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6-EXTRA(side:ジェローム)「NEXT STAGE」

 ギルドのホール全体に大勢のシュミラクラを湧かせ、駄目押しにビーストも突入させたは良いが、おそらく無駄だろうなと内心、本音を溢す。


 確かにアレは、クレイジータイガーの屍肉をちょろまかして適当な個体(シュミラクラ)に与えて意図的に変異させた傑作(カイブツ)であり、本家にも決して引けを取らない機動力と破壊力を両立した強力な配下ではある。そこは自信を持って断言する。例え本物のクレイジータイガーと殺し合っても勝算は十二分にあるだろうし、ギルドが定めたランクで言えばAは確実だ。そこら辺の有象無象の冒険者は元より、中途半端な腕前の騎士共では相手にもならん。あの場で唯一相手が成立する者と言えば、ギルマスのクソ野郎(セルゲイ)、後はサブマスターを務める彼女(マリン)がギリギリで及第点、この二名くらいなもの。


 …………そのはずだった。


 自分にとっても、この計画を進める上で想定外となった存在。それが、彼――ハセと名乗る青年。戦闘力を重視する傾向が強い冒険者としては臆病な部類に入る慎重な性格、リスクをきちんと把握して己の分を弁えた依頼を的確に熟す、珍しいタイプの善良な人間。自分としても好感が持てる人物ではあったが、あれ程の力を有していたのは計算外であり、不快であった。


 初めて彼を見かけたのは、実は馬鹿(エドガー)が一方的に喧嘩を吹っ掛けたあの場面だった。

 その時の印象は特に何もない。

 精々、「あぁ……またバカがバカやってんな」と冷めた感想を抱き、喧嘩を売られた彼に対しても『運すらもない脆弱な青年』と見下した印象を受けた程度。勿論、助けに入る気など毛頭なかった。

 それがどうしたことだろう。奴が斬り掛かった刹那、如何にも素人丸出しの素振りで手にした短剣を振るい、あまつさえエドガーの剣を叩き割ったではないか。思い返せば、ハセという青年に軽い興味を抱くきっかけとしては十分な出来事だったかも知れない。


 次にハセ青年と出会ったのは、依頼書を掲示している最中の事だ。まぁいつも通りと言えばいつも通りに難癖を付けてくる|冒険者(カス共)がギルマスに連行された直後、手伝いを申し出てきたあの時が正式なファーストコンタクトと言えるだろう。

 その印象としては、冒険者としては長持ちしない早死タイプ、ただし、人間性の観点からはお人好しで親切、相手に応じた気配りができる好青年。まぁそんなところだ。


 その後も何度か話をする機会があり、聞いた話によるとなんでも《アイテムボックス》のスキルを持っているらしく、受けている依頼もそれを活かした配達などの雑用がメインで、幾人も匙を投げた家庭教師の依頼も成功させている事から頭もそこそこいいのだろう。

 ただ、どうやら戦闘が苦手らしい様子から言っても、いっそのこと商品の輸送を請け負う商人として身を立てた方が良いのではないかと、なんで冒険者をやっているのか不思議に思っていた事も一度や二度ではない。


 そんなちぐはぐな印象の彼が、今回の計画を僅かでも狂わせうるとは計算外、想定外もいいとこだ。


 なんなのだ、あの魔力は!?

 なんなのだ、あの態度は!?

 なんなのだ、あのスキルは!?


 ホール全体に一瞬にして伝播した魔力放出の圧。放出した魔力になんの力も乗せずに垂れ流す際、放出に勢いのみを付けて放つことで周囲を威嚇する《魔圧》と呼ばれる戦闘テクニックの一種。そこそこの戦闘経験がある一定ラインの戦士(ただし魔力を持つ者に限る)なら誰でも使う事ができる技能ではあるが、その圧がまさか熟練の魔術師に匹敵する程とは思わなかったぞ!?


 そして、奴が有するスキルも想定以上だ。例えば、《鑑定》のスキルを持つ者は一定数存在するが、その精度は保有者のレベルに比肩する。それが、上位種(ミミック)も変異種(ビースト)もその場で即座に鑑定され、能力が曝された様子だった。もし仮にあれがはったりだったら幾分マシだが、恐らくそんな事はないだろう。

 そして、繰り返しになるが対象の正確な鑑定には鑑定対象とスキル保有者のレベルが対等であるが、最低でも差が数レベル程度と近い必要がある。あまりに差があると、その詳細まで鑑定が出来ないからだ。

 そうなると、なると問題なのは彼(ハセ)のレベルだ。上位種(ミミック)も変異種(ビースト)もそのレベルは30後半。それを容易く鑑定した事を鑑みると、奴のレベルも30後半、という事になる。

 いや、下手をすればその以上のレベルという事も十分にあり得る。なにせ、《魔圧》の規模が熟練の魔術師のそれなのだ。下手に侮ってレベルを低く見積もれば、痛い目を見るのはこちらになる。レベルは40を越えていると想定して行動するとしよう。


 しかし、魔力とスキルも想定を上回った彼だが、俺が一番面食らったのはあの態度。決して有象無象共のように粗暴で野蛮なわけではなく、魔法を駆使してあくまで理性的にこちらを指摘し断罪する彼のまっすぐな視線、姿勢、態度に少々恐怖したのを覚えている。


 禁呪を使い、魔物を使役し、街中から回収して得た力をこの身に内包しつつある今の自分を、だ!?


 そんな事は在り得ない。

 そんな事はあってはならない。


 俺は、この力を使って復讐を果たす。あのクソ野郎が居るこの街を滅ぼす事で、俺はようやく前に進めるのだ。その邪魔をする者もまた、復讐の対象として消してやろう! そして、次は近隣の都市を、この国を、その隣国を……。目につく全てを滅ぼそう。誰一人としてニンゲンは遺さない!



 ………………いや、待て。何を考えているんだ、俺は!?


 確かに、この街を滅ぼすのは決定事項だが、俺は一国を滅ぼしたいまでは思っていない。そのはずだ。なのに、何故だ。内側から、心の奥底から、自制し切れない憎しみが湧き上がってくる。


 ……まぁ……いい。どうせ、些細な事だ。


 そうこう考えている内に、目的地に到着した。


 禁呪――ゲシュタルトの中枢。術を構成する心臓部たる魔法陣が設置された地下空間。


 計画を破綻させ得るイレギュラーが出た以上、段階(ステージ)は次に進める必要がある。差し向けたビーストやシュミラクラで今のハセ青年を仕留められるとは思えないから、尚更だ。


 魔法陣へと歩み寄り、そこに手を翳す。



 その瞬間、魔法陣から膨大な量の魔力が光りとなって放出された――――

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