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5-EXTRA「ある人物の後悔と贖罪」

お待たせしましたm(_ _)m

 あれは、まだランクがようやく『C』に上がったばかりの頃の話だ。

 ギルドにおけるCランクと言えば、冒険者としては中堅――言ってみれば一人前と認められるボーダーラインである。その見方は、今も昔もそう変わらない。

 当時、二十歳を僅かに過ぎた程度だった俺は、十八でギルドに登録し、僅か数年でCランクに到達した出世株のルーキーとして、ギルドでちょっとは名の知れた存在だった。俺自身、自分の力に相応の自信を持っていたし、他の冒険者やギルド職員達もその戦闘力を認めていた。まさに、自他共に認める強者であったのだ。

 ……いま思えば、愚かな事だと失笑が漏れる。自惚れも甚だしい。

 確かに、同年代の冒険者と比べればその実力は高かった事だろう。それは事実だ。

 それを指して、周囲のベテラン冒険者も囃したてていたのだろう。――――まぁ体の良い酒宴の話のタネにされていただけとも言えるが……。

 だが、俺は、それを真に受けるのみならず、自分は誰よりも強いのだと、そして周りは格下だと思い込んだ。今思えばあの時の態度は傲慢そのもの、文句があれば力で黙らせるチンピラに成り下がっていた。まさに、鼻高々に天狗になっていたと言える。

 そんなある日の事である。


   ◆


「なんで、この俺が依頼を受けちゃいけねぇんだよ!?」


 カウンターに拳を振りおろしながら、肩を怒らせ受付譲を問い詰める。

 当時、天狗になっていた俺だが、流石にCランクとしての身の程は弁え、Bランクの依頼を受けようととある依頼をカウンターに持ち込んだのが発端だった。

 依頼内容は『クレイジータイガーの牙を入手して欲しい』というモノ。

 クレイジータイガーと言えば、Aランクの魔物であり、単独討伐は不可能とも言われる化け物だ。当然、通常ならAランクもしくはその上Sランクの依頼として発布されるべき依頼である。

 だが、今回、それがBランク依頼となっているのは偏に内容が『討伐』ではなく『牙の入手』であるからに他ならない。

 クレイジータイガーの特徴である長い牙。あらゆる獲物を食い千切るその牙は、職人が地道に研磨すれば頑強かつ強力な武器に加工できる希少価値の高い素材である。そして、その入手は意外と――少なくとも討伐して得るよりは圧倒的に簡単だったりもする。と、言うのもクレイジータイガーの牙というのは成長に合わせて定期的に生え変わる事が知られている上、固有スキルの《飛牙》――飛ぶ牙の名が示すように牙を射出する遠距離攻撃スキルも使用してくる事が確認されている。

 つまり、その際に捨てられた牙を拾って来れば、牙自体の入手は可能なのだ。尤も、クレイジータイガーの棲息領域に出向いた所で必ずしも牙が落ちているとは限らず、この方法は運が物を言う。ギャンブル性がすこぶる高く、折角危険を冒しても空振りに終わる可能性も高いが、少なくとも奴の討伐を試みるよりは余程現実的方法だと言えた。むしろ、牙の入手であれば普通、この手法で何回か遠征して手に入れるのが主流だ。好き好んで化け物と対決したがる死にたがりは、そうは居ない。

 そんなわけで、俺は――いや俺達は、この依頼を受けようといつも通りギルドの受け付けに向かった。

 しかし。


「申し訳ありません。この依頼はお受け頂く事が出来ません」


 そして話は先程の場面に戻る。


「クレイジータイガーの生息域であるとされるナシワーツ樹海は、BランクやAランク相当の魔物が数多く棲む、言わば魔界です。ですので、その……」

「何だ!? 言いたいことがあんなら、さっさと言え!!」

「差し出がましいようですが、また経験不足かと……」

「つまり、何か!? 俺が弱ぇから樹海に挑むのは無理だと、そう言いたいのか!?」

「い、いえ。技量というより経験的に、ですね…」

「チッ! 話にならねぇ!」


 涙目になりながらも必死に説明を試みる受付譲を睨みつけ、俺はその場を後にした。

 これも今思えば、受付譲の説明にこそ理がある。確かに実力というか技量の上ではBに近いCといったレベルにあった俺だが、急速にランクを駆けあがった若輩故に経験の面では他のCランカーと比べて劣っていたのは間違いない。いくら技術があっても、経験が供わない技術では、いざ不測の事態に陥った時の対応に大きな差が生まれ、生死が分かれるだろう。そういった意味で、経験が足りないという受付譲――というかギルドの判断は正しい。

