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6-EXTRA(side:メイ)「vs.クルエ①」

 防衛特化にして流派の基本形――鉄鼠の構え。短剣を用いた二刀流の流派はそれなりに数あれど、それらを逆手に構え、更に刃を腕に沿わせる様に構える姿勢を基本とする流派は恐らくメズゥー流くらいのモノだろう。それくらい独特の構え方であり、本来剣を持つことで得られる間合いをほとんど無くし、短剣とはいえ得物を用いた武術であるにも関わらず素手の間合いと大差ないという、剣術としては一見下策のこの構え。しかし、私が修めるメズゥー流は護剣術(・・・)、つまり、『護る』為の剣術であって、攻撃を主眼に置かない護身術の流れを汲む流派だ。その理念を体現した容こそがこの鉄鼠の構えであり、先人達による思考錯誤の末に辿り着いた最適解がこの構えには込められている。


「ははは。やっぱり、その構えなんだな! 見た事あるぞ。確かに見たな、その構え! あぁ~、いいよ。いいな。いいぞ。あいつと同じ構えだ。じゃあ次は……」


 ニヤニヤと表現するに相応しいねっとりとした狂気の笑みに口元を歪ませ、クルエが喚く。そして、徐に身を屈ませると地面に手を伸ばし、遂に自らの影の中へと手を突っ込む。まるで水面のように影が波紋を起こし、クルエの右手は手首まで完全に影の中へと沈んでいく。

 そんな様子を見やりながら、私は私で思考を巡らせる。

 最初に出会った時、クルエは影の中に身を沈ませて姿を消した。その事から考えて、この男は影を利用した特殊なスキルを所持しているのは間違いない。一応、何らかの魔法の可能性も無きにしも非ずだが、魔力を発している気配が一切ないので、多分、スキルだろう。

 そういった事を事前に、それこそ自らのスキル(チェイサー)を駆使してこの男の行方を捜していた時から想定していた私は、影の中に沈んだ右手に注意を向けつつも、クルエ本人に対しても気を張り詰める。

 やがて、クルエは一旦沈めた右手を、今度はゆっくりと引き上げた。その手には、見覚えのある血染めの木刀。

 そして。


「反応の仕方を比べてみようか」


 先ほどまでの狂的な笑みから一転しての冷たい無機質な声色でクルエが言い放ち、一足跳びで斬り掛かる。その軌跡は右斜め上から左斜め下へと降りる袈裟切りで、文字通り飛び掛かっての斬りこみである為、膂力も合わさり見た目よりも大層な威力が加わった一撃であろうと思われる。

 そんな分析をしつつ、私は左手に構えた短剣で奴の木刀を迎え撃った。その際、重要となるのは決して敵の(・・・・・)攻撃を受け止めない(・・・・・・・・・)事だ。いくら軌道が読みやすい単純な攻撃と言っても、威力が弱い訳ではない上に、私の腕でまともに受けては容易に力負けして斬られるのは必定。故に、刃で刃を受け止めるのではなく、相手の刃にこちらの刃をあてがってやり刀身を滑らせるように力を逃がしてやるのが正解である。柔を持って剛を制す、という流派の基本戦術で持ってクルエの木刀を往なす。

 ついでに、無駄な跳躍を交えた大振りの一撃を往なされ僅かにたたらを踏むクルエに、右手の短剣でお返しをくれてやる。本気で仕留めるつもりならばこの隙に首元を狙う所だが、万が一にも殺してしまうわけにいかない今回は、その大分下――脇腹を斬り付けるつもりで刃を振るう。

 「おっと!」クルエは大仰に言いつつ、側転するように身を捩じらせてそれを回避した。

 反応速度や身体能力の高さも然る事ながら、意外なほどの柔軟性だ。私は、舌打ち交じりに内心、そう愚痴る。飛び掛かり、しかも、バランスを僅かとは言え崩された状態での着地の直後を狙った攻撃だ。別に今の一撃で決着を付けられるとまでは欠片も思っていなかったが、まさか避け切られるは思ってなかった。


「いやいやいや。危ない、危ない。危うく一撃挙げるつもりが、逆に貰う所だったよ。まぁでもアレだな。反応は及・第・点! って所かな。危なかっただけで、攻撃は喰らってないし。追撃もしない。あいつなら首を狙って二撃三撃してくるだろうさッ! ははははは」


 クルエのその反応が私をよりイラつかせる。特に挑発する意図はない癖に、ナチュラルにこちらを挑発してくるのがコイツの言動だ。何より、私の反応を、対処を、行動を、それら全てをあの人と比較して愉しんでいる様子が見て取れるのが、何にも増して腹が立つ。時折、だらんと提げた木刀を地面にカツカツと打ち付けながらやたら大仰に語るものだから、それに拍車を掛けるのだ。


「ほらほら。今度は攻めて来給えよ。楽しい楽しい、斬り合いに興じようぞ…………おぉや?」


 両腕を広げて、こちらの都合もお構いなしにそんな事をのたまうクルエを無視して、私は動かない。鉄鼠の構えを崩さず、一定の距離を保ってクルエの動向に注視するのみだ。

 それを怪訝に思ったのだろう。クルエはあからさまに首を傾げる。が、すぐに合点がいったようで、また一方的に喋り出す。


「あぁぁぁそうか、そうか。そういや聞いた事あったな。確かその剣は護りの剣、なんだったか。護りに徹して、攻撃しないわけか。ふ~ん。あいつと付き合ってるとそんな流派(ルール)があったのも忘れるねぇ。まっ、いいか! そうならそうと言い給えよ! それならそれで、こちらから攻め立てるからさ」


 そう言うや、クルエは木刀の先端をこちらに向けた。

戦いの緊迫感を文章のみで表現するのは、やっぱり難しいですね

もう少し(まだ大分?)語彙と表現力を磨くべきか……と軽く自ダメージを受けながら、とりあえず挙げてみました

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