4-5「初日の稼ぎ」
アランと分かれた後、俺は2件の依頼を完遂した。
一つ目は、製品の運搬作業。これは製品――実際に行ってみたら剣や鎧といった武具類が中心だった――を、発注先である騎士団の訓練場まで運ぶ仕事で、全ての積荷を《アイテムボックス》に詰め込んで訓練場まで散歩し、訓練場にある備品倉庫で取り出すだけで終わってしまった。
それでもまだ時間があったので二つ目に受けたのが、倉庫の在庫整理。夕方とまでは言わないまでも日が大分傾いてから赴いた為、依頼者のおじさんには「今頃来たのか」と嫌そうな顔をされるも、これまた《アイテムボックス》に一旦収納すれば同時に収納数も表示されるので、それを利用して倉庫の在庫を片っ端から収納して数を調べ、在庫数を紙に記入して元通りに取り出すだけで完了。
ちなみに、依頼者のおじさんが嫌な顔をしたのは、わざと遅くやってきて二日分の日当を要求する冒険者が過去に居たから、らしい。例によって、作業が即座に終わった上に正確だったのでおじさんにはものすごい感謝された。――――にしても、(偶々かも知れないけど)冒険者って碌なの居ないな!?
こうして俺は更に2件の依頼を完遂し、その都度、受付譲さんに驚かれる事になった。
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合計3件の依頼を達成して、今日の稼ぎは銀貨5枚と、銅貨90枚。ちなみに、運搬が銅貨50枚で、在庫整理が銅貨40枚の仕事だった。後の2件を考慮すると、改めて最初の依頼で銀貨5枚も貰って良かったのか不安になる。
ともあれ、これで俺の所持金は金貨2枚、銀貨6枚、銅貨146枚、鉄貨13枚となった。銅貨は100枚で銀貨1枚に両替もできるが、日中チラッと物価を見た感じからして銀貨より銅貨の方が使用頻度が高そうなので両替はしないでおく。と言うのも、前世でいう銅貨=100円玉くらいな感じで、銀貨=万札を多く持っているよりかえって買い物とかもし易そうに感じたのだ。
そんなわけで帰路に着き、北区にある《クラの家》へ舞い戻る。
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「おかえりなさ~い」
玄関を開けると、そこには家主クラリスさんの姿があった。
間延びした喋り方といい、相変わらずおっとりした方である。泣きほくろがチャーミングな彼女の笑顔は、結構良い癒しの効果があるのを俺は実感している。実際、彼女目当てにちょくちょく顔を出す常連やや近所の親父さん方も多いようである。野郎の考える事なんて、皆一緒という事か。
「おっ! 今帰りかい、タケ君?」
家――もとい宿の奥から顔を覗かせるのは同じ宿泊客のアリーチェさんだ。彼女はハーフリングと呼ばれる種族の女性で、背が低いという種族特性で見た目は子供そのものだが立派な成人である。そう立派な大人で、冒険者としてもCランクの先輩だ。ただし――――
「今日は稼げたかい? 稼げたのなら、何か奢っておくれ!」
彼女は結構な駄目人間である。少なくとも宿泊料をツケという名で滞納し、新人冒険者に悪びれもせずたかろうとする程度には。
「少しは真面目に働いたらどうです、アリーチェさん? そうしたら酒の一杯や二杯奢るのも吝かじゃないですよ」
「えぇー! なんかさ~ちゃんと働いたら負けな気ぃしない?」
「そんな何時になく真面目な顔で言われても知りませんよ!? そもそも負けって、誰に対して負けてんだよ!?」
「そうカリカリすんなって。ハゲるよ?」
「ハゲて堪るか! ってか、小言言わせてるあんたが言うな!?」
だから、彼女との付き合い方も、僅か1日でこんなもんである。大人の女性というよりも、同年代の男友達といった扱い方で丁度いいのだ、彼女相手の場合。まぁ本人も、そんな感じのある種雑な扱いの方が気楽で良いとの事だし。
「はい、は~い! 玄関先で、じゃれないで、下さい、ねぇ~」
俺とアリーチェさんのやり取りを、クラリスさんが間延びした喋り方で諌める。
元々本気で喧嘩しているわけでもないので、二人揃って「は~い」と聞き分ける。
なんというかクラリスさんの母性が強すぎるというか、本当にお袋さん的な雰囲気が滲み出ている為か、この人に注意されると何故か童心に帰ってしまうような所がある。とりあえず、普段であれば(年も年なので)「は~い」なんて返事は絶対しないが、それをやってしまう程には影響力がある。これも、ある意味で魔性と呼べるかも知れない。
なんてくだらない事を考えながら、俺は《クラの家》に足を踏み入れる。
宿屋と言うより民宿――――むしろ下宿?
宿主はおっとりしたお袋さん、宿泊客はいろいろ駄目人間なお姉さん。その日によってご近所さんも集まるアットホームな宿屋《クラの家》。それこそ、異世界における俺が見つけた大切な拠点である。




