6-7「それは過剰なまでのドーピング」
「では魔法を掛けますので、そろそろじっとして下さい」
「俺が落ち着きない子みたいに言うな!?」
若干腑に落ちない部分はありつつ、俺はアズエルの指示に従い、大人しくする。
「では行きますよ!」
いつになく真面目な声と共に俺の足元には光の円が発生し、そこから立ち昇った光がカーテンのように俺を取り囲む。気付くと足元の光円にはびっしりと幾何学模様が描かれており、しかも文字とも図形とも判別付かぬそれらは円の中にあって連動するように規則正しく運動し、さながら現代の精密機器の中身を覘いているような得も知れぬ昂揚感を感じさせる。
そして、MDという名の強化作業のラッシュが始まった。
「《腕力強化》《速度増大》《鷹の眼光》《飛級》《知恵の書》《賢者の円環》《人化の竜》《鉄鋼》《緊急回避》《事前警報》《遭遇回避》《最大駆動》《限界突破》《身体超強化》《戦略》《外部魔力炉》《高魔力貯蔵》《精神統一》《恐怖耐性》《苦痛耐性》《技能超化》《体力保護陣》《生還の奇跡》」
…………。
予想を大幅に越える怒涛の強化に、正直引いた。
うん。なんと言うか――――ゴメン!
なるべく表情には出さないように気を付けつつ、俺は心の内でアズエルに謝罪する。
一応、自己弁護させて貰えるなら、知ってる魔法を右から左に片っ端から掛けたかのような魔法のラッシュに言葉を失ったのは事実だし、先ほどのRPGの例えを持ち出しても、少なくとも俺はここまでのバフを使ってボス戦に挑んだ経験はない。そういった物は何かしらゲーム上の制限があったり、もし制限が無くてもここまで魔法を重ね掛けする事はないと思うんだよ。それを踏まえて、今一体幾つの魔法を重ね掛けされたんだろう? 10個は余裕で越えてたよな?
そんな俺の動揺を知ってか知らずか、アズエルは次の指示を出す。
「じゃあ次は装備の強化ですね。とりあえず、成牙と盾を出して貰えます?」
「……あぁ、どうぞ」
動揺のせいか何故か微妙な敬語で返事しつつも、俺は《アイテムボックス》から武器《狩猟刀“成牙”》と防具《鋼殻樹の小盾》を取り出す。そして、それらをアズエルに渡そうとしたところでアズエル本人からのストップが入り、次の指示が出される。
「では、成牙と盾を装備して貰って――――ちょっと待ってください。確か仕立て屋さんに発注してた防具があったはずですよねぇ。どうせなら、それもまとめて強化しちゃいましょう! 《空間座標設定》、《装備召喚》、《強制装備》!」
もはや俺の理解を越えているので、起こった事をそのまま羅列するが……。
短刀と盾を持って突っ立ってたら、いつのまにか革鎧を着せられてた。
…………。はなはだ意味不明だが、事実である。
いや、違う。
今の俺には、今の一連の流れがよく分かる。理解できる。
《空間座標設定》の魔法で都市の全体を把握し、次いでアイテム専用の召喚魔法の一種である《装備召喚》によってナミュールさんの店舗に保管されているはずの革鎧《クレイジータイガーの皮鎧》をこの場に呼び出すと同時に、文字通り強制的にアイテムを対象へと装備させる《強制装備》を発動させて革鎧を俺に装備させた。ただそれだけの事。
…………いやいやいや! なんでそんな事を、まるで些細な事のように、むしろ知っていて当たり前のように俺は知っているんだ!?
「ご自身の変化に戸惑うのは理解しますが、装備の強化を先にさせて貰いますね。《斬撃強化》《防御強化》《防衛上昇》《名匠の手直し》《悠久の物》」
次々と俺の装備品に強化が施されていく。
そして、アズエルが唱える術の効果がどういったものなのかを当たり前の知識として再度、理解した。例えば、盾に《防御強化》を使ったのに対し、革鎧には似た効力が在りながら敢えて別の《防衛上昇》を掛けた理由さえも今の俺は完璧に把握している。どちらも防御力を上げる点は一緒だが、《防御強化》の場合、対象物を魔力でコーティングする事で物理的に物体を圧し固めて防御力を得る。対象が盾ならばその魔法は最適と言えるが、それを革鎧にまで施してしまうと、それこそ鉄の一枚板で作った鎧を着たかのように装備者の身動きが全く取れなくなってしまう。それを防ぐ為に、敢えて革鎧には別の強化魔法が用いられているわけだ。ちなみに、《名匠の手直し》と《悠久の物》は、それぞれ武器の性能アップと破損率低下の魔法であり、《斬撃強化》に至っては文字通りなので改めて言うまでもないだろう。
しかし、それでも分からないのは。
「なんで、そんな事俺が知ってるんだ?」




