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6-8「DMの結果」

「……そうか、コレが《知恵の書(ディクショナリー)》の効果か」


 この世界には魔法がある事は知っていても、その基本知識すら学んだことのない俺が何故、初見のはずの魔法とその効果を知る事が出来たのか? その疑問と答えは、一瞬の思考ですぐさま弾きだされた。

 アズエルに施されたバフの一つ、《知恵の書(ディクショナリー)》。それが、答えだ。

 『知恵の書』の魔法名が示す通り、この魔法は被術者に知恵を授ける効果を持つ。より具体的には、この世界にある古今東西あらゆる魔法の知識、それこそ魔法の初歩にして基本とされる下級魔法――いわゆる《ファイヤーボール》とかそういった類――から、以前アズエルがクレイジータイガーを葬った際に使ったと称していた《ライジングレイ》等に代表される上級魔法、更にそれよりも高位の超級魔法に至るまで与えられる知識の恩恵は幅広い。唯一の制限があるとすれば、禁呪に属する魔法や何らかの代償――それこそ生贄等と言った多大なリスクを要する魔法は閲覧出来ないという点くらい。尤も、その制限も《知恵の書(ディクショナリー)》の上位互換である《深淵の書(ネクロノミコン)》ならば撤廃して閲覧可能だが、この場合、術自体の欠陥――というか当然の仕様によって被術者は数秒で廃人確定なので結局は使えない(・・・・)。まぁ《知恵の書(ディクショナリー)》にしても、短時間ならともかく掛け続けるのは本来ならヤバい(・・・)のだが……。


「正解です。尚、お察しの通りかと思いますが、術のデメリットは《精神統一(スピリチュアル・カーム)》と、元々お持ちの《異常耐性》スキルを強化する事で極力抑え込んでます」


 まぁ、そうゆう事である。ちなみにどんなデメリットかと言うと、膨大な知識を得た事による全能感に伴う異常興奮もしくは虚脱の二通りがある。つまる所、ありとあらゆる魔法知識を得た事で全知全能を得たと無理からぬ錯覚(・・・・・・・)に陥って……まぁアレだ。敵に唆されて人外の力を得たものの主人公にボッコボコにされる引き立て役以下の三下的な存在に成り果てるか、もしくは学術的な意欲が急速に削がれて無気力――ある意味でうつ病に近い状態になる。そして、その傾向は術を掛けた時間に比例して、加速度的に悪化する。当然と言えば、当然である。

 それを防ぐセーフティが、アズエルの言う二つの魔法とスキル――精神を一定に保つ《精神統一(スピリチュアル・カーム)》と、魔法的な状態異常に耐性を持たせるスキル《異常耐性》――という訳だ。


「無論、それで得た知識は《賢者の円環(ワイズマンローブ)》によって自在に行使可能です。必要魔力に関しても対策済みですよ」


 あくまで《知恵の書(ディクショナリー)》は知恵を与えるのが本懐であって、使えるか否かは本人の資質が物を言う。当然、魔法なんて一切学んでいない俺に使える道理はないのだが、そこでバフその2――《賢者の円環》の登場である。この魔法は対象者の資質や熟練度に関係なくあらゆる魔法の行使を可能とする。そして、難度があがれば上がる程、発動に膨大な量を必要とする魔力もまた先程のバフによって対策が練られていた。外部に漂う指向性のない魔力を片っ端から取り込んで己の魔力へと製錬する《外部魔力炉(グレーター・マギタービン)》と、読んで字の如く本位の許容力を越えて膨大な魔力を体内に蓄える《高魔力貯蔵(グレーター・マギタンク)》の二段構えが、まさにそれだ。これは言ってみれば、自分の身体に原子炉を組み込んだようなもので、莫大な魔力(エネルギー)を生み出せるが、反面、扱いを誤れば最悪の場合周囲を巻き込んだ壮大な自爆・自滅を招く恐れも、可能性としてはあり得る。過信せず細心の注意が必要である。

 ともあれ、これらによって俺は最高水準の知識と技術、更に規格外の魔力を持ったトップレベルの魔法使いへとインスタントに強化された。正直、真っ当に修行している人達から大顰蹙(ひんしゅく)を買う事間違いなしの反則技だろう。我が事ながら、下手すりゃ立派な殺害動機になるとすら思う。今は非常時だから許して欲しいと、誰にともなく思いつつ――


「勿論、強化・補正は魔法に関する技能だけじゃありませんよ。取りあえず、ステータスを確認して貰えますか?」


 そう言われて、そう言えば最初に樹海で確認して以降、自分のステータスを改めて確認した事が無かった事を思いだす。まぁ街中で、しかも雑用を引き受けている状況下でステータスを気にしていてもしょうがないっていう理由もあるけど、それは単純に俺がそれ自体を忘れていた事も起因する。そもそも前世――地球にはステータスを表示するなんて習慣はフィクションにしか存在しない訳で、しかも、別に確認しなくても生きていくのに支障はない。だから、『忘れるのはしょうがない』と内心で言い分けしつつ、久しぶりに「ステータス・オープン」を唱えた。……アズエルの視線に呆れが混じって見えるのはきっと気のせいである。そうに違いない。



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   ☆ステータス☆

 ハセ・タケユキ/人間族/♂/AGE:21

 レベル:9(69)(+60)

 HP:870(26100)/870(26100)(×30)

 MP:110(#$%#&)/110((%(')(計測不能)

 状態:重複強化中

 職業:冒険者(Dランク)

◆スキル一覧

『生命力強化』

『異常耐性』

『アイテムボックス』

『言語習熟』

『マッピング』

『鑑定眼』

『運命天秤《ラックバランサー》』

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 …………えぇ!?

 元の数値がヘッポコとは言え、HPの強化倍率30倍ってバフの効果パネェな!?

 …ってか、MPに至ってはカウンターがぶっ壊れたぞ!?

 コレって大丈夫か!? いや、他の人のステータスを見た事がないから比較できるデータ無いけど、まさか人間辞めてるレベルって事はないよね!? そこまでじゃないよな!? 流石に心配になるんだけど!? 確かに護りたいし、その為の力も求めたけど、いくらなんでも人間辞めようとまで思ってないよ!?


「驚いているようですね?」


 あぁ、なんつうか(良かれ悪かれ)度肝抜かれたわ……。


「数値上の強化は見ての通りですが、同時に表示外の腕力や脚力等の基礎身体能力は元より、経験則を伴った戦略眼、相手の急所を見抜く観察眼、更には防御・防衛・危機回避の各種魔法も万遍なく重ね掛けした上、スキルの方も軒並み強化してあります」


 へぇー、そうなんだぁー。


「他にも色々と仕込んで――もとい施した術はいろいろありますが、結論として今の長谷さんは、この世界の冒険者を基準とした場合、Sランクに限りなく近いAランカー程度の力はあると断言します」


 それを聞いて俺がまず思ったのは、『良かった~まだ人間辞めてなかった!』というものだったと一応、報告しておきたい。…微妙にズレてる自覚はあるので、少しほっといて下さい。

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