6-4「俺の選択は――」
なんとか復活しました。少しでも楽しんで頂ければ幸いです
「この街を脱出しますか?」
アズエルのその問いに、俺は即答出来なかった。
彼女が言う大規模魔法の影響――歪んだ空を見れば、今の状況のヤバさは十分に理解できる。ついでに言えば、周囲――とりわけ大通りの辺りからの困惑と狂乱に満ちた、ほとんど怒声と言ってよい声が随所から上がっているのが耳に届いている。完全にパニックの様相。
正直、脱出出来るなら脱出したい。
いくら女神様から貰ったスキルがあると言っても、それは荒事にはほとんど無力で、ささやかな物である。一応、ピーキーなスキル〈運命天秤〉もあるが、あれにしてもこんな状況下で如何ほどの効力を発揮出来るか……。そもそも、俺はこんな非常時に戦える程の力はないし、かといってパニックを治める様なカリスマ性がある訳でもない。所詮は、無力な一小市民であり、ラノベのヒーローではない。むしろ、パニックを起こす側だ。
そう思えばこそ、脱出できるなら脱出してしまいたい。
どうゆう手段を使うのかは分からないが、おそらく、アズエルにはそれが出来るのだろう。しかも、それほど苦労する事無く、あっさり脱出を成し遂げるに違いない。
それが分かっているのには、俺には即答する事が出来ない。
何故か?
仮に脱出をしたとして、その後、この都市に何が起こるのか、起こり得るのかを聞いてしまったからだ。
このまま、何もしなければこの都市は全滅する。
結末はシンプルで、だがそれ故に脱出した――つまりは見捨てた場合の後味は最悪だと思われた。
滞在したのは、せいぜい一ヶ月程度。縁としては、非常に短いものだ。
ただ、そうは言っても割り切れない。時間としては短くても、その期間で出会った人との縁というか情は決して薄くはない。
おっとりした宿屋の女将クラリスさんには常日頃お世話に成りっぱなしだし、同居人(?)のアリーチェさんは……まぁいいか。強面で一見恐そうだけど話してみると意外と面倒見も良い鍛冶師のおっちゃん・ケヴィンさんだとか、依頼を通じて知り合った職人達も総じて気のいい人達ばかりだ。今でも偶に勉強を見てやっているフレイも言動が生意気なのは変わらないが、それも年相応と思えばむしろ楽しくはある。この世界に転生して初めて見た猫耳の受付譲・メリッサさんの笑顔には癒され、俺にとって出来る大人を体現していると言っても差支えないジェロームさんも居る。そして、勿論、ナシワーツでは命を救われ、その後も何かと世話になっているメイさんの存在は言うまでもない。
そんな彼女らを、我が身可愛さに見捨てる?
そんなことは――――やはり出来ない。
確かに自分には力がない。むしろ、邪魔でしかない――かも知れない。
でも、それでも。
躊躇なく街から逃げたすという決断を下す事が、俺には出来なかった。
かといって、その決断は「死なば諸共」というか、この都市を死に場所に決めた――という意味ではない。俺だって、好き好んで死にたくはないし、やれることは全てやる程度の足掻きはするつもりだ。
だからこそ、俺はアズエルにこう言う。
「俺はこの都市に残りたい。俺は俺にとって大切な人達と、まだまだ歩んでいきたい。こんな所でゲームオーバーを迎えるつもりはない。全てを護る、なんていうつもりはない。ちっぽれな俺が守れる範囲でいいんだ。だから、協力をして貰えないか? お願いだ!!」




