5-2「実はポテンシャルが凄いんです」
「ハセさんは、このスキルについてどの程度、理解してます?」
このスキル、つまり《運命天秤》について聞かれる。
そうは言っても俺が知っている情報なんて、結局の所、コレくらいしかないのだが。
---------------------------------------------------------
『運命天秤』
固有特殊型。
万物の運命を操作出来る。
スキル発動時、天秤型の専用アイコンが出現し、対象の幸運・不運に干渉する。
天秤の傾きに応じて、対象の運命が大きく変動する。
このスキルによって改変した運気は、一定期間で反転してバランスが取られる。
--------------------------------------------------------
スキルの詳細で表示される言わば基本情報。
それを俺なりに噛み砕いて解説するなら、こんな感じ。
・このスキルは俺専用もしくは所有者が(今の所)俺しか居ない珍しい部類のスキルである。
・スキルの発動を念じると、俺だけに見える天秤が出現
その両側の皿に乗せられた『■』を移動させ、天秤を傾かせる事で対象の運を操作出来る。
皿にはそれぞれGとBが刻まれており、Gに傾かせれば幸運が、Bに傾かせれば不運が訪れる。
傾きが大きければ大きい程、効果もそれに比例して規模が大きくなる。
・効果対象は、視界に入った生物、もしくは自分自身。また、武器などの無機物も対象とする事が可能。
・このスキルで運を操作すると、一定期間後に運気が真逆に反転する(言うなればクールタイムのようなもの?)
その間、追加の操作は不可。
と、そんな所だろうか?
正直、運気を操れる点でチートには違いないスキルなのだが、そうは言ってもあくまで操れるのは運でしかないのと、何より操作後の反動が来るタイミングがどうにもランダムっぽいので使い勝手に難がある印象を受ける。
そんなわけで俺は、このスキルはこの一ヶ月でほとんど使っていなかった。
このスキルを使ったのは、初日の樹海で樹に試したのと、クレイジータイガーと自分に一回ずつ、その後は、エトガーとギルド職員に絡んでいた冒険者にお仕置き的な意味合いでこっそり使ったくらいで、それ以来、全く使っていない。
まあ、使う機会が無かったとも言えるけど。
「概ね、その理解で問題ないですね」
俺が知り得るスキルの説明を聞いて、アズエルが満足げに頷いた。その上で、告げる。
「ただし、これだけは覚えて置いて下さい。運命天秤は本来、因果律にすら干渉し得る力です。因果律――なんて言い方をするとどうにも中二臭いですが――言い換えれば、原因がない所に原因を発生させて、起きない、もしくはほぼ起きる事のない事象を無理矢理引き起こしてしまう。このスキルを実装するに当たって、幾つかセーフティーは掛けてあるとは言え、その力の絶大さを理解して欲しくてこの場を設けました」
なんか、思ってた以上に大事っぽくて脳がフリーズする。
因果律に干渉するスキル。確かに字面は中二病患者が好みそうな表記である。俺も別に嫌いじゃない。
が、『原因がない所に原因を発生させる』とか、『ほぼ起きる事のない事象を無理矢理引き起こす』と説明されれば、その重要性もおぼろげには理解できた。
樹海でスキルを試したあの時、俺があの樹にスキルを使わなければ、あの樹が『圧し折られる』という事象は起きなかったはずだ。勿論、『クレイジータイガーに襲われる』という原因も発生しなかっただろう。多分、俺がスキルを使わなければ、あの樹は今頃、あの場に今迄通り在り続けたに違いない。
運命天秤を使った事で因果律が狂い、魔獣に襲われるという原因が発生し、寿命を待たずとして倒木するという事象が引き起こされた。つまりは、そうゆう事だ。
原因がなければその原因すら創り出し、起こりえない事象すらも起こってしまう。
勿論、『職員に暴言を吐いたのを偶々ギルマスが見咎める』という原因によって『特別訓練』という事象が起こった冒険者達の例のように、全部が全部、その因果律に干渉するとは限らないのだろう。
しかし、そうゆう無理矢理すらも起こる、このスキルのポテンシャルは確かに絶大なのかも知れない。
少なくとも、おいそれと乱発すると予期せぬトラブルが発生する可能性は十分にある。
元々ピーキーなスキルとして持て余し気味だったとは言え、改めて説明されると中々に厄介なスキルだと思う。
「……とまぁ、釘は刺しましたが、物は使い様です。ホラ、バカとハサミは使い様って言いますよね? スキルも同じです! 要は使い方次第で、どうとでもなります。そうゆう意味で、ハセさんの無茶な使い方も、あながち的外れじゃなかったですよ? ……まぁ尤も、今後もあのような使い方をされると、そう遠くない内に間違いなく死んじゃうので、気を付けて欲しいですけど」
無茶な使い方?
「ホラ! クレイジータイガーとご自分の運気を両極端に設定しましたよね? 使い方の加減をご理解して居なかったとは言え、あれは無茶だったと思いますよ」
あぁ、あの時か。
あの時は、詳細の最後の一文の意味を理解していなかったのと、幾分やけくそ気味に使ったからな。
むしろ、使わなきゃ今頃、俺はクレイジータイガーの腹の中である。
確かにアレは無茶だったな。反転した途端、腹を貫かれたし――――。
「そんなわけで、次は狩りに役立つ運命天秤の応用編に行ってみましょう♪」




