5-7「ギルドに緊急報告」
あれから、俺達はギルドへと急いでとんぼ返りする事となった。
理由は、さきほど見つけてしまった生物の殺戮現場の一件である。
ただし、通常、林での生物大量虐殺と言うだけでは、実際問題としてそこまで緊急性を持っているとはこの世界基準では言えない――らしい。と言うのも、まぁ確かに生物の無差別虐殺も異常と言えば異常なのだけど、言い方はアレだが所詮は獣を大量に殺戮した変態もしくは狂人が出たと報告される程度で、後々それを受けて危険度を精査してから場合に応じて追記調査もしくは犯人の捕縛が行われる。つまりは、この手の事態は総じて緊急度は低いと見られるのである。
しかし、そこに幾つもの不確定要素が加われば、話は変わってくる。
今回の場合、吐き気に苦しんでいた俺を介抱しながらアズエルが調べた結果、あそこで殺されていた生物は、その大半が魔物である事が判明。更に、そんな魔物――と一部の獣に混じって、人間の遺体まで混ざっていたとなれば、流石に一大事である。報告すれば、ギルドを通じて街の警備隊、更に騎士団が動く可能性すらある(アズエル談)。
そういった経緯があり、俺達は可能な限り最速での帰還を余儀なくされた。
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その後は、(例によって詳しくは分からないが)曰く「身体強化と風魔法の併用」によって通常一時間半掛かる時間を半分以下にまで縮めた俺達は、モスティスの関門に駆け込んだ。
一般開放されている門が一か所しか存在しないモスティスの関門は、いつも通り順番待ちで長蛇の列を為していたが、その列を無視して門を守る兵士に詰め寄る。当然、いっそ清々しいまでの堂々たる順番無視に真っ当に順番を待っている人達からは険しい視線と文句・不満が挙がり、門を守る兵士もそれぞれに武器を構える。
「緊急の案件です! ギルドに報告するので門を通してください!」
気勢を制するようにアズエルが叫んだ。
当初は訝しげだった周囲の人々や兵士も、それをもたらしたのが今や新星のAランカーとして知られる冒険者・アズエル(と"野ネズミ"の俺)と分かると話は早かった。緊急案件、と前もって言っていたのも功を奏したのだろう。
最優先で門を潜り抜けた俺達は、一目散にギルドへ向かう。
◆
こうしてギルドにやってきた俺達――むしろ、ほぼアズエル――は、受付業務をしていたメリッサさんの元へ向かう。
「アレ? 今日は雑木林でホーンラビット狩りに行くって言ってませんでした? もうお帰りですか?」
「別件が発生しましたので、ホーンラビット狩りは切り上げてきました。すみませんが、ギルドマスターに取り次ぎを願います。Aランク冒険者の緊急報告です!」
「ッ!? 分かりました! ギルマスに報告してきますので、少々お待ち下さい」
Sは元よりAランクの冒険者というのは、冒険者の中でもトップクラスの実力者である。そんなAランクに認定された者からの『緊急報告』となれば、内容以前にそれだけで優先事項としてギルドで扱われるのが通例となっている。
そんな訳で、アズエルの宣言を受けたメリッサさんは表情を引き締めてそう告げると、すぐさまギルドマスターが詰めている執務室へと向かう。
それから数分後。メリッサさんの案内を受けて、俺達はギルドマスターの執務室へと通される事となった。
◆
「それで? 緊急報告って話だが、何があった?」
「はい。まず、元々私たちは郊外にある林でホーンラビット狩りをする予定でした」
「あぁ、あそこか。新人用の狩場だな」
「そうです。当初、私は彼と組んで予定通りホーンラビットを狩ってました。しかし、2、3羽狩った辺りで異変に気付きました」
「それで?」
「林の奥から漂う異臭に気付いた私達は、その発生源を確かめる為に林の奥へと移動し、そこで大量の生物の死骸を発見したのです。それらは、明らかに人の手による虐殺でした」
「大量死……ねぇ。だが、それだけでは緊急とまでは言えんぞ? そうゆう狂った連中は偶に湧いてくるモンだ」
「その生物が、魔核を抜き取られた魔物でもですか?」
「……何?」
「しかも、その中には一名男性も含まれていました。言うまでもなく殺人です」
「……ふむ。確かあの雑木林に魔物はほとんど居ないはずだ。そんな場所で魔物の大量殺戮……」
「おそらく、ナシワーツの魔物を引き寄せて殺害したと愚行します」
「何か根拠があるのか?」
「現場に何かを燃やした痕跡があったのを確認しています。おそらく魔物寄せの香を焚いたのではないかと。それと、ざっと確認した限り、周囲の野良を掻き集めたというにしては死んでいた魔物のランクは高い個体が多かったように思います。この周辺で、高ランクの魔物が出没する場所は一つしかありません」
「なるほど。それに加えて、人間も殺されてたとなると確かにこれは緊急案件足る事態だ。報告に感謝する!」
「いえ。当然の義務を全うしただけです。それで、ギルドとしては、これからどうなさいますか?」
「とりあえずは調査だな。何人か調査隊を送って、お前さんの報告の検証をする事になるだろう。あとは……警備隊と騎士団にも連絡せにゃいかんだろうな。厄介な事だ」
俺がゲーゲーとしている間にも、アズエルは随分と情報を得ていたらしい。
俺にとっても初耳の情報を含んだアズエルの報告を神妙な顔つきで聞き終えたギルドマスターはそう告げると、その後、もう少し事情を聞かれた後で報告終了として執務室から解放された。