 しかし、あの時の俺はそうは受け取らなかった。単に、実力不足を指摘されたと、「お前は弱い」とバカにされたと歪曲して受け取り、激怒した。

 そして、まるで泣きわめいて駄々を捏ねるガキのように、俺は怒りの赴くまま行動に出る。


   ◆


 ギルド一の出世株と言われ有頂天になっていた俺達は、ナシワーツ樹海に挑む事に何の躊躇いもなかった。むしろ、数ある魔物発生地区(ダンジョン)でも屈指の凶悪さで知られるナシワーツ樹海こそ俺達の狩場に相応しいとさえ思っていた。

 故に、ギルドに止められたその日、俺達は勝手にナシワーツ樹海へと向かい、勝手に狩りをすべくその奥地へと潜入した。

 奥に行けば行くほど森は鬱蒼としていき、木々に阻まれ日中でも薄暗い。そのせいなのか、もしくはそこに棲む魔物の気に当てられたのか、森に入ってしばらくして感じた鳥肌が立つような肌寒さは今も記憶の中に鮮明に残っている。

 そして……。


   ◆


「この馬鹿野郎が!!!!」


 意識が飛びかけるほどの拳を右頬に受けて、俺はギルドの床に叩きつけられる。


「てめぇら、一体、何したか理解してんのか!?」


 今度は、顔面を蹴り上げられる。鼻が砕かれ、歯が折れた。口の中に血の味が広がったのを覚えている。


「自惚れも大概にしろや、クソガキ共!!! 死ぬなら、てめぇが独りで勝手に死ね!!」


 上着を掴まれると無理矢理、力尽くに引っ立てられる。そして、腹に膝蹴りを喰らい、悶絶。したのもつかの間、再度、右頬を殴り飛ばされ、意識を失った。


   ◆


 あの日、 俺達はナシワーツ樹海に侵入し、Aランク指定の魔物である《アンガーグリズリー》と遭遇。慌てて撤退を図るも、アンガーグリズリーは俺達を追って樹海から外に出てしまう――偶発的な《はぐれ》の発生である。さらに、間も悪いというか運の悪い事にアンガーグリズリーの咆哮に引き寄せられるように更に二、三体の魔物が《はぐれ》として樹海から迷い出る最悪のパターン。

 事態を知ったギルドは緊急依頼として高ランク冒険者を直ちに派遣すると同時に、警備隊及び騎士団にも援軍を要請して、事態の鎮圧が図られる事になった。

 結果、《はぐれ》と化した魔物は無事討伐されたが、集落が襲われそこに住む住民がほぼ全滅した他、戦闘に駆り出された者達にも多くの死傷者が出る惨事であった。


   ◆


 あの日から、かなりの年月が経った。

 あの惨事で俺達は仲間を1人は永遠に失い、1人は腕と足を失くす重傷を負い、俺ともう一人は無事であったが結局パーティは解散となった。自分たちの軽率な行動によって、あまりに多くの人が犠牲となった。その重荷に耐え切れなかった部分も少なからずある。

 しかし、俺の頭からあの時の後悔が消えた事はない。

 冒険者から一転、ギルドの職員となった今でも、だ。

 そんな今の俺にも出来ることがあるとすれば、生半可な気持ちでナシワーツ樹海に挑もうとする無謀者を止める事くらいだ。その為に、俺はどんな罵倒も苦汁も舐めよう。

 願わくば、第二の俺が出現しない事を切に願う。

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