6-EXTRA(side:メイ)「異変と因縁」
空を覆いつつある油膜のような不気味な歪み。
それに気付いたのと同時に、アズエルさんが突然現れるやタケの腕を掴んで路地へと連れ去ってしまう。
取り残される、私。
「……何だったのかしら?」
呆然と呟く。
いつになく緊迫感あふれる彼女の言動を見るに、上空のアレと無関係と言う事はないだろう。
タケ本人は否定も肯定もしていないけど、嘘かホントかタケの実家筋の関係者ではあるようだし。
私から見てアズエルさんは、割とのらりくらりとした印象がある。掴みどころがない、と言うのともちょっと違う。なんというか常に余裕があるというか、見た目・言動に反して本音を見せていない印象が拭えないのだ。とは言え、少なくともAランクのモンスター・クレイジータイガーを魔法で葬る実力者である。
そんな彼女が常の余裕を感じさせる事無く、むしろ焦りを露わにタケを連れ出したのだ。何かある、もしくは何かあったのは確実。
問題は、一体『何』が起こっているのか?という事だが、残念ながらこの現象を引き起こす原因に、私は心当たりがない。
まず、自然現象ではあり得ない。恐らく、何らかの魔法であり、アレは良くないモノだと言う事くらいは分かる。見た目の禍々しさが、その印象に拍車を掛けているのは言うまでもない。
「何が起こってるの?」
そんな呟きに、予期せぬ声が応える。
「なぁに大したことじゃない。ただゲシュタルトが発動したのさ。ただそれだけ。たったそれだけの話だよ。詰まらないね。詰まらないよ。詰まらないはずだ」
「ッ!?」
声は背後から、唐突に。
この素っ頓狂な壊れた人間そのもの喋り方。無駄にイラつく声質と、意味のない無駄な三段活用。
私は、この声に心当たりがあった。
あの日から探して見つけられなかったアイツに間違いない。
意を決して後ろを振り返る。
「……やっと見つけたッ」
無頓着に伸ばしていた長い髪はざっくばらんに短く切られ、不均一な長さに適当に伸びていた無精ヒゲは剃られてこそいるがポツポツと剃り残しが目立っていてかえって不潔さが目立っている。その装いは、相も変わらず黄ばんで薄汚れたコート、それをマントのように羽織っていた。
身なりはそれなりに整えられているが、それでも浮浪者のような見た目は変わっていない。
果たしてそこに居たのは、予想と違わず。
「クルエ!」
曰く「狂乱をこよなく愛する、生きる狂人」。
私がスキルも駆使して追跡を試みるも、遂に見つけられなかった相手。
そして、私達を――――いえ、メズゥー流護剣術の誇りを裏切ったあの人に繋がる、現状、唯一の手掛かりを握っている人物。前回は易々と逃げられたが、何としても話を聞き出したい。そんな意味で、因縁のある相手が、今、目の前に居た。
「覚えてくれてたのかい!? あぁそうか、そうか。そうゆうことか。僕が、俺が言った事を覚えてくれてたのか。そうゆうことか。忘れずにいてくれて光栄、栄光、誉れだよ。クルエは今、歓喜している! 奴と同門、同じ技を身に着けた、同じ剣を使う、シミュレーションとしてはこの上ない!! あぁ! いいな! いいね! いいぞ! 今日この日をどんなに待ち望んだことか! その顔面を叩き潰す、この至福。君に理解出来るかい!?」
「理解できるわけないでしょ、この変態! 今日こそ逃がさないわ!」
「うん? 逃げる? なぜ、逃げる必要があるというのか!? やれやれ…。敢えて繰り返そう。もう一度言うよ。繰り返すぞ。今日この日をどんなに待ち望んだことか! その顔面を叩き潰す、この至福を! ゲシュタルト決行に合わせた、今日この瞬間を!!」
「その執着は気色悪いけど、逃げる気がないのなら好都合よ! あの人について全て吐いてもらうわ。そのゲシュタルトとやらについても、ねッ!!」
私は愛用の双剣を抜き、流派の基本形――鉄鼠の構えでクルエと相対する。
6章は主人公視点の本編の合間に、他者視点のEXTRAが随所に挿入される構成を予定しております。
試行錯誤はしてみますが、もし読み辛かったらすみません




