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4-4「倉庫のお引越し」

この前、投稿出来なかった分の巻き返しを図ります

 農耕都市モスティスは、大きく分けて四つの区域に分けられている。これは都市として意図してわけたのではなく、自然と出来上がった区域だそうで、それぞれ特色が分かれてそれに見合った職種の人達で固まっているらしい。

 受付嬢さんに依頼者・ケヴィンさんの店を教えてくらい、俺はやってきた区域は東区――通称・職人街と呼ばれる区域である。

 その通称から分かるように様々な職人――モスティスにおいて多いのは農具に関わる鍛冶師や木工職人――が多く軒を連ねる場所。門をくぐってすぐの南西区――商人街や、ギルドがあった中央区――セントラルのような人々の賑わいという点は若干控えめだが、各々の店舗から漏れてくる職人同士の威勢のいいやり取りや、鉄を打つ音等が辺りに響いて来て、そういった喧騒では決して負けていない。

 ちなみに、《クラの家》がある辺りは北区で良く言えば住宅街なのだが、古農エリアとも呼ばれる閑静な区域で、都市の中――この場合壁の内側という意味で――唯一農業を行っている区域だが他の区域に人が流れてしまい過疎化が進んでいるらしい。結構、切実なお話である。


 それはともかくとして、今は依頼である。

 依頼者のケヴィンさんは農具を専門とする鍛冶職人であるらしく、区域を歩き回る事数分、目的の店を発見する。

 《農具のケヴィン》。実にストレートな名前である。その分、間違っても武器を求めてやってくるアホな客は存在しないだろう。


「こんにちは! ギルドからの依頼で来ました!」


 まず、あいさつは基本。日本で働いていたときのクセというか習慣で、店に入るや大きな声で呼びかける。

 果たして、そこにはいかにも頑固な鍛冶職といった風情の大柄な男性がカウンターに肘をついてこちらを睥睨しているお姿が――――なんで睨まれてんの?


「あぁん!? ギルドからだぁ!? 俺が頼んだのは店番じゃねぞ! おめぇ、その成りで倉庫の荷物運べんのか? それても仲間連れてるのか?」


 ――――あぁ、そうゆう事か。

 事情を理解すれば店主で依頼者と思われるこの人――多分ケヴィンさんの不機嫌そうな視線も頷ける。

 確かに倉庫の引っ越し、ましてや鍛冶屋の倉庫ともなれば素材となる金属の在庫も相当なものと推測出来る。かなりの力仕事なのは間違いなく、そんな依頼に俺みたいな奴が1人でくれば、「ふざけるな!」とも言いたくなるだろうさ。


「いいえ、俺一人です。でも、受けたからには全力でやらせて貰いますよ」

「ふん! 例え一日で終わらなくとも、追加料金なんて払わんからな! ……ついて来い!」


 店主に連れられてやってきたのは、よく壊れなかったなと逆に関心する程にぼろい木造の倉庫。

 この見た目通りにボロく雨漏りも酷いようで、いよいよ保管している在庫にも被害が出始めた為、新しく倉庫を建てたのが先日。

 今回、このボロ倉庫から新築倉庫の方に在庫を全て移動させるのが、仕事内容である。その距離は、およそ100メートルといった所で、勿論、場所が一直線なわけがなく途中で細い路地を通る必要があるので更に難度は高まる。

 ――――まぁ普通に運ぼうと思ったら、一人でやってたら一日じゃ絶対終わらないよなぁ…


「じゃあ後は勝手にやっておけ! 俺は仕事に戻る。………監視してないからってサボるなよ?」


 そう釘を刺して去っていく店主の後ろ姿を見送ってから、俺はボロ倉庫の中へ。

 そこまで広くはない倉庫の内部には、見るからに重量感を主張する金属の山が築かれている。まぁその金属毎にある程度、箱に入れられて一まとめにはされているのだが、いかせん数が多い。

 試しに手近な金属入りの箱を持ち上げてみるが、とんでもない重さに持ち上げるのも苦労する。これ一つを新築の倉庫に運ぶ頃には、間違いなく疲労困憊だと思う。――――むしろ、一回運ぶだけで腰を壊す気がする。


「ってなわけで、よし! 試してみるか」


 今回の目的は、金を稼ぐ事もあるが、安全にスキルを試す事も含めている。

 今回の場合は《アイテムボックス》の使い方の検証である。

 クレイジータイガー戦と昨日のエドガーとの乱闘(?)で、《アイテムボックス》から物を取り出すのは経験済みだが、逆に収納するのは初めてに近い。まぁ正確には取り出した成牙が《アイテムボックス》に収まっている以上、収納も経験済みではあるんだけど、正直どうやったのかよく分かっていない。意識していないというか、気付いたら収納されていたというか―――

