4-6「革細工職人のナミュール」
翌朝、特にコレと言ってする事がない俺がギルドを尋ねると、そこにメイさんの姿があった。
そして、俺を見付けるや、声を掛けられる。
なんでも俺を探していたらしく、だけども俺がどこに泊まっているのか分からなかった為にギルドで待っていたとの事。考えてみたら宿探しの際に第一候補だった《淡紅の桜亭》で断られ、その後の宿探しにも付き合うと言う彼女に俺が遠慮して分かれて以降、彼女と会っていなかったので連絡が付かなかったんだろう。
で、その要件はと言うと――――
「クレイジータイガーの毛皮の件なんだけど……」
クレイジータイガーの皮の件とは、俺とメイさんが銀髪の残念天使ことアズエルから報酬の分け前として強引に貰わされた毛皮の事だ。俺もメイさんも命が助かっただけ儲け物な状況だっただけに最初辞退したのだが、アズエル曰く「私がとどめを刺す前、既にある程度弱っていた」と主張。俺が最低限の装備さえ覚束ない点、更にメイさんも防御力に難ありな現状を指摘した彼女によって最終的には肉や爪・牙といった素材をアズエルが、残った毛皮を俺達二人が受け取る事で合意したという経緯がある。
「あぁ~忘れてました…」
「正直言うと、私も忘れて置きたかったわ」
俺もそうだがメイさんとしても、助けて貰った上にクレイジータイガーの毛皮なんて最上級の素材まで貰うのは気が引ける思いなのだろう。むしろ、こちらが何かしら礼をすべきなのに、お土産まで貰ってしまった的な感じ。
――――まぁそうは言っても、最終的には押し切られて合意した以上、素材は有りがたく貰う他ない。
そして、前日ギルドに提出されたクレイジータイガーの解体が完了したのが、つい昨日。毛皮自体は、メイさんが代わりに受け取ってくれていたようで、もう一人の権利者である俺を探していたと、そうゆう訳だったようだ。
さて、それで話が戻るが、この毛皮をどうするか?
クレイジータイガーの毛皮ともなれば、ギルドに売却すれば状態が悪くても金貨より下の額になる事はないという高級品である。しかも、今回の毛皮は状態が完璧で、ありのままを防腐処理して敷物として販売する事も可能な状態なのでその価値は更に跳ね上がる。
そんなわけで売却するのが、選択肢その1。
選択肢その2は、アズエルの進言に従って、その毛皮を加工して革鎧を作ってもらう事。
実際戦ったからよく分かっているが、クレイジータイガーの肉体はとても硬い。これは、何も骨や筋肉だけが異常に硬いという話では実はなく、クレイジータイガーの皮自体、分厚いゴムのように優れた柔軟性と弾力を備えていて、外部からの衝撃を限りなくゼロに近づける作りになっている。故に、あれだけの防御能力を誇っている。
同時に、魔物由来の素材だけに魔力との親和性も高く、魔力を通せば柔軟性や弾力といった特性をより強化する事さえ可能となる。
革鎧の素材としては、これ以上を求めるなら最早ドラゴンくらいしか候補がない程、素材の有用性は高いのである。
まぁ他に選択肢その3を挙げるとしたら、《アイテムボックス》の肥しにする――なんて事も考えられるが、少なくともそれを実行したらただのバカだろう。
売却するか、皮鎧にするか。実際には、この二択である。
◆
メイさんに案内されるがまま、俺は街の西南区――いわゆる商人街へとやってきた。
結局、何だかんだでアズエルの指摘は的を得ており、メイさんも自前の皮鎧がかなり痛みが激しく劣化してきているのは自覚していたらしく、俺に至っては元から革鎧自体を持っていない。つまりは図星を突かれた俺達は、結局、新しく革鎧を新調として貰う事になったのだ。
そこで、メイさんが革鎧のメンテナンスなどを依頼している馴染みの革細工職人の店へ向かっている最中というわけである。
歩いて数分。もうやく目的の店に付き、メイさんが慣れた感じて店内へ。
「ナミュールさん、居る?」
「ちょいと待っとくれ! 今、手が離せない!」
そのまま待つ事、数分後。ようやく店の奥から、一人の女性が姿を現した。
「何の用だい、メイ? 鎧のメンテはこの前してやったばかりだろ。……ようやく、新調する気にでもなったか?」
「ちょっと相談があってね」
「相談?」
「実は、この素材なんだけど……」(メイさんがクレイジータイガーの毛皮を見せる)
「ん? おい、おい! こいつぁ~もしかして、クレイジータイガーの毛皮かい!? この質感といい、毛皮の模様といい間違いない! いや~久々に見たぜ! どこで手に入れた!?」
「なんと言うか、依頼と関係ある……ような、ないような。なんとも強引に分け前としてコレを貰っちゃてね…」
「なんとも歯切れが悪いねぇ! ……ってか、これだけの素材を強引に渡してくるボケが居るとは驚きだ。この毛皮一つで、どんなに安く見積もっても金貨5枚は降らないだろうに! 呆れる程のバカだな、そいつ……」
結構、散々な言われ様である。まぁ、アズエルの本性を多少なり知っている身としては、あまりフォローできないけど……。
「まぁそんな事情で、コレを使って革鎧を作って貰えないかな?」
「そりゃ構わないさ! こっちとしても、それだけの素材を扱えるとなれば、やる気も一入ってもんだ!」
「それで、私の分と一緒に、彼の分も作って欲しい」
「あん? 彼ぇ?」
――――うん。俺の存在、この人に一切気付かれてなかったよ。もう背景と同列でしたよ。……ちょっと、泣いて来て良いかな?
とはいえ、気付いて貰えたなら、挨拶はしておこう。
「こんにちは。冒険者のハセと言います」
「ハセ。へぇ~なんか変わった響きの名だな。あたしはナミュール。革細工職人さ」
さて、ナミュールさんの話だと、クレイジータイガー一頭分の皮から鎧を作ろうと思うと4着くらいは作れるらしく、皮鎧2着分に匹敵する残りの材料をどうするか聞かれた。これに関しては、残りの材料をナミュールさんに買い取ってもらう形で引き取って貰い、その買い取り金額を革鎧の代金から引いて貰う事となった。
材料が持ち込みという事と、買い取り額からさらに値引きがされるということで最終的に製作費用は各々金貨1枚で良いと、話もまとまる。
製作には1週間ほど要するとの事だったので、ナミュールさんに後を任せて俺達は店を後にした。




