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6-14「退散と一蹴」

二週間ぶりの更新です

 大剣を手にジェロームさん目掛けて斬り掛かったのはエドガーであった。


「てめぇが死ねや!!」


 大剣を大きく振りかぶり、何やら怒りを込めた渾身の一撃を繰り出さんとする。

 しかし、対するジェロームさんはと言えば、そんなエドガーに冷めた視線を送るのみ。動く気配すら見せない。決してエドガーの圧に萎縮している訳でもなければ、立ち竦んでいるわけでもない。その態度は存外に「お前相手に動く必要すらない」といわんばかりであり、事実、それはその通りとなった。

 何故なら――――


「ヒドイ事をするなぁ、エド」


 以前少し会った事があるエドガーの相棒――確かアランが薄い笑みを張り付けてその大剣をブロードソードを使い、片手で(・・・)受け止めていたからだ。

 攻撃者のエドガーは元より、周囲の冒険者や職員達が息を呑む。

 獲物の重量差などを考えれば普通は有り得ない光景。下手をすればエドガーの大剣が、アランの剣を圧し折っていてもおかしくはない。むしろ、そうなるのが当たり前である。にも関わらず、当のアランは片手で受け止め、微動だにしていないのだ。


「てめぇ!?」


「正気かい? この前は新人に喧嘩を売ったかと思えば、ギルドで窃盗、今度はジェロームさんに斬り掛かるなんてさ。処刑されるか、最低でも犯罪奴隷で鉱山行きだよ?」


 そう言いつつ、ブロードソードを軽く振って大剣ごとエドガーを後方へと追いやるアラン。エドガーは成す術なく後方に押し込まれて、たたらを踏む。


「まぁでも、そうなる前にここで息の根止めてあげるのも、相棒の役割かな」


 そんなことをなんてことない風に言いながら、微塵の変化もない薄ら笑いを浮かべてブロードソードの刃をペロリと舐める。


「なにが相棒だ、クソが!」


 何やらヒートアップしているエドガーとアランのやり取りを見やりつつ、俺は鑑定眼を使用。そして、事情を察した。


「これは、何の茶番ですか? ジェロームさん」


「せめてショーと言って貰いたいね。長い事苦楽共にしたコンビによる殺し合い。なかなかの演出だろう?」


「その為に、わざわざ偽者まで用意するとは、悪趣味ですね」


 そう。あのアランは偽者だ。

 俺の鑑定眼で鑑定したアラン――を称する者のステータスはこうである。


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【シュミラクラ・ミミック】魔物

レベル:35

HP:5600

MP:0


◆スキル一覧

『擬態』

任意発動型(アクティブスキル)。

あらゆる対象の姿に似せて、自身の姿を変える。

ただし、変化するのは姿のみであり、その他、スキルやステータスまでコピーする事は出来ない。


『魔力捕食』

常時発動型(パッシブスキル)。

生命体を吸収する事で、その生命体を力に変換して内包する。

変換した魔力を行使する事は出来ない。


『魔力委譲』

常時発動型(パッシブスキル)。

『魔力捕食』によって得た過剰魔力――生命活動に必要な最低限の魔力を除いた全ての魔力を《我ガ狂気ノ執着点(ゲシュタルト)》へと自動的に委譲する。

また、『魔力捕食』が長期間出来ず過剰魔力が発生しない期間が増えると、保持者は強烈な飢餓感に襲われる。


『結界依存生命体』

固有特殊型(プライベートスキル)。

《我ガ狂気ノ執着点(ゲシュタルト)》内でしか生存する事が出来ない。

結界が解除された時、その存在もまた死滅する。


 ◆

 シュミラクラの上位種。スキル『擬態』による変身能力と知性を持ち、他のシュミラクラと一線を画す存在。シュミラクラとしての特性は引き継いでいるが、その戦闘能力は冒険者でいう所のBランカーの上位に匹敵する。

