易で、術の習得もし易い。人は『地』に生き、『風』を感じ、『水』によって育まれ、『火』によって文明を発展させてきたのだから当然の帰結ではある。
対しての『雷』。この世界で雷とは、天もしくは神々の怒りの発露と考えている者が大半である。当然、そのメカニズムなど理解の埒外の話であり、それをある程度でも理解するにはまだまだ膨大な時間を要するのは言うまでもない。自然とそれを何らかの方法で理解して術を習得できる者はほんの一握り、一部の天才に限られる――――というわけだ。
とは言え、いくらなんでも驚き過ぎではないだろうか。俺は内心で呆れ気味に嘆息する。
もっとも、俺がこんな心境で居られるのも、アズエルのMDがあればこそ。
具体的には、精神の揺らぎを抑制する《精神統一》、恐怖心を取り除く《恐怖耐性》、そして、敵に対してどのように攻め守るのかという文字通りの戦術や戦略のイメージを補助する《戦略》、これらの影響が現れた結果だ。
中でも、《恐怖耐性》の恩恵は大きい。これが無ければ、あのクレイジータイガーに酷似した姿と威圧をもったビーストを前にまともに戦う事などできなかったに違いない。
アズエルに感謝しつつ、俺は一足先にその場を去ったジェロームさんを追って、ビーストがぶち破った壁を潜ってギルドを出る。
刹那。
まるで金属バットのフルスイングが直撃したかのような甲高い音と衝撃を背後に受けて、俺は数メートル吹き飛ばされる。
「ガッ!? ゲホッ…」
外部からの攻撃に対して自動で発動する《緊急回避》、そして、肉体の強度を底上げする《鉄鋼》の恩恵によってダメージそのものは大したことはないが、それでもいきなりの衝撃に息が詰まり、激しく噎せる。
危険察知の《事前警報》が発動するよりも速い攻撃。おそらく、前者二つの魔法効果がなければ、今の刹那で死んでいた。
それが分かったからこそ、背筋が寒くなる。
「何だ……?」
そして、それを加えた相手を探して、視線を己の背後へと向ける。
すると、そこには―――
「アラン――いや、上位種ッ!!」
ショートソードを片手にアランさんの姿を模した上位種――シュミラクラ・ミミックが、幽鬼のように仁王立ちする姿があった。
「お前は、危険。キケンは排ジョしなければ、ナラナイ。オマエ、要らない。だから、ここで死んでイケ」
もはや緻密に化ける必要がなくなったからか、ミミックの語り口は所々イントネーションがおかしく、片言のようになっている。
だが、そこに込められた意志は本物であり、込められた殺気も一部の手抜かりもないようだ。
本気で、俺を殺しに掛かっている。
「チッ」
ビースト及びシュミラクラの大群を殲滅したどさくさで姿を消していたから、てっきりジェロームさんと共に外に出たと思っていたのに、どうやらこちらの動向を観察して襲撃のタイミングを謀っていたらしい。やはり、ステータスにあったように他のシュミラクラと比べて知能が高いのだろう。
ビーストよりも、よほど厄介な相手である。
《事前警報》による危険察知よりも速い一撃を繰り出す攻撃速度、その一撃の威力も術二つを間に挟んでも衝撃は貫通し、おそらく素の移動速度、反応速度も速そうだ。
少しでも早く追い付きたいのに、こいつ相手ではビーストのように一撃撃破も困難だと予想出来る。
苛立ちから半ば無意識に舌打ちが出る。
まぁそうは言っても、コイツをどうにかしなければ先には――ジェロームさんを追跡する事は難しい。
相手が本気で殺しに掛かってくるなら、こちらも本気で迎撃しなければ。
「死ネ」
そうこうしている内に、ミミックが再び仕掛けてくる。
剣振りかぶって迫るミミックに対して、今度は冷静に防御の術を行使して対処。
大きく振り被ったミミックの剣が、咄嗟に張った《風防壁》に阻まれ、俺にとどく直前で止まる。だが、奴の攻撃とこちらの防壁のパワーバランスが意外とギリギリだった事に内心、冷や汗をかく。
くそ。やっぱり、破壊力という一点に絞って優れていたと推測されるビーストと違って、攻撃のみならず俊敏性にも優れるミミックは難敵だ。
倒そうと思ったら強力な術――速度と威力を思えば雷属性が理想だが、それを使う暇を奴が許すとは思えない。
事実。
「お前、ツヨイ。あのびーすと、倒シタ魔法ハ、ツカワセナイ。使うマエニ、キリコロス。オトナシク、死ぬ、ヲ、ススメル」
目を見開いた状態のまま瞬きすらしない眼でこちらを見据え、まるで腹話術のように口元をピクリとも動かさずに聞き取りにくい片言でそう言ってくる、上位種。
一方、こちらは《戦略》の効果を駆使して攻め方を思案――――していたのだが。
「むしろ、てめぇの方がくたばりな!!」
いつの間にかミミックの背後に迫っていたエトガーの大剣が、ミミックの背中を切り裂いた。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです




