4-12「勉強嫌いに勉強させよう 数式編」
書いていて、思いの外、長めになったので前後編に分けました
数式編は、その前篇に当たります
「なんとか、お願い致します」
小太りの男性に頭を下げられる、俺。
この頭を下げている小太りの男性こそ今回の依頼人、レイン・アンドリゥース氏その人である。
ちなみに、ここは南西区にあるアンドリゥース商会というレイン氏曰く中堅所の商会、その応接室だ。
それで、俺は思った。
――――ってか『アンドリュース』という家名を持っている時点で、自称「中堅どこの小さな商会」というのはかなり謙遜した言い方なんだろうな。ぶっちゃけ、この都市で一、二を争うレベルなんじゃないだろうか、実際の所。
根拠として、この商会の建物自体、レンガを積み上げて作られた見た目にも堅牢な造りで、その敷地も周囲の建物を3~4軒分まとめた面積よりも若干広い。それだけに従業員と思われる人々や、商会に出入りする行商人の姿が引っ切り無しで、商会の正面は人々の往来が結構激しいのだ。つまり、周りの商店と比べても明らかに規模がデカい。それも、圧倒的に。
事前に聞きかじった情報によると、アンドリュース商会は農作物の販売を主とする商会で、前世で言う所の卸問屋である。複数の農家と直接契約を結ぶ事で安定した供給源を確保して大量の農作物を買い付け、勿論自分達の店舗でも販売はするが、大半はそれらの商品を各地を転々とする行商人に卸す事で利益を得ている。商売の手口がなかなかに現代的というか上手く機能していて感心したし、農具関係の販売と修理も請け負っていて、農家に対するバックアップ体制もきちんと取り入れている辺りちゃっかりしているとも思った。
そんな業績も好調と思われるアンドリュース商会だが、大きな問題が一つある。
それこそが、今回の依頼『子供に算術を教えて下さいませんか?』で言う所の子供、しかも勉強嫌いの問題児の存在である。
レイン氏によると、どうもその子は、この前の依頼も含め過去に5人もの人間に教えを受けながら、その全ての教師に匙を投げられた程の問題児だそうだ。とにかく勉強をすることが嫌いらしく、問題を解かせようとしても2~3問解く内に嫌になって駄々を捏ねだす始末。次第に手に負えなくなり、皆呆れて教師を辞めていく、らしい。
なんとしても商会を継いでほしいレイン氏としては、実に頭の痛い問題だろう。故の、先ほどの頼み様とも言える。
まぁ勉強嫌いの気持ちは分からんでもないが、こっちも仕事として来ている以上、やれるだけの事はやろうと思う。
◆
次の商談が控えているというレイン氏に代わって、使用人の女性に案内されて商会の奥にあるアンドリュース家の住居スペース――むしろ屋敷に連れていかれる。
やがて、ある部屋の前で立ち止まり、ノックする。
「お嬢様。新しい教師の方をお連れしました」
「えぇー!! また来たの!?」
扉越しに聞こえる、ものすごい嫌そうな返事をする女の子の声。
そう、使用人の女性が言ったように、相手はお嬢さん。女の子である。
商会の跡継ぎと聞いて、てっきり男の子だと思っていた俺はその事実を聞いた時は軽く驚いたものだ。割とファンタジーなこの世界のイメージ的に、こういった商会長みたいな地位は男が継ぐといったルールのようなものがあると思ってたからだ。尤も、あまりに意外だったのでつい「娘さんですか?」みたいな事を聞いてしまったが、言われ慣れているのか当の本人は笑いながら「私の一人娘なので、将来は娘に跡を継いでもらうつもりなんですよ」と言っていた。よくよく聞けば、やはりそういった立場は男が継ぐのが一般的で、本来なら女児しか居ない場合は婿を取って婿に跡を継がせるのが普通との話だった。この場合、レイン氏のほうがむしろ変わり者と言う事だろう。
「失礼します」
そんなことを思い返している内に、扉が開けられ、俺は使用人の女性に促されて部屋へと入る。
「うわ~ホントに来たよ。しかも、バカそう!」
随分と失礼なクソガ――――お子様である。初対面の大人にいきなり「バカそう」とは、親の顔が見てみたい―――さっき見てきたばかりだから、やっぱいいや。
この生意気そうなガキ――――もといお転婆な少女こそ、俺が指導を任された生徒、フレイ・アンドリュースである。
◆
使用人の女性が退出した後、とりあえず俺は自己紹介から入る事にした。
「俺はハセ・タケユキ。君の教師役の依頼を受けた冒険者だ。ハセでも、タケユキでも、タケでも好きに読んでくれて構わない。それじゃ、よろしく」
まだ十歳にも満たないフレイの身長は丁度俺の腰くらいまでしかない為、なるべく目線を合せようとしゃがんだ態勢でそう挨拶すると握手する為に手を差し出す。