 なので、今回、しっかり『意識して』収納する事を念頭に置いて検証するのが目的となる。


 過程をすっ飛ばして検証の結果だが、物に触れて《アイテムボックス》に収納を意識したら収納出来てしまった。あまりの呆気なさに、呆然とした程だ。

 物に触れ、「収納」と思い浮かべ、触れていた物が消失、改めて《アイテムボックス/収容物一覧》をチェックすると収納されている事を確認する。

 こんな簡単で良いのか? というくらい簡単に収納出来てしまった。勿論、出すのもこれまで通りで問題ない。

 ―――――。

 倉庫の引っ越し作業は、思った以上に即行で終わりそうな気配である。


   ◆


「ケヴィンさん、居ますか?」


 やってきた時と違い、店の奥で作業中の店主――ケヴィンさんに呼びかける。


「……なんだ!? 根を上げるにしても、速すぎだろうが! それとも何か!? 頭数増やすから、金も増やせとでも言いに来たのか!」


 元々期待されてなかったっぽいけど、店主の中では俺は依頼に失敗した、もしくは追加で金をせびりに来た子悪党出来な立ち位置にされているらしい。

 分からなくはないけど、少しはこっちの話を聞いてもらいたいものだ。


「終わりました」


 だから、声のトーンが少し不機嫌でぶっきら棒になったのは許される範疇だと思う。

 対してケヴィンさんはと言うと。


「……………なに?」


 鳩に豆鉄砲というか、自分の耳を疑うようにきょとんとしてこちらを見詰めている。

 少なくとも、先ほどまでの怒気はない。ただ、呆然とした感じ。


「だから、終わりました! 後、何かありますか?」

「……終わったって、おめぇ、あの倉庫の在庫全部か?」

「当然です。1箱2箱運んだだけで、いちいち報告になんて来ませんよ」

「だって、あり得ないだろ!? どんだけ在庫あったと思ってんだ!? 1人でやってたら一日掛かりでも終わるかどうかだぞ!?」

「でも、実際、終わってますし。確認して頂けますか?」

「お、おう!」


   ◆


 そんなわけで、新築の倉庫の方へ。

 その中を見たケヴィンさんが「おぉー!」と感嘆の声を上げるのを、俺は横で満足げに見ている。

 特に指定がなかったので配置こそ適当だが、箱にまとめられた素材毎に分別して一まとめに在庫はまとめてあるし、工具類やその他もそれぞれ分けて置いてある。我ながら改心の引っ越し作業だと自負する出来である。尤も、この材料はここに在った方が使い勝手が良いという指定があれば、要望には応えるつもりだ。いわばアフターサービスってやつだね。


「なにか、このままだと不便はありますか?」

「いや、不便も何も……正直、ここまで整理してくれるとは思ってなかった」

「では、依頼達成と言う事でよろしいですか?」

「あぁ、勿論だ! ちょっと待っててくれ! 受領印を持ってくる」


 数分後、ケヴィンさんが一枚の紙をもって戻ってくる。


「じゃあ、これが依頼完了の受領印だ。依頼料も少し割増にしておいたから、ギルドで受け取ってくれ」

「良いんですか? 依頼料は増やさないってさっき……」

「いや、すまない! あれは忘れてくれ。君みたいな誠実な冒険者も居るものなんだな。改めて、謝らせてくれ! すまなかった!」


 後でケヴィンさんに聞いた話によると、以前も同じように引っ越し作業をギルドに依頼した事があったのだが、その時の冒険者に「この量を運ぶとなるとこの依頼料では足りない」だの「人数を増やすから、依頼料も増やせ」だのと金銭をせびってきた挙句、仕方なくその金額に了承するも仕事内容は適当で、結局、後でケヴィンさん自身が在庫の仕分けに追われる羽目になったらしい。

 そんな苦い過去があった為、今回こそは舐められまいと敢えて威圧的な対応をしていたと、その点に関してもケヴィンさんから謝罪を受けた。

 ちなみに、素のケヴィンさんは職人らしい頑固さこそあるものの最初に会った時のように誰彼構わず威圧的なんて事は全くなく、むしろ礼儀正しい誠実な人物である。職人としての腕も優秀で、彼の人柄にほれ込んで弟子入りを志願する若い職人も数多いようだ。

 まぁ今回はちょっとしたすれ違いの結果と言う事で、俺も快く許してこの件はチャラとした。こっちとしても、こっそり《アイテムボックス》の検証も出来たので、満足なのだ。


 こうして、俺の初仕事はつつがなく終了した。

可能なら、夜にでももう1話くらいいけるかも知れません

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