6-11「メイの意地」
ブックマークが100件を越えました!
応援、ありがとうございますm(_ _)m
「――――よくも、ジャマしてくれたね……」
幽鬼のようにこちらを睨むクルエに対してこちらも負けじと相手を見据えつつ、こちらの対応策を思案する。
鑑定の結果から言えば、かつて絶望的な戦いを演じたクレイジータイガーが可愛くすら思える程の力を持つ格上の相手である。素の力は勿論の事、クルエが持つ影に関連したスキルがなかなかに厄介であり、他に魔法を使える事も判明している。スキルに関しては大体の事は鑑定眼で把握済みだが、魔法に関してはどの程度習得しているのかまでは未知数なのが少々怖い。幸い、《知恵の書》の効果で影に関する魔法を一覧にして候補を絞る事は出来る為、一応の対策は可能だが……。
「コロス」
クルエが呟き、何かを仕掛ける直前。
「ッ!? させるか! 光よ、爆ぜろ《閃光弾》!」
己の勘と直感を信じて、すぐさま魔法を発動。それと同時に隣に居たメイさんの目元に手を翳して、その巻き添えを防ぐ。言葉による忠告の暇すら惜しんだ咄嗟の行動。実際、メイさんが状況を理解するよりも速く、俺の放った魔法が効果を発揮した。
俺が詠唱付きで放った魔法は白い塊――それこそ発光中の電球によく似た物体――としてクルエに向かって発射され、僅か数メートル飛んだ先でガラスが砕けるような音と共に自ら破裂を引き起こし、その内部に秘めた膨大が光源を解放する。要は、前の世界で言う所の閃光弾である。アクション映画等を見ていると度々登場する容疑者を無力化する為の対人兵器だ。
ともあれ、その強力な閃光が瞬く間に周囲一帯に広がる。
その結果は……。
「チッ! くそったれ」
潜る為の影を寸でで掻き消された事によって影から弾き出されたたらを踏むクルエの姿。
クルエの相手をするに当たって最も注意が必要なのは、利用する影の位置である。生まれ付いての強制強化と引き換えに、影に関するスキル及び魔法に天才的な才を持つ相手であるから当然である。
その意識があったからこその、咄嗟の《閃光弾》。それが功を奏した事に内心で安堵する。
しかし、問題はこれからだ。クルエと戦うとして、影対策はあくまでも最低限の策でしかない。その上、影を完全に失くしてしまう事はなかなか困難を極める。そして、狂っていても相手は高レベルの戦士、素の力も想像を絶すると思われる。
となると、とりあえず取るべき対応策は。
「《障壁》!」
俺はクルエとの距離をとって態勢の立て直しを図るべく、石で出来た巨大な壁を造り出してクルエと俺達の間を塞ぐ。単なる時間稼ぎだが、それで数秒程度は稼げると判断する。
すると。
「そんな壁でどうにか出来ると思っているのかな!? ボクを舐めてるのかい? 舐めてるよな、舐めるなよ、そのクソが!? 貫け《影槍》」
案の定、《障壁》はあっさりと破壊された。魔法を使用して、一撃のもとに壁を木端微塵にしたクルエが駆けだす。
であれば、次はコイツでどうだ。
「《拘束土》、からの………《地下封潜》!!」
突っ込んでくるクルエを、今度は粘土で構成された触手で捕える。そして、触手で絡めて動きが鈍った僅かな隙に続けざまに魔法を捻じ込んで、更にダメ押し。対象を地面の中――むしろ下へと沈めてしまう地属性の上級拘束魔法《地下封潜》で、クルエを地面に埋めてみせる。
「やったの?」
未だ状況に追いついていないメイさんが、俺に聞いてくる。しかし、答えはノーだ。レベルが50を越えている者が、この程度で倒せるはずがない。これすらも、時間稼ぎにしかならないだろう。そのようにメイさんに説明する。
「そう」
メイさんは、クルエを埋めた場所をチラリを見やり、そして……
「この場は私に任せてくれない?」
思いもよらない事を提案して来た。
そしてそれは、到底、受け入れられる提案ではない。
「アレを独りで相手取るのは無茶だよ。ここは二人で……」
「アイツが、クルエが私よりもはるかに格上なのは分かった。けどね。私は、私の目的の為にあいつに口を割らせる必要があるの。あいつが私に執着している今、これは好機だとも思ってるんだ」
「だとしても、やっぱりここは協力して」
「ねぇ、タケ。ちょっと前まで戦う術を何も持っていなかった貴方が、何故急にここまで力を身に付けたのか、私には分からない。その辺の事情はさっぱりだよ。上も含めて、ね」
メイさんは、上空を覆った不気味な膜を指して言う。
「貴方には、アレの止め方が分かる。もしくは、対処法を探る目星がある。……違う?」
「……なんで、そう思うんですか?」
「なんとなく。ただの勘だよ。でも、やっぱりそうなんだね?」
「アレが何なのかはっきりと分かっているわけじゃないですよ」
「だけど、調査は出来る」
「……………」
「だとしたら、尚の事、貴方はこんな所で足を止めるべきじゃない」
「でも!」
「私が残るのは、ただの我儘の結果だよ。それに貴方が付き合う必要はない。あくまで、これは私の意地……だから、ね?」
「……ッ!」
反論はいくらでも思い浮かぶ。高レベルの相手に単騎で挑む無謀さなど今更、説くまでもまでもない。
しかし。
メイさんの目を見たら、何も言えなくなってしまう。 彼女の目は、あくまでも本気だった。真っ直ぐにこちらを見据え、言葉と共にその目もまた「先に行け」「ここは任せろ」と雄弁に語っているように見えた。
反論の言葉は――――遂に打ち消されてしまっていた。
ならば、せめて――――――。そんな思いで、俺は魔力を練り上げる。
「この地を巡る地脈の守護者よ、我に地の利の恩恵を《空間座標設定》。……空間、把握――完了。座標指定――完了。導かれよ、其れは虎の威を借る戦衣装――対象【クレイジータイガーの皮鎧】顕現せよ《装備召喚》。召喚――成功」
先ほど、アズエルが用いた魔法を、そっくりそのまま使う。流石に無詠唱での行使は難度が高い魔法だったようで、これを無詠唱かつ何でもないように使って見せたアズエルの技量の高さが改めて垣間見える。伊達に天使ではない、と言った所か。それは、さて置き。
「じゃあ、メイさん動かないで。《強制装備》」
召喚した彼女の為の《クレイジータイガーの皮鎧》を、メイさんに装備させる。
「え? なに、コレ!?」
戸惑う彼女を無視して、更に別の魔法を発動。
装備させたばかりの皮鎧には《防衛上昇》を掛けて防御力を強化し、彼女が持っていた短剣に対しては《名匠の手直し》による武器の疲労修復と性能強化、更に《斬撃強化》による攻撃力強化も忘れない。
元々戦闘が出来ない俺と違って、メイさんは戦い方を知っているし、なにより彼女には誇りとも言える磨き上げた剣技がある。だから、俺みたいなMDは必要ない。ただし、装備だけは出来る限り良い物へと引き上げる。それだけでも、彼女なら十分に戦える。
感情論かも知れないけど、俺はそう信じる。
彼女の覚悟と意地を信じ、最後に助言。
「出来得る餞別はしたつもりです。後、奴の影には気を付けて」
「えっと……結構本気でそれほど魔法が使える様になった経緯が気になるところだけど、ありがとね」
「後で、いくらでも質問には答えるよ。じゃあ、武運を」
「えぇ、タケの方こそ武運を!」




