7-EXTRA(side:エドガー)「コイツは俺の獲物だ!」
呆然自失。
ついさっきまでの心境は、その一言に尽きる。
あいつを追ってギルドに突入し、ギルマスを含めて多くの冒険者から険悪な態度・視線を向けられる完全アウェーな状況に立たされるのは、半ば予想通り。
予定と違ったのは、そのすぐ後に、あの野ネズミがギルドにやってきた事だ。しかも、高ランク冒険者に匹敵する威圧を伴って――――
周りの連中もそうだったようだが、不意に喰らったアレには驚かされた。肝を潰す、とはああいった感じを言うんだろうな。
一瞬にしてギルドの喧騒は静寂へと変わって、人垣が二つに割れた。その奥からゆっくりと歩いてきたのは、やはり、あの時の野ネズミ――名をハセ何たらとか言った腰抜けであった。
そう。冒険者の華である討伐クエストを避けて自分は雑用をメインに受けると生意気にも俺に反論し、
噂に聞くとそれを実行しているらしい冒険者の面汚しで、腰抜け。『冒険者』として俺が最も嫌悪するタイプの軟弱者。
――――――そのはずだった。
だが、蓋を開ければどうだ?
俺に対する嫌悪でボルテージが上がりつつあった大勢の荒れくれ者達を瞬時に黙らせ、あまつさえこの俺――実質的に言えばBランクといっても過言ではない俺ですら背筋が寒くなるような威圧。その威嚇だけで俺を含め周囲に居合わせた全員に『逆らう』という選択肢を失くさせ、自然と道を開けさせたあの所業はまさに上級冒険者のそれだった。
思い返してみれば、確かに奴は細々と雑用で日銭を稼ぐ《ネズミ》な一方で、武器として限界を迎えつつあったとは言え、親父から譲り受けた得物を短剣の柄で一突きし、圧し折った奴でもある。力がまったくない分けではなかったんだろう。
しかし、だ。
だからといって、奴があれ程の力を隠していただと!?
別に前の武器を破壊された事を恨む気はないし、文句もない。が、その事実にだけは文句を言いたい気分だった。
それはともかく、それから奴は、この事件の黒幕がジェロームであると名指ししやがった。
ジェロームという職員の事は俺もある程度は知っているし、特に依頼書をクエストボードに掲示している姿は時折見かけるので多少なりとも面識はある。その誠実な人柄でギルドの職員連中からの信頼に厚く、例え憂さ晴らしするように絡むバカは居ても本気で奴を嫌っている者は冒険者連中にも居ないだろう。俺自身、別にジェロームに悪い印象は持っておらず、むしろ、憂さ晴らしするように絡むバカの対処から頻繁に街に出ての営業活動まで日々激務をこなす苦労人といった印象すらある。
とにかく、どこにでも居る様なくたびれたおっさんで、とてもこんな大それた事を仕出かす男だとは思えない。それは身体的・魔力的な実力からも、その人柄からも言える。
だが、野ネズミ――ハセは、ジェロームが首謀者であると言う。
そして、とある魔法を使って、その証明までして見せた。
後は、怒涛の展開だった。
本性を露わにしたジェロームは、ホールに芋虫人間を大量に出現させ、あまつさえあの化け虎を想わせる巨大な獣まで呼び寄せやがった!
そして、ギルマスが迎撃を指示する最中、ハセはまたもやらかした。
奴は修得者がほんの一握りしかいない雷属性の魔法を苦もなく発動すると、虎を彷彿とさせる巨大獣を一撃で焼き払い、次いで大量に湧いた芋虫人間の始末までして見せたのだ。所要時間は、数分。たったそれだけで、下手すりゃ全滅も有り得た状況をゲーム盤をひっくり返すようにあっさり覆して見せる奴に、以前のような軟弱者としての印象、面影はなかった。
―――――と、我に返る。
確かにジェロームが呼び出した化け物は一掃されたが、同時に“奴”の姿もなくなっている。
相棒の姿を真似て好き勝手してくれた化け物が消えた。
チッ! 見失った! どこに行きやがった!?
アウェーと承知でギルドまでアレを追ってきたというのに、己の間抜けさに腹が立つ。
ふと見ると、逃げたジェロームを追う為だろう、ギルドの外へと向かっているハセを視界に捕える。それは同時に、その背後に斬り掛かる奴の姿をも同時に捕えた瞬間であった。
背後からの急襲にも関わらず、何らかの魔法でダメージを軽減したハセは、そのまま奴と交戦に入ったようだ。奴が剣を振りおろし、ハセがそれを魔法で防ぐ。実力は拮抗――――いや、ハセが攻めきれない分、若干、奴が優勢……か。
だが、そんな事は関係ない。知った事じゃない。
俺にとって重要なのは、一つだけだ。
即ち。
「キリコロス。オトナシク、死ぬ、ヲ、ススメル」
酷く聞き取り辛い片言のセリフを奴がほざくのを聞きつつ、その背後に移動。標的をハセに絞って周囲に一切目を向けていない奴は、俺の存在にまったく気付かない。
そして、奴が攻撃態勢に入るよりも一瞬早く、大振りした俺のバスタードソードが奴の背中を大きく切り裂いた!
「ギャャャャャ」
無防備な背中をバックリと裂かれた奴は、堪らず絶叫し、何やら粘性のある気色悪い体液を撒き散らしながらのたうち回っている。相当なダメージが入ったようだが、そうは言ってもあの一撃で死なないだけでも十分に驚異的な生命力である。
それを見た俺は油断なく剣を握りしめ、いつでも攻撃できる態勢を保ったまま宣言した。
「コイツは、俺の獲物だ! テメェはテメェがやりたい事をしな、野ネズミィ!!」




