5-5「vs.ホーンラビット」
まさかの全振り運任せという《運命天秤》の正しい(?)使い方を知らされた俺は、若干意気消沈しつつもアズエルの先導で林の奥へと移動した。
その道中は、俺にはよく分からないが、本人曰く「『サーチ』の魔法で獲物を探してます」とのことなので、彼女の後ろを付いていくだけの完全お任せである。
歩き始めて数分後。
「この先に一羽、居ますね」
アズエルが、こちらを振り向きながら前方を指さす。
とは言われても、林の草木が邪魔で、とてもではないがその姿を視認する事は出来ない。
別に彼女を疑うわけではないが、魔法が使えない俺からすれば僅かながら不安感が拭えない中、アズエルによる狩りにおける《運命天秤》の運用法、実践編のレクチャーが始まった。
「前方、大体10メートルくらいの距離にホーンラビットが一羽居ます。今の内に、いつでもスキルを使えるように準備しておいて下さい。準備が出来たら相手を刺激しないようゆっくり移動して、標的が確認出来次第、《運命天秤》をホーンラビットに対して使用。レベルは-5に設定して下さい」
ちなみに今更だが、《運命天秤》のポイント増減は「レベル」と表現するのが正しい在り方らしく、天秤が釣り合う状態をレベル0とし、ポイントを増やすごとにレベル1、レベル2と段階が上がっていく。そして、幸運は+もしくは無表記、逆に不運は-と表現される。
つまり、レベルを-5に設定――と言うのは、分かり易く言えばBAD全振りの状態という意味である。早い話、ホーンラビットが見えた瞬間、BAD全振りにするという指示。
小難しい事は一切抜きのシンプルな作業。
一応、ホーンラビットの習性として、普通の兎なら他の動物の気配を察したら一目散に逃げそうな所を、ホーンラビットの場合は逆に角を武器にして飛び掛かってくるという辺りに注意が必要である。聞いた話によると、その存在に気付かずにホーンラビットに不用意に近付いて角で身体を刺される者は意外と多いらしく、それによる死者も少なくないそうだ。
とにかく、気性が荒いという事を念頭に置いた慎重な行動が求められるのがホーンラビット狩りであり、冒険者が冒険者である為に必要な技術を学ぶのに打って付けの獲物と言われるのも分からなくはない。
そんなわけて気を引き締め、スキルをいつでも使える様に待機させつつ、アズエルに頷き掛けた。
事前に示し合わせた通り、そのままゆっくりと移動。
自分の心臓の高鳴りを感じ、自らの緊張を自覚しつつ一歩、一歩と歩みを進める。そして――――
「ッ!?」
その名の通り鋭い一本角を額から生やした小動物――ホーンラビットを視界に捕える。と、同時に当のホーンラビットは、俺達の方目掛けて跳躍して来る。勿論、自慢の一本角はこちらを向いており、刺されば痛いじゃ済まされないだろう。
気性が荒いとは聞いていたし、相応の危険が伴う事は理解していたつもりだが、出会い頭の先制攻撃に思わず身が堅くなる。
が、そんな俺の肩に手を置き、アズエルは優しく語り掛けた。
「落ち着いて下さい。下手に慌てると危険です。一旦避けてから、落ち着いてスキルを使って下さい」
アズエルの言葉に幾分の冷静さを取り戻し、ホーンラビットの体当たりを避ける。
少し落ち着いて見れば、確かに前世では見たことがないような鋭い角を生やした獣とは言っても結局の所、去れど兎である。体格も精々が小型犬くらいで、動きもなんとか目で追える。スピード自体、速いは速いが超高速って程では全然ない。突然の先制にテンパったが為に危うかったが、落ち着けばその攻撃を避ける事自体は大した難度ではなかったのだ。
まぁ、よくよく考えれば初心者向けの獲物として名が挙がる獣が強敵の訳がないわけで――――。
ホーンラビットの先制攻撃をスルーし、今度こそ落ち着いてスキルを行使する。
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対象【ホーンラビット】
G:(0)
B:■■■■■■■■■■(10)
ポイントを確定しますか?
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BAD全振りのレベル-5で、ポイント確定。
「設定終わったけど、後はどうしたら良い?」
「後は運に身を任せて、相手が自滅するのを窺いましょう。あ、成牙は取り出しておいてください。いつでも絞められるように油断なく」
言われるがまま《アイテムボックス》内から狩猟刀"成牙"を出現させ、そのままホーンラビットの出方を窺う。
その間、ホーンラビットもこちらを警戒するように円らな瞳で凝視するが、やがて徐に角の先端を俺の方へと向け始めた。どうやら、俺を標的に定めたらしい。
そして、再び体当たりを仕掛けようと後ろ足に力を込めて跳躍――――――しようとして勝手にコケた。まぁより正確に言うと、力を込めて跳ぼうとした瞬間に踏ん張りが利かなかったというか、何故かグリップがほとんど効かずズザッと音を立てて土だけ後方に飛ばしてホーンラビット自身はほとんど前進できないままバランスを崩壊させてすっ転んだ。えぇ、凍った路面でもあるまいに、あろうことか土に滑って転んだんです。なんというか、若干気の毒なくらいの無様さである。
「今です! 態勢を立て直す前に、やっちゃって下さい」
そして、そんな彼(?)に対して、追撃命令を下すアズエル。
――――いや、やりますけどね。流石に、ここで情けを掛ける程、平和ボケしてませんよ?
そんなわけで、転んだ状態から態勢を立て直す前に成牙の刃を、ホーンラビットへと突き立てる。
ホーンラビットは「キュウ」と意外と可愛らしい断末魔を挙げつつ抵抗するが、その身に刺さった成牙を抜けるわけでも、まして俺から逃れる事も出来ず、やがて身動きをしなくなった。
「お見事です!」
初の狩りに成功した俺を、アズエルが賞賛する。
クレイジータイガーとやり合った後だからか、突き刺す直前こそ若干の抵抗が正直あったものの、いざ「やってやる!」と一思いに刃を振り降ろしてしまえば意外なほど嫌悪感のような物は無く、案外呆気なかったなという感想を抱きつつホーンラビットの身に沈んだ刃を引き抜く。
こうして、俺の初狩りは無事、終了を迎えた。
「とまぁ、このようにレベル5では普通ではあり得ない偶然を傾向として引き寄せます。それらは、事前に段取りでもしたように、それこそコント染みた悪運である事が大半ですが、様々な形は有れど命に係わる致命的な物である事が多いです。それを利用して相手の自滅を促し、一気呵成に仕留める。これで、少しは納得して頂けました?」
正直、わざわざ運用法と改めて言う程の物ではないかも知れない。その辺、正直ちょっと期待した分モヤモヤしてる部分が無くもないが、それでもこのやり方、《運命天秤》を活かした狩猟法としての有用性は証明された――――と言ってもいいのかも知れない。
確かに、スキルを使って相手に自滅を半ば強制しながら自分はその隙を付いて比較的安全にトドメを刺す、という手段は有効だと認めざるを得ない。いや、むしろ、相当えげつない手口だと思う。少なくとも、俺はこの手段で追い詰められたくはない!
ともあれ、ある意味でジョーカーとも言えるスキル《運命天秤》の使い道と、俺の生活の糧が開拓されたのは間違いない。
まだ心許ないので、狩猟を稼ぎのメインに据える事は予定してないけど、それでもちゃんと身になる充実した1日となった。この件に関して、アズエルには本当に感謝です。




