6-13「溢れる悪意」
「なんで、こんな事をしたんですか?」
俺はもう一度、相手の眼を見据えながらそう言い放つ。
「えぇと、なんの事か、意味が分かりかねますね。今は非常時ですので、そういった無用な混乱は――――」
「なぜ、禁呪なんて代物をこのモスティスの地で発動させたのか?と聞いているんです?」
「――――なにか根拠でも御有りなのですか?」
「その糸」
「なに?」
「結界の頂上から降りてくる魔力の糸があなたと繋がってます。つまり、この禁呪――ゲシュタルトはあなたの管理下にあるということでしょう? なんなら、この場で更に白日の下に曝しますか?」
「…………」
こちらを睨むように目を細め、沈黙するジェロームさん。
代わりに反応したのは、ギルドマスターの方であった。
「ち、ちょっと待て! ジェロームが黒幕だというつもりか!?」
「そうですが?」
「それは確かな根拠があって言っているのか!? 彼はウチの古株でベテランだ。裏切るとも思えん!」
根拠はいま言ったし、俺だってそれは同意したいさ。ギルドマスターを初め周囲のギルド職員の反応からしてジェロームさんがいかに信用され信頼されているかも理解できる。それを全てぶち壊すような裏切りを企てる人物にはとても思えない。
でも、それは単なる感情論であって、俺の目にはどう見直しても、魔力の糸の辿り着く先はジェロームさんなのだ。
なら、その根拠はこの場に居る全員に見て貰うしかないな!
「……ふぅ。《空間索魔眼》。………これが真実です」
《索魔眼》が術者単体なのに対して、《空間索魔眼》は空間そのものに効果を与える範囲魔法である。今回対象にしたのはギルドのホール。つまり、ギルドのホールに居る全員に魔力が見えるようになる。
そうなれば、必然的に――――
「マジ、かよ……」
「ウソ……」
「そんな……嘘よ…」
「なんで? ホントに?」
冒険者連中もざわついているが、反応が顕著なのはやはり職員達だ。
先程は擁護しようとしたギルドマスターも、流石にこれだけ明確な根拠を見せられては信じる信じないもなかったらしい。一転、厳しい眼をジェロームさんに向けて言う。
「どうゆう事だ、ジェローム」
「…………」
「答えろ!?」
「…………ふふ。くははははは」
問い詰めたギルドマスターは元より、俺も、ホールにいた全員がギョッとする。沈黙を破ったジェロームさんの口から洩れたのは、嘲笑といった表現がピタリとくる悪意ある嗤い方。やがて――彼の悪意が溢れ出た。
「どうもこうも、禁呪を使ったのは俺だよ。それ以外に何かあるのか、ギルドマスター?」
「貴様…!」
ギルドマスターに割り込んで、俺が言う。元より、これは俺とジェロームさんの問答だ。構うものか。
「なんで、あなたが、こんな事を?」
「いや、見所のある若造だとは思ってましたが、想定外でしたよ。一体、どんな裏ワザを使ったので?」
「知り合いに協力して貰いました。それよりも――――」
「知り合いね……。まぁいいでしょう。こんな速くバレるのは想定外でしたが、バレたのなら別に隠す事でもない。単なる復讐です。珍しい話でもない」
「復讐、ですか?」
「えぇそうですよ。昔、そこのギルドマスターに妻と子供を殺されましてね。まぁ直接手に掛けられたわけじゃなく、奴らが取り逃がした《はぐれ》が昔住んでた村を襲った形ではありますが」
「そんなことが」
「まさか、お前あの時壊滅した村の出身だと言うのか……?」
「おや? 記憶に在ったので? てっきり、忘却の彼方かと思ったましたよ」
「当然だ。一刻も忘れた事はない。あの時の軽率な行動も、その後の悲劇も、後悔も―――」
「はん! 悲劇に後悔、か。貴様がそれをいうと寒々しく聞こえるな。お前に分かるのか? 魔物に破壊された家屋に潰され生きたまま焼かれた妻の苦しみが、俺を妻を探して泣きわめきながら魔物に齧られた息子の無念が、手を伸ばした救いの手を蹴り一発という報いで踏み躙られた俺の慟哭が!! 我が身可愛さであの場に地獄を振り撒き、囮にして生き残ったクソ野郎に分かって堪るか」
「ッ!」
「しかし、参ったな。まだまだ嘲笑ってやるつもりだったのに台無しだ」
「これだけ被害を出しておきながら、まだ満足しないと!? もう止めてくれませんか!?」
「無理だね。第一この魔法は一度発動したら、完遂するか、術者が死ぬか。二つに一つだ」
「――――なら、てめぇが死ねや!!」




