2-1「え……まさかの最高難度?」
天界での漫才(?)を経て、ようやく異世界へ!
頬を撫でる優しい微風と、とれに伴ってサァと揺れる木々の囁きが聞こえる。
やがて、眼を閉じた瞼越しに陽の光を感じて、俺は目を開けた。
「着いたのか?」
寝ぼけているような倦怠感を味わいながら、呟いた。
まるで春先のような心地よい陽気、芳香剤でしか嗅いだことが無かったリアルな森の香りが鼻につく。
周囲に目をやると、見えるのは樹、樹、樹。
表皮に薄皮のように苔が生した太い幹、生えた苔の合間合間から覗く濃い茶色のそれは素人目にも相応の年月を想わせる立派な体格をしており、上部には無数に思える程に枝が広がり、緑の葉が賑わいを見せている。
異世界って言うか、単なる森っぽいな。
自分が知らない場所って意味では異世界に違いないが、剣と魔法のファンタジーらしさは残念ながら今の所はない。
単なる森だ。
――――森?
改めて、自分が置かれている今の現状を確認する。
どうやら俺は地面から表出した根の一部を枕代わりにして横になって居たようで、今更ながら寝違えたような首の痛みを感じている。
とりあえず、樹の根っこは枕に向かないなと学習して身体を起こす。
首を揉み解しつつ、今度はなるべく遠くを見渡すように周囲に目を向けてみる。
樹、その奥に樹、更にその奥にも樹。樹、樹、樹。どこまでも続く樹の無限ループ。
折り重なるように樹が続くせいで視界は遮られ、さほど奥まで見通せない。
更に、樹の一本一本が基本的に太くて立派な為か枝振りも良いようで、上部で賑わう葉っぱ達に日光の大部分が遮られ日中の割に薄暗い。
俺が目覚めた場所は偶々木漏れ日が降り注いでいるが、基本的にそういった所はそんなにないようである。
森っつうより、樹海の真っただ中な感じ。
やべぇ――早くも、詰んだ気ぃするわ。
文明の利器に馴染みきった現代人に、何の道具も説明もなく樹海を生き抜くサバイバル技術などあるはずもない。
女神様による最低限の身の安全が保障された優良転生と聞いて、生きるのに苦労しない程度の慎ましいスローライフ生活を想像していたのに、まさかの危機的状況!?
話が違うと思います!
どうゆう事ですか、女神様!?
ここ完全に樹海のど真ん中ですよね!?
近くに人が居るようにも見えないし、街道が整備されているどころか開発が行われている気配すらないんですけど!?
この状況に独り放り出されて、どう生き抜けとおっしゃるのですか、貴方は?
無知な素人に、樹海での自給自足は死刑宣告だと思うのですよ!?
『具体的なスキルに関しては、現地に着いてから確認しておくれ。向こうに着いたら、「ステータス・オープン」と唱えると保有スキルの確認ができるようになる』
軽いパニックに襲われながら、そこで俺は女神様の最後の言葉を思い出す。
スキル。
内容こそ時間切れで説明されなかったが、生きる上で最低限のスキルは確かに貰えたはずだ。
それに女神様はこうも言っていた。
『決して悪いようにはせぬよ』、と。
ならば俺はそれを信じよう。
まずは、今の俺の生命線の確認だ!
「ステータス・オープン!!」
だが、まだ異世界っぽさはない!