6-10「クルエントゥスのステータス」
アズエルと分かれた俺が取りあえず考えたのは、メイさんと合流する事だった。
彼女とは直前まで一緒に居た事もあり、こういった荒事においても彼女と合流する意義は大きい。
路地を逆に戻って大通りまで走って戻る。
そして、俺が目撃したのは――――
足元に出来た影から上半身を迫り出させて、手に持った木刀の先端を彼女の背に今まさに突き立てんとする喜色を浮かべた浮浪者風の男。
そして、その存在に寸前――もう手遅れのタイミングで気付いたのだろう、表情を歪めたメイさん。
数秒後には、男の木刀が彼女の無防備な背に直撃するだろう。
そんな間一髪のタイミングに、俺は魔法を使う。
使う魔法とその種類は《知恵の書》による脳内検索で即行弾き出し、《賢者の円環》のおかげでどんな魔法であっても難なく行使する。アズエルによるドーピング――もう開き直った――が施された今の俺だからこそ、ギリギリで間に合う際どいタイミングだが、魔法は無事、発動した。
「《緊急回避》!!」
中級の防御系魔法――《緊急回避》。術者に対する危機を自動で感知し、危険個所にピンポイントで防御障壁を発生させる魔法である。一度掛けておけば、駆けられた本人が気付かない死角からの攻撃であっても、魔法そのものが自動で感知して発動してくれるという便利な魔法だ。
ともあれ。
男の木刀がメイさんに到達するまでの僅差。そんな寸でのタイミングで、ガラス板のような透明な障壁が発生し、男の凶行を阻んだ。
「タケ!?」
メイさんが驚きの声と共に駆け寄ってくる。
「メイさん、無事!?」
見た所、彼女に怪我はないように見える。多少の疲弊は見られるものの、大事には至っていないと思われる。
「えぇ、助かったわ! でも、あなたこそ――――」
「――――よくも、ジャマしてくれたね……」
メイさんの言葉は、男の言葉によってぶつ切られた。
口調は静かで穏やかながら、明確な不快感と、気味の悪い怒りが宿っている様な声色。普段の俺なら震え上がって身が竦む事請け合いだが、今の俺には恐怖耐性が付加されている為、悠長にそんな事を考えていられる位には余裕がある。
更に、俺は男に対して『鑑定眼』を使用した。
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☆ステータス☆
クルエントゥス/人間族/♂/AGE:19
レベル:53
HP:23500/23500
MP:1400/1400
状態:強制狂化(解除不可)
職業:罪人
◆スキル一覧
『影転移』
任意発動型。
影の中に飛び込み、別の影へと移動して出現する事が出来る。
ただし、スキル保持者自身が出入り出来るだけの大きさが確保されていなければ発動出来ない。
『影収納』
任意発動型。
スキル保持者自身の影の中に物品を収納する。
自身の影が独立して存在する状態で無ければ使用出来ず、大きな別の影で自身の影が判別出来ない状態や、夜間にこのスキルは発動しない。
また、このスキルは生物に対して発動する事が出来ない。尚、この制約は例え死骸であっても適応されるが、一度加工されアイテムとして扱われる状態であれば収納可能。
『影呑』
任意発動型。
影を入り口として対象を影の中へと引きずり込む。
同時に、スキル保持者自身も、影の中へと任意に入りこめる。
影の中は何処までも真っ暗な空間が広がっており、保持者の意志とレベルによってその広さは調整可能。
また、一度呑み込んだ対象は、保持者の意志で自由に解放する事が可能。
このスキルは生物に対してのみ発動できる。
『影才狂化』
固有特殊型。
影を操る才能に恵まれる。
反面、精神が汚染され、言動が不安定となる。
このスキルは常時、強制発動状態であり、解除する事は出来ない。
◆プロフィール
元王立図書館特務司書官。王都のスラムに生まれ、顔を潰す事に偏執した連続殺人鬼。その偏執的な犯行から『面汚し』や『赤面鬼』等の二つ名で呼ばれ、その首には懸賞金も掛けられている。名工・シヴァの銘が打たれた鋼殻樹製の木刀《宵姥桜》を所有。影に関するスキル及び魔法を扱う天性の才を有し、生まれながら異常に発達した身体能力を持つ。
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クレイジータイガーに使って以来、主にレベル差の問題があってなかなか使用する機会がなく、かなり久々に使ったスキルだが今回は特に障害も無く真価を発揮してくれる。
しかし、レベルが高い……。今の俺のレベルよりは下とは言え、俺の場合はドーピングによる底上げの結果であって、言ってみればインチキだ。だが、この男――クルエントゥスとやら――は、あくまで自力でこのレベルに到達したのであって、RPG系のゲームで言えば間違いなく終盤のボスキャラ的ポジション。文句なしの猛者である。
―――――さて、どうしたものか……?