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「上位種、か」


「やはり君の鑑定は優秀だな。本音を言うともっと状況を引っ掻き回したかったんだが、仕方がない。ばれてしまった事だし、私は退散するとしよう」


「これだけの戦士に囲まれて、逃げられる気ですか? ギルマスも居ますよ」


「ふん。雑魚が幾ら居ても……と言いたい所だが、確かに鬱陶しいな。では、こうしよう」


 そう言うとジェロームさんは、おもむろにパチンとフィンガースナップを鳴らす。

 すると―――


「チッ! シュミラクラを呼んだ!?」


 ギルドホールの床から湧き上がるように出現してくるシュミラクラの群れ。それを見て、思わず舌打ちが出た。


「数には数だよ、ハセ君。ついでに、こいつもプレゼントしよう。出てこい、ビースト!!」


 その声に呼応するようにギルドの壁を突き破って、新手の化け物がギルド内へと侵入した。

 その姿は俺にとって見覚えのある、悪夢の象徴たる"奴"に酷似しており、俺は咄嗟に鑑定眼を発動する。



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【シュミラクラ・ビースト】魔物

レベル:37

HP:6300

MP:0


◆スキル一覧

『魔力捕食』

常時発動型(パッシブスキル)。

生命体を吸収する事で、その生命体を力に変換して内包する。

変換した魔力を行使する事は出来ない。


『魔力委譲』

常時発動型(パッシブスキル)。

『魔力捕食』によって得た過剰魔力――生命活動に必要な最低限の魔力を除いた全ての魔力を《我ガ狂気ノ執着点(ゲシュタルト)》へと自動的に委譲する。

また、『魔力捕食』が長期間出来ず過剰魔力が発生しない期間が増えると、保持者は強烈な飢餓感に襲われる。


『結界依存生命体』

固有特殊型(プライベートスキル)。

《我ガ狂気ノ執着点(ゲシュタルト)》内でしか生存する事が出来ない。

結界が解除された時、その存在もまた死滅する。


 ◆

 シュミラクラの変異種。クレイジータイガーの死肉を取り込んだシュミラクラが変態した姿。通常のシュミラクラと比べて獣性に特化しており、体色こそ濁った灰色だがその姿もクレイジータイガーに酷似している。通常のシュミラクラとは比べ物にならない圧倒的な膂力を誇り、鋭い爪と牙で獲物を食い殺す凶暴性を持つ。

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「ここに来てのクレイジータイガー擬きとか……面倒なモノを!」


「では、御機嫌よう。ハセ君。そしてギルドの面々」


 ビーストがぶち壊した壁から悠然と去っていくジェロームさん。ギルマスも含め何人か追おうとするも、次々と湧き上がってくるシュミラクラの群れ、更にビーストがダメ押しとなって断念せざる得ない。


「待て、ジェローム!! ……クソ! このままじゃ全滅も在り得るか。お前等、取りあえず、湧いてくるそのヒトガタを潰せるだけ潰していけ。この獣は俺が引き受ける!!」


 このまま手をこまねいていてはギルドが全滅する事も有り得る状況にギルマス――セルゲイの指示が飛ぶ。周囲の一介の冒険者がザコを引き受け、この場で最も経験豊富な強者であるギルマス自ら、最も厄介な敵を相手にする。まぁ妥当かつ最善の指示だと思う。

 けど、今は時間が惜しい。少しでも早く、ジェロームさんに追い付きたい。だから―――


「むしろ、全員、その場を動かないで下さい。邪魔ですから」


 事実と要求だけを簡潔に述べて、術の詠唱に取り掛かった。


「な、なにを……!?」


 ギルマスが何か言い掛けるが、無視。


「それは神の鳴動。不信を持って、不義を成し、不徳を詰んだ愚者に与える輝ける鉄槌。去れど、これはその一端である。聞け! これこそが神の成り立ち。神意の叫び(こえ)である。《指雷哮(ライジングレイ)》!!!」


 以前、アリエルがクレイジータイガーに止めを刺したと言う魔法の完全詠唱版。詠唱し呪文を完成させた俺の指先から、一筋の光がビースト目掛け迸る。ピュンという軽い音が可愛く鳴り、それに遅れる事数秒後、耳を塞ぐような雷鳴がホールに轟き、その衝撃がギルドの建物すらを揺さぶった。

 完全なるオーバーキルでもってビーストは黒焦げの炭と化し、ボロボロとその身が崩壊。また、その余波で周囲にいた数体のシュミラクラすら消し飛ばした。

 大物が終われば、後はザコの始末だけだ。奴らには今の大音響なと関係なく、行動を開始している。まぁ元々耳が聞こえているかすら謎の存在だし、それはいい。これまでの道中と同様、雷属性の魔法で一掃するだけである。


「《雷弾(ショックボルト)》」


 雷のエネルギーを小さな弾として射出する魔法で次々とシュミラクラを撃ち抜いていく。

 ジェロームさんが足止めとして放った群れを俺が全滅させるのに、五分と時間は掛からなかった。

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