5-8「竜種の鱗」
一週間ぶりの更新です
俺とアズエルがギルドマスターの執務室から解放されると、ギルドのホールは一変していた。
俺達が帰ってきた頃は、時間的な理由もあって比較的閑散とし、普段というかピーク時と比べてれば随分と穏やかな雰囲気だったはずだ。
それが、この数刻の間に、殺伐としたピリピリした雰囲気に代わっていた。
――――何かあったんだ?
その雰囲気に居心地の悪さを感じながら、俺はその原因を求めて視線を彷徨わせる。
果たして、その原因――と思われる場所はすぐに分かった。
視覚的にも、聴覚的にも。
「だからッ! 俺達は、全部で23枚持ってきたって言ってんだろうが!」
「そうは言われましても、こちらで数えさせて頂いた結果は完品18枚、小規模破損が3枚の計21枚ですので……」
「ふざけんな! こっちはパーティ全員で枚数確認した上で納めてんだ! なんならメンバー全員で証言したっていい! そもそも小規模破損って何だ!? アレは全部、傷一つねぇ完品だったろうが!」
「い…いえ、私共が査定した段階で既にそのように……」
どうやら冒険者とギルド職員の揉め事が起こったらしい。
場所が買い取り専用カウンターであることから、ギルド側の査定に対して冒険者側が物申している――そんな感じだろうか。
正直、その光景だけなら、実はそう珍しいものではない。冒険者が各々苦労して素材を持ち込んでも、査定の結果、思うような金額にならないなんて事はザラだからだ。理由は様々だが、例えば毛皮なら傷が多ければ多い程に減額するし、食材関連なら持ち込む時刻が遅くなれば鮮度を理由に減額もあり得る。
多分、今回もその辺りから来るトラブルなんだろうなとは思うけど、何やら最初から最後までいつもの事とは行かないようだ。
見た目が30代後半から40代くらいのいかにもベテラン然とした大男の怒鳴り声と、それに対応する初老の職員――ってかよく見たら調整事務担当のはずのジェロームさんだった――の舌戦を聞きつつ、事情を知って居そうな知り合いを見付けて声を掛けてみる。
「メリッサさん、いま大丈夫ですか?」
「あ! ハセさん、アズエルさん。ギルマスへの報告はもう終わったんですか?」
「はい、そっちは今さっき終わった所です。それで、アレは何の騒ぎですか?」
「えぇと、ですね……」
メリッサさんは一瞬言い淀んだけど、もうこの場に居る者達は大体の事情を知って、もしくは察しており、情報の秘匿にあまり意味がないと思い直したのか「あまり広めないで欲しいんですけど」と前置きした上で、事のあらましを教えてくれた。
それによると、さっきから怒鳴っている大男は、名をカズロンというAランクのベテラン冒険者らしい。Aランクだけあってその実力は折り紙付きで、彼がリーダーを務めるパーティーはこの街に在籍する冒険者達の中でも戦闘力・依頼達成率その他諸々でトップクラスの精鋭集団だと言う。
事の発端は、そんな彼らが劣等竜と遭遇し、その討伐に成功した事に端を発する。
劣等とは言え立派な竜種に数えられる魔獣、劣等竜。そのランクは、当然のA。ランク的にはクレイジータイガーと同等だが、格はこちらの方が上だと言う。あの大虎を越える格上の存在なんて俺には想像も付かないが、まぁそれだけ強敵という事だろう。
ともかく、そんな強敵と偶々遭遇――いわゆる《はぐれ》だったらしい――したカズロン達は、持久戦に持ち込んだ末、辛くも討伐に成功。素材の宝庫と言ってもいい竜種を倒しただけあって、彼らは意気揚々と解体して入手した様々な素材を手土産にギルドに凱旋した。
そんな彼らが、何故、ギルドで揉めているかと言えば、彼らが持ち込んだ鱗の枚数(と保存状態)の申告と、それを受け取ったギルドの査定結果が食い違っており、命がけの死闘を制した彼らが激怒した――というわけのようである。
「あの人たちも命がけで入手した素材だし、怒るのも分かるんだけどねぇ。物が物だけに、鱗1枚でウン万リョウ、下手したらウン十万するららしいから尚更って感じかな」
「うわー……そりゃ向こうも引かないよねぇ」
「相手もAランクのトップランカーであるなら、信用という意味でも虚偽の申請をしている可能性はほぼ無いにしても、双方、数え間違えって事はないのですか?」
「そこは何とも言えないみたいです。カズロンさん達は「状態が良い物だけを厳選して23枚」と主張しているのに対して、ギルドの査定部門で数えた結果は21枚、しかもその内3枚は鱗が割れてたみたいで……」
「なら、単に数え間違えたんじゃないの?」
「ところが、間の悪い…というか何というか、最初に対応した買い取り担当の人も鱗の状態が良かったのは確認しちゃってるんだよね…」
「……つまり?」
「数はともかく、誰かが持ち込まれた劣等竜の鱗を弄ったのはほとんど確定…って事」
なるほど。感情を表すように獣耳をペタンと萎らせるメリッサさんを尻目に、状況をおぼろげに理解した俺は納得する。
何者かが持ち込まれた鱗を破損させた、というのがほとんど確定してしまっている以上、事の信憑性はカズロン達冒険者側にあると言って良い。少なくとも流れは冒険者の方に軍配が上がっている状態だ。なにせ物を壊した犯人がほぼ確実に居る以上、その犯人が鱗をただ壊しただけではなく数枚失敬していったという可能性は十分にあり得るのだから。
ここまで来るとはっきり言って、ギルドの責任問題である。
(メリッサさんによると)だからこそ交渉役としてジェロームさんが借りだされ、怒りを露わにするカズロンと落としどころの交渉をしているのだと言う。
なんでも、依頼者と面談していろいろ交渉事も多い調整事務の長として、ギルド代表の交渉役として白羽の矢が立ったらしい。……多分、この場合、本来の意味での『白羽の矢が立つ』で意味合いが合ってると思う。
何はともあれ、鱗を破損させた(ついでに、恐らくは盗みも働いた)犯人が一番悪いのは当然だが、この件に関しては不審者の侵入に気付けかなかったギルド側も悪かったとして決着が付きそうではある。
やがて、ジェロームさんも大変だな等と思いつつ、アズエルも交えてメリッサさんと話をしている最中。
厄介事の第二段――むしろ俺的には第三弾?がギルドに舞い込んだ。
ギルドホールに軽鎧姿の長身の男がガチャガチャ音を立てながら駆け込むや否や、カウンターでジェロームさんと交渉としているカズロンに向かって大声で言い放つ。
「カズロン!! エドガーの奴が、武具屋に竜種の鱗を持ち込んだらしいぞ!!」
少しでも楽しんで頂ければ幸いですm(_ _)m
ついでに、更新頻度が低くなっても拙作の存在を忘れないで頂けると、尚、嬉しく思います(^_^;)




