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6-EXTRA(side:????)「観察と再会」

 遂に禁呪指定の魔法である《我ガ狂気ノ執着点(ゲシュタルト)》が発動した。

 かつて1人の天才が己が知性と多大な犠牲の基、彼が籍を置く大国が起こした戦争の切り札となるべく開発されたという狂気の魔法。苦節の末、遂にこの魔法を完成させた彼は魔法名として自身の名をそのまま刻み、この世に産み落とした。

 そう。ゲシュタルトとは、かつて終わらぬ戦争に明け暮れた大国が誇る筆頭魔術師の位を冠した魔法使いの名でもあったのだ。

 もはや伝聞すらもその正確性を失くすに十分な時間を経て、狂気の天才が生み出した無明の結界が数百年の時を経て蘇る――――いや、再現される。

 正直、これほど胸が躍る出来事は久しぶりの事だ。

 魔法の習熟と探究にこそ存在意義を見出す私にとって、ありとあらゆる魔法は興味の対象である。まして、今回の禁呪。気持ちが逸るのも、致し方なし。

 抑えきれない胸の高鳴りを感じつつ、『目線』を街のあちこちへと巡らせる。

 制御が非常に難しいとされる《至上の監視者(ヴァッヘ・ヴェルト)》を苦も無く発動させると、その効果を如何なく発揮し、モスティス全域に監視の『眼』を設置していく。それこそ、住民が最も集まる中央区、職人ひしめく東区、商会がしのぎを削る南西区、果ては過疎地の趣きある北区まで余す事無く監視網を構築。

 監視の準備が整う頃には、ゲシュタルトの方も初期動作――上空に発生した不気味な膜が外壁に沿って都市全域を覆いつくし、対象の逃げ道を塞いで包囲する工程――が完了する。

 それと同時に、ゲシュタルトは第二段階、更に対象を追い込む第三段階へと移行する。

 ここからが、いよいよ本番である。

 ゲシュタルト第二段階。魔力の搾取。

 読んで字の如く、ゲシュタルト内部に閉じ込めた生物から少しずつ体内の魔力を吸い上げる。そんな工程である。

 そして、それに追い打ちをかける第三段階だが――


「ふふふ♪ 出てきたわね、素敵よ。不細工さん♪」


 地面から黒インクのような液体が噴き上がり、噴き上がった液体は地面に降り注ぐことなく空中で一塊となり、徐々にその形を人型へと変えていく。数分の時を経て出現したのは、腐りかけの果物を彷彿とさせるぶよぶよの皮膚、元の黒が大分薄まり鈍色に近い体色、そのボディは芋虫の胴体のような節が幾つもあり、物を掴むのに適しているとは到底思えない出鱈目な生え方をした指が異質さをより際立たせる腕、人体の構造上あり得ない関節の曲がり方をしている為に二足歩行でありながら直立出来ないその出で立ちは、ただ「不気味」の一言に尽きる。

 細く長く死角に切り取っただけの手抜きな造形の口(?)からは「グヴォ」という汚らしい異音が漏れ出し、ある意味で骸骨のようにただ丸くくり抜かれた眼窩には果たして何が映っているのか――――?

 名を『虚ロナル者(シミュラクラ)』。ゲシュタルトの内部でのみ生きる事を許される醜悪な化け物であった。


 ゲシュタルト第三段階とは――――このシミュラクラの集団による(・・・・・)暴食。

 シュミラクラはゲシュタルト内の生物を貪り喰らい、その肉を全て魔力として獲得し、ゲシュタルトへと還元する。その様は完全にゾンビやグールそのものだがアンデッドではない為、基本的にそれらとは別物だ。ただし、一匹発生したら爆発的に個体数を増殖していく点では似たようなモノかも知れない。

 シュミラクラもまた、生存域がゲシュタルト限定であるからこそ、一度ゲシュタルトが発生すると悲惨な未来が待っている。さながら蝗害――草木を喰い尽くして不毛の地を作り出す大量発生したイナゴの如き状況が出来上がるのは必定。

 まぁ尤も、ゲシュタルト自体が禁呪指定である為、その禁呪を介して生み出される化け物の存在や詳細なデータなど、今や誰一人として知る者はいないだろうが……。


「いいわ。ゾクゾクしちゃう」


 都市のそこかしこで住民たちの悲鳴が、逃げ惑う悲観の声が、やり場のない怒りの声が、絶望の怨嗟が――――まさに負のスパイラルとでも言うべき数々の声が挙がる。

 こうしている間にも、また1人。《至上の監視者(ヴァッヘ・ヴェルト)》を介した視界の先で、シュミラクラに捕食される哀れな犠牲者(イケニエ)の姿を見る。


 シュミラクラが発生した以上――冒険者や騎士達の質に依るが――おそらく農耕都市モスティス全滅まで半日を要しないだろう。


 私はその全てを観察する。巡ってきた好機に胸をときめかせ、それでも仕事はきちんと熟さなければならない。


 すると、観察の最中、見知った人物の接近を背後に感じた。

 彼と別れてから直ぐに移動して私が拠点として陣取った家屋、その屋上。

 自分と同じ場所にその人物が跳躍からの着地をする音を、背後に聞いた。

 私のすぐ後ろ。おそらく私を追ってきたと推測されるその人物が、背後からその口を開く。


「ここで何をしてお出でですか、アズエル様?」

改めてこの章は、主人公以外の視点によるEXTRAが、ちょこちょこ挿入される構成でストーリーが進みます。

構成的にいろいろ試験的な部分もあったりするので、もし意見を頂ければ可能な限り改良したいと思います。(ついでに作者のモチベーションも若干上がります――逆に凹む可能性もありますが……)


とにかく、少しでも本作を楽しんで頂ければ幸いです

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