しかし、当のフレイは俺の事を観察するようにじっと見るだけで手を伸ばしてくる事はなく、やがて「ふん!」と鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。
元々相当な勉強嫌いとは聞いており、その嫌いな勉強を強いに来た者に心を開くとは端から思っていない。むしろ、初っ端から嫌われる要素しかないだろう。
まぁそこは別に構わないとも思う。俺は託児所や保育施設の手伝いにきた保母さんじゃない。なにも相手と仲良くなる必要は、正直あまりない。無論、仲良くなれるならそれに越した事はないが、極端な話、この依頼に関しては勉強が教えられさえすれば良いのだ。
そんなわけで、気を取り直して、フレイを机に向かわせる。勉強嫌いであっても根が素直なのか、ぶーぶー文句を言いながらも、彼女は机に向かい着席してくれる。
そして俺は、事前に作ってきた問題用紙を手渡す。
「…………なに、コレ?」
問題用紙を手渡されたフレイは、その内容を見て目をぱちくりさせた後、こちらを向いて聞いてくる。
「こうゆう形式の問題は初めてかい?」
この世界――というか日本においても算数の一般的な問題形式と言えば『1+1=?』という問題が普通である。俺自身、算数はこうゆう問題を難問も解かされて覚えさせられた記憶がある。
だが、今回、俺がフレイに渡した問題の形式はこのようになっている。
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□+□=5
□-□=7
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つまり、式の答えを求めさせるやり方ではなく、最初に答えを提示して、その答えになる問題を自分で考えさせるという形式である。アメリカだかイギリスだかどこの国の話だったかよく知らないが、とにかく海外でそうゆう形式で授業する様子を紹介するとある塾のCMを見た記憶があり、それを参考にして問題を作ってみたのだ。
一応、ただの丸パクリではなく、既存の1つの決まった答えを求める形式が嫌でも、幾らでも答えを作り出せるこの形式の方がクイズっぽくで受け入れられるのでは? という狙いもある。
と言う訳で、そのささやかな狙いまでは伝えないまでも、この形式における解き方を伝えると筆を走らせるフレイ。やがて、「コレでいいの?」と問題用紙を差し出される。
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1+4=5
8-1=7
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予想通りというか、実に安直な回答。しかし、俺は。
「うん! これも正解だ。じゃあ、例えばこの空欄が、こうなっていたら、どうだい?」
そう言って褒めつつ、問題を少し修正して再度、渡す。
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3+□=5
12-□=7
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彼女は「う~ん」と少し悩み、やがて一問ずつ問題を解いていく。
「はい! コレであってる!?」
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3+2=5
12-5=7
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「おぉ! 正解だ! なんだ、やれば出来るんじゃないか!? 大したもんだ」
「ふふん! 当然でしょ」
フレイは得意げにそう言って残りの問題に取掛り、時たま頭を悩ませながらも筆を動かし、順調に問題を作っていく。脇から回答を除いてみると、問題を解く毎に、最初のように安易に1を使った簡単な式ではなく、敢えて他の数字を組み合わせて難しくした式を考えるようになっていくのがよく分かる。
勉強が嫌いだというのなら、まずはやる気を引き出すことが先決である。
そこで、とりあえずは褒める。問題が解けたらまずは褒め、それによってやる気を引き出す。
そして、この決まった答えが無いこの形式なら、勉強というよりクイズ感覚に近く、遊びながら計算能力を身に着けられる。
思った以上に上手く行った感はあるものの、とりあえず第一ステップは無事、成功したと言って良いだろう。
ちなみに作者は、かつて数学(と英語)は常に赤点スレスレの低空飛行を維持してました(;一_一)
授業を受けながら、連立方程式だの三角関数のだの将来、何の役に立つんだと開き直ってた記憶があります
そして現在、仕事では三角関数を使ってます……もうちょっと真面目に聞いとくんだったorz




