4-11「ギルド職員のお手伝い」
折角、ギルドまで来たのだし、何か依頼を受ける事にした。雑務系の依頼なら、物によっては今から受けても十分にこなせるくらいの時間はある。
そんなわけで、メリッサさんと分かれて、俺は依頼ボードへ。
「申し訳ありません。只今、依頼書を掲示中ですので少々お待ち下さい」
先ほど、名もなき冒険者に絡まれていた職員のおじさんである。
その左手には決して少なくない依頼書の束が抱えられており、おじさんは空いた右手のみを使って依頼書を貼り出している。その作業は手馴れていて、よくその状態で綺麗に掲示できるものだと逆に関心する程である。
とは言え――――
「手伝いましょうか? その束、持ちますよ」
独りでやるより、二人でやったほうが効率はずっといい。
さっきの連中も、本気で依頼を受けたくて待っていたなら、嘲って貶めるよりむしろ手伝った方が余程早く事は片付いたろうに。……まぁその報いを、彼らは今どこかで受けている事だろう。
さて、当のおじさんはと言えば、俺の申し出が意外だったのか一瞬目を見開いて驚き、やがて「お願いします」と頭を提げた。
俺が依頼書の束を持ち、おじさんが該当するボードにそれを貼り出す。
この役割分担にしたおかげか、軽く雑談しながらでも張り出しはスムーズに進む。
話を聞いてみると、やはり職員を下に見る冒険者は結構いるらしい。
例外はギルドマスターくらいなもので、『ギルドマスター』の役職ではあるが一応は現役の冒険者でSランクだというギルマスに正面切って逆らう者はほぼ居ない。その分、ギルドの事務職員に対しては、どこかバカにするような態度を取る者が必ず出てくる。特に冒険者は戦闘能力で物を計る傾向が強い為、事務職で戦闘力皆無の物達に対して余計にそうゆう態度に出るようだ。
ちなみに、登録当日にエドガーから言われた「ネズミ」というのもその辺からくる蔑称で、雑務系の依頼ばかり受ける冒険者に対して使われる事がある。曰く、影に隠れてこそこそと獲物を齧る、つまり戦いを放棄してセコく日銭を稼ぐ恥さらしという意味合いのスラングとの事だ。
リスク避けるのは別に恥じても何でもないと思うけどねぇ。
「ん? この依頼」
「何か、気になる依頼でも御座いますか?」
俺の目に留まったのは、見覚えのあるあの依頼だった。
『子供に算術を教えて下さいませんか?』
この前、受けようかと思って、先を越された依頼である。依頼者とか詳しい部分はよく見てなかったけど、依頼の文面から恐らく同じ依頼だろう。
「これって、この前もありませんでした?」
「どれどれ。あぁ~この依頼ですか…」
事務のおじさん――ジェロームさんが、俺の手元を覗き込む。
結論から言うと、この依頼はやはりこの前まで貼り出されていた依頼と同じ物だった。
なんでも、前に依頼を受けた冒険者が依頼を達成する事が出来ずもう一度、募集する運びとなったらしい。
実際に依頼者と面談したジェロームさん曰く「かなりの勉強嫌い」な子らしく、まともに勉強させられる教師役がなかなか居ないのだと言う。依頼人はとある商会長さんで、その子には跡を継いでほしいのだが、いかんせん勉強嫌いで頭を悩ませているようだ。
「この辺の勉強法って、やっぱりひたすら問題を解く形式ですか?」
「そうだと思いますよ。むしろ算術は数をこなして覚えていくのが普通なのでは?」
「ですよねぇ。じゃあ、こうゆう形式って珍しいですか?」
俺はちょっとした思いつきを、ジェロームさんに聞いてみる。すると。
「少なくとも私は聞いたがありませんね。面白い形式だと思います」
「いけると思いますか?」
「おそらく、何かしらの結果は出せると思いますよ。ただ、相当に勉強嫌いのお子さんのようなので、上手く行くと断言はできませんが……」
「まっ、どんな依頼にも絶対の保証はないでしょうし。これ、このまま受けても良いですか?」
「依頼は早い者勝ちですので、構いませんよ」
そんなわけで、依頼書の張り出しをしっかり手伝った後、俺は家庭教師の依頼を受けた。




