4-7「デートっぽい何か」
当初の目的を済ませた俺達は、そのまま街を散歩する事になった。
きっかけは、俺がこの街に不慣れなのを知っているメイさんが街の案内を買って出てくれた事で、事実、この街について何も知らない俺は二つ返事でお願いした。
都合が良い事に、今俺達が居るのは商人街の通称を持つ西南区。その通称通りに商店が多く、人口密度が最も多い区域である。気ままにぶらつくには、まさに打ってつけというわけだ。
そんなわけで、特に目的もなくメインの大通りを二人で歩く。
「なにか見ておきたいものとか、ある?」
メイさんに聞かれる。
確かにただぶらつくより、何かしらの目的があった方が有意義だろう。
そうは言っても、今欲しいものもコレと言って――――
「……あ!」
「何かあるの?」
今更ながら、自分の身なりを見て思い立つ。
「俺、未だに寝間着のままだった……」
「そ、そういえば、森でそんな事言ってたわね…」
よくよく考えてみたら、馴染み深い日系の顔立ちをした可愛らしい子と二人きりというデート的なシチュエーションにも関わらず、寝間着のまま出歩く男の構図である。
この残念な、というかバカ野郎な状態に今更気づき、気持ちは最早『orz』を直ぐに体現出来る程に落ち込んだ。
「…………」
「……えぇと、服屋、行ってみる?」
こうして最初の目的地が決まった。
◆
ここの街、というかこちらの世界では衣服は古着が基本のようだ。
大抵の新品は基本オーダーメイドで作られ、そういった品を売買出来るのは貴族や役人、もしくは何らかの分野で成功を収めた勝ち組、いわゆる富裕層に限られる。一般市民で新品の服を購入するとしたら成人など特別な祝い事の時くらいなもので、そのような機会は数少ない上に下手をすると衣服一つに年収の2、3割という金額が跳ぶのでおいそれとは手が出ない現状もある。
なので一般人の衣服事情は自然と、富裕層が購入して飽きた御下がりが市井の市場に流れた中古品が中心となるのである。
とまあ、そんな事情はさて置き。メイさんに連れられて俺は、そんな古着を扱う店で替えの普段着となる服を物色していた。
品揃えや品質がどんなものかと若干不安がなかったと言えば嘘になるが、実際に見てみて品質自体は水準としてそこまで悪くないと思う。
物色してると偶に「なんだこりゃ」と顔を顰めるような悪趣味な服も紛れ込むが、シャツや上着類等は概ね無難な物が揃っていて、日本のリサイクルショップとイメージ的にそう変わりはない。もちろん、化学繊維とかそういった物は存在しないので日本の製品と同じクオリティーとは言い難いが、それでも多少布が堅くでごわつくかな、といった程度なので個人的には許容範囲である。
お値段的にも、古着だけあってそこまで値が張るものでない。古着と言っても1、2回程度しか着ていないようなほとんど新古品のような物は銀貨数枚の値が付くが、安いものなら銅貨数枚で手に入る。今の所持金でも問題なく変える額である。
そんなわけでメイさんの意見も取り入れつつ、無地の無難なトレーナーっぽい服を替え用に2、3着購入して店を出た。
◆
「タケって、その色が好きなわけ?」
若干の呆れが含まれたメイさんの質問。
何の質問をされているかというと、先ほど購入した服の話である。
マジで偶々と言えば偶々なのだが、俺がこれ良いかもと手に取る服の大半が鼠色。つまり今着ている服と同系統の色の服ばかりを手に取っていた事に気付いたメイさんからの疑問が、今のアレというわけである。
俺としては特に意識して鼠色の服ばかり手に取っていたわけではない。確かに、色合いとして比較的好みの部類には入るが、赤とか派手目な色彩でなければ、そもそも衣服自体にあまり拘りはない。基本「無難で安けりゃ何でもいい」というスタンスでファッションにお金を使わない性質なので、いつの間にか代わり映えのしない似たような服ばかり着まわしていたような気がする。
そんな取り留めもない話をしつつ、俺達は広場までやってきた。
本来ならかなりの間取りがあると思われる広場には簡易的なテントが張られた出店が所狭しと立ち並び、まるでお祭りのような賑わいを見せている。売られている物も、串焼きのような食べ歩きできる軽い食べ物から、日用品や雑貨、果ては煙草のような嗜好品も少数ながら扱っている店があるようだ。
「この辺って常にこんな感じなの?」
「大体いつもこんな感じよ。行商でこの街に来た人とかが広場で好き勝手に商売してる内に、こんな規模になったらしいわよ」
意外と無法地帯らしい。まぁ無法地帯と言っても別に悪の巣窟ってわけでないし、都市としてはかえってお金が落ちて街が潤うというメリットがある為に好き勝手に商売する事を黙認している現状があるようだ。
とにかく、雰囲気が祭りのそれに近い事もあって、ただ歩いているだけでも楽しげな気分になる場所。そんな印象を受ける。
実際に歩いてみると、先の通り他の街から行商でやってきている人達が大半な為か、同じような傾向の店でも取り扱っている商品が店ごとに違っていて、各々特色があって面白い。例えば、同じ野菜類を販売している出店でも、片やミニトマト(っぽい果実)をリアカー一杯に積んで量り売りしている人が居たり、キャベツ(に似た感じの葉物)を扱う人が居たりと、やってきた地方によって千差万別で絶妙に品物が被っていない辺りも興味深い。
「誰か、そいつを捕まえてくれ!」
と、特に当てもなく広場を散策していると、切羽詰まった感じの声が上がった。
そして、何事だろう? と思う間もなく、「邪魔だ!」と背後から走ってきた男に突然、突き飛ばされる。幸い、突き飛ばされたとは言っても、正確には肩をぶつけられた程度なのでちょっとよろめいたくらいで済んだのだが。
「なんだ、あいつ? こんな所で走りやがって!」
「大丈夫!? 何よ、あいつ! 危ないわね!」
こんな人通りの多い場所で、俺以外にも何人か突き飛ばしながら走り去る男の姿を見ながら、憤る。
やがて、ぜーぜーと肩で息をする男がノロノロと走ってきたと思ったら、丁度、俺達のすぐそばで遂に力尽きた。なにやら息も絶え絶えに「やられた」だの「ちくしょう」だのと漏らす男に、メイさんが話し掛ける。
「今、叫んだのは貴方?」
「そう、だ。ぜーぜー……売…上、を…入れた袋を、盗まれて……ぜーぜー……あの野郎」
つまりはそうゆう事のようである。
息も絶え絶えのこの男は案の定と言うべきか行商人で、積荷を無事に売り捌いて油断した隙を付くように売上が入れてあった袋をそっくりそのまま強奪されたらしい。売り上げを丸パクリされるこの男も間抜けと言わざる得ないが、奪う方も実に大胆である。
そして、そうゆう話を聞いて黙っているメイさんではない。
「追いましょう」
話を聞いて、即決する辺り彼女らしい。何せ、災厄のダンジョンに紛れ込んだ不審人物を助けて格上の魔物と戦う程のお人好しである。メイさんとは出会って間もなく彼女についてほとんど何も知らないが、それでも少なくともこういった場面に遭遇した以上、見捨てるもしくは見て見ぬふりをするという選択肢がとれない人だという事は何となく分かる。
そんな人だと分かるから、俺もまたそんな彼女に微力ながら協力しようと思う。
こうして、逃走した強盗犯との鬼ごっこが始まった。




