4-2「異世界の民宿」
「悪いねぇ。ウチはもう満室なんだよ」
同じセリフで断られる事、実に4回。
――――《淡紅の桜亭》? メイさんに案内されて向かったものの、真っ先に断られましたが? なんでも、丁度キャラバンの一行が泊まっていた為に素泊まりの雑魚寝部屋ですら満杯との事。タイミングが悪かったとしか言いようがない。ちなみに、メイさんとはここで別れた。
次いで、向かったのは《小鳥の憩い亭》。ギルドに登録したての新人冒険者におススメの宿との事だったが、まさにその冒険者だらけで部屋に空きが無く、断念。
あれよこれよと、破竹の四連敗となって今に至る。
「やばいな。マジでホームレスじゃねぇか」
流石に、少し焦りが見え始めた、その時。
「ねぇ、お兄さん? 宿屋をお探しかな?」
突然、そう声を掛けられる。
振り向いた先に居たのは、1人の女の子。背丈が俺のヘソの辺りまでしかない小柄な、というか幼い少女である。年はおそらくまだ二桁に達していないと思われる朱い髪の少女で、クリッとした蒼い瞳をこちらに向けながらニコニコと笑みを浮かべている。
「もしよければ、ウチに来る? 大した設備はないけど、格安で寝床を進呈するよ?」
あぁー、そうゆうことか。
多分、この子はどこかの宿屋の娘さんで、俺のように宿屋が決まっていない出遅れ組に声を掛けて客引きするお手伝いをしているのだろう。
よくよく考えると詐欺の可能性も十分にあるわけだが、とは言っても宿無しなのもマズイ。
「じゃあ、お願いできるかな?」
ここは、この子の案内に乗るとしよう。
◆
嬉々として先導する朱い髪の子に付いていく事、数十分。
ギルドがあったセントラルからは少し離れ、周囲は石造りの建物はほぼ消え、代わりに年季の入った木造建築の家々が目立つ区域となる。セントラルとは大分様変わりし、同じ都市なのに少し寂れた印象の場所だ。
――――なんか、スラムっぽいな。
先程までのセントラルの賑わいとのギャップのせいか、テレビなんかの映像でしか見た事が無い南米とかアフリカのスラムを彷彿とさせる雰囲気に、俺は内心ここに来たことを公開し始めていた。
「この先ですよ」
少女が行き先を指先ながら、駆けていく。内心は兎も角として今更、後に引けない俺もそれに続く。
果たしてその先にあったのは――――宿?
相変わらずニコニコと笑みを絶やさない少女が指さし、今まさに「到着!」と言って案内された場所。それは―――――
「これは民家じゃないの?」
どこからどう見ても、一般的な家屋。どう見ても、宿屋には見えない。道案内とか事前に子細な情報がなければ、ここが宿屋だと考える人物は1人としていないと断言出来る程に、まごう事なき一般の住宅。
「間違いなく、ここは宿屋だよ」
しかし、少女はそれを否定する。
もしかしなくても、俺は担がれたんじゃないだろうか?
そんな俺の内心に気付かず、少女は引き戸を開けて家の中へと入っていく。
「クラリスさーん!? 約束通り、お客連れて来たよー!」
――――!?
なんか、急に口調がガサツになった!?
「は~い」
そして、家の奥から聞こえてくる間延びした女性の返事。
やがて姿を見せたのは、男なら誰もが思わず目が行く見事なまでの二つの丘――じゃなかった、腰のあたりまで長く伸びた金髪を後ろで一本にまとめたポニーテールと、右目の下にある泣きほくろが印象的な若奥様的な雰囲気漂う妙齢の女性。
その隣には、道案内をしてくれた少女。
「お客様、というのは~、貴方ですか?」
俗にアニメ声とでも言おうか、声のトーンが若干高めで少し舌足らずなしゃべり方の上、言葉の間に独特の間がある癖のある話し方をする人のようである。
ともあれ、まず先に確認しておくべき事がある。
「ここは宿屋なんですか?」
「そうですよ~。ここは《クラの家》、という、宿屋さん、なのです~」
――――マジで、ここが宿屋なのは間違いないらしい。
いや、宿屋というより、これはむしろ。
「民宿じゃねか」
◆
結局、俺はこの《クラの家》と言うらしい宿屋に厄介になる事になった。
なんでも、この《クラの家》。その名から察せると思うが、喋りが独特の女将さん――クラリスさんの持家で、幾つか空き部屋があって勿体ないと言う事で宿屋を始めたらしい。別に悪い意味は一切ないのだが、誤解の余地なく完全に民宿である。
そんな《クラの家》の宿泊料金であるが、一泊二食付で銀貨1枚。料金を聞く前に4連敗している俺には相場が分からないが、道案内の子曰く「かなりの破格」との事。宿屋によっては、飯なしの雑魚寝部屋に素泊まりするだけで同じ値段の所もザラにあるらしく、それを考えると個室で夕飯と朝飯が付いてこの値段は安いと言える。
それと、最初てっきり宿屋の娘さんと思っていた朱い髪の子であるが、クラリスさんとは親子ではない。むしろ他人で、間柄を説明するなら店主と客であった。
「いや~クラリスさんが宿泊費ツケで良いってんで甘えていら、ツケで溜った費用がえらい事になっててね! いや~参ったね! ハハハッ!」
そう言ってケタケタ笑う彼女の名は、アリーチェ。彼女はCランクの冒険者らしいが、いろいろ駄目人間の香りが漂う残念な方だ。ちなみに、彼女は種族がハーフリングなので身長が低いだけで、年齢的には実際には立派な成人らしい。
そんな彼女が何故、自分の背の低さを逆手に取った相手の情に訴える客引きをしていたのか? というと、そり理由は前述のセリフでお察し頂けるだろう。
そう。溜りに溜ったツケを支払うだけの手持ちがなく、代わりとしてお客を1人連れて来れば一泊分のツケをチャラにするという約束をクラリスさんと交わした、その結果である。
俺はまんまと猫を被ったアリーチェさんに騙され(っていうと人聞きは悪いが)、《クラの家》に連れてこられたわけだ。
――――ってか、Cランクの冒険者なんだったら、とりあえず本業を頑張れよ!?
そんなