5-9「疑惑のエドガー」
「カズロン!! エドガーの奴が、武具屋に竜種の鱗を持ち込んだらしいぞ!!」
件のAランカー・カズロン氏の関係者――というかパーティーメンバーかな?――と思われる軽鎧姿の男の声が、ギルドホール中に響く。
「あぁ!? エドの小僧が? 確かなのか!?」
「アランに聞いたんだ、間違いねぇ!」
「アランから? ……ならガセって事はねぇか。あのクソガキ、まさか……」
「探すか?」
「チッ! ジェローム! この話は一旦保留だ! 忘れるなよ!?」
「エドガーさんとお会いするつもりですか? なるべく手荒な――」
「手荒な真似はするなってんだろ? 分かってるよ! 何かしら事情知ってそうな小僧に話を聞いてくるだけだ。こっちだって、わざわざ規則破りの罰則を喰らいたいわけじゃねぇ」
「さっさと行こうぜ、カズロン!」
「おう!」
ホール中に丸聞こえのやりとりを終え、エドガーと軽鎧の男は伴ってギルドを飛び出して行った。
途端、ホールに静寂が戻る。その様は、さながら嵐が過ぎ去った後のよう。
やかで、しばらくの静けさの後、遠巻きにカズロン達のやりとりを聞いていた冒険者達のヒソヒソとした憶測混じりの推論があちこちで上がり始める。
「エドガーの奴、他所の獲物を盗んだのか!?」
「よりによって、カズロンの獲物に手ぇ出すとはな」
「しかも、ギルドの中で盗みとかバカだろ!?」
「終わったな、アイツ! 獲物の横取りはルール違反、バレたら罰則モンだぜ!?」
「Bランク目前のルーキーも堕ちるとこまで、堕ちたな…」
聞こえてくる推論を聞く分にはエトガー犯人説が濃厚、自分の武器に使う為にエドガーが盗んだという線で断定された感じのようだ。
持ち込まれた竜種の鱗が無くなり、それと同種の物を別の人が持ち込んだ。この構図で視れば、怪しいのは、物が無くなった直後にそれと全く同じ物を持ち込んだ人物だろう。この場合は、エトガーである。
まぁ、多少短絡的な気はするが、一応、筋は通っている――気がする。
「劣化竜とは、この辺りには棲息していないのですか? もしかしたら、偶々狩った獲物が被っただけという可能性もあるのでは?」
「この辺りで劣化竜が棲息するとしたら、ナシワーツ樹海の中域と呼ばれるエリアに可能性があるって程度ですね。基本的に劣化竜はもっと東の岩山に巣を作っているはずですので。今回は、まさに偶々《はぐれ》の劣化竜が迷い出てきた稀なケースみたいです」
「なるほど。そこまで珍しいケースであるなら、二件重なるとは考え難いですね」
とまぁ、そんな感じに状況証拠も揃っている。《はぐれ》と化した劣化竜が二頭も出現したとは考え難い。やはり、他人が狩った獲物を、盗んで使ったと考えるのが妥当だろう。
何より、エトガー自身、Bに近いとは言え実際のランクはCである。Aランクでも上位に位置する劣化竜を相手にするには、エドガーでは荷が重かろう。仮に狩ったと言われた所で、信憑性は正直薄い。実質BのCランクと言えどSに限りなく近いAランクに挑むというのは、それくらい無謀で勝つのは奇跡的な事とされているのだ。
「あぁ、ジェロームさん! お疲れ様です!」
そうこうしている内に、ほとんど生贄のようにカズロンの対応をさせられていたジェロームさんが俺達の傍を通り掛かる。その手には何やら紙袋が握られていた。
それに気付いたメリッサさんが労いの言葉を掛ける。
「まぁ、アレもまた仕事の内でしょう。少々、疲れましたがね……」
ジェロームさんが苦笑い気味に応える。やはり、どの世界でもクレーム処理ほど精神的に疲れる仕事は、なかなか無いだろう。相手の言い分に対して、こっちが逆上してはイケない。……かなりキツイ仕事だと思う。
「今から外回りですか?」
「えぇ、ギルドへの依頼処理が数件ありましてね。これから北区の方へ行ってきます。カズロンさんも、あの様子なら数刻は戻らないでしょうし、今の内に済ませてしまおうかと」
「えぇー…大変ですね。お気を付けて!」
「むしろ、私はこっちが本業ですからね。では、行ってきます」
若干、疲労の色を見せつつも、ジェロームさんはギルドを出ていく。
とりあえず、俺は疑問に思った事をメリッサさんに聞いてみる。
「ジェロームさん、どこに行ったの? なんか外回りって言ってたけど」
「依頼者の方が直接ギルドに来れない場合、ギルドの担当者が直接依頼者の元へ訪問する事があるんです。それを外回りって言ってるんですけど、特にジェロームさんはまめな方なので、頻繁にあぁして外回りに出る機会が多いんです」
言ってみれば、営業活動って事かな?
それにしても、調整事務が担う仕事は思った以上に多岐に渡るようだ。ジェロームさん、過労で倒れなきゃ良いけど。
それからしばらく、メリッサさんの仕事を邪魔をしない程度に雑談した後、ギルドに戻ったついでに他の冒険者に混じって酒を呑むというアズエルをその場に残し、俺は《クラの家》へと帰る事にした。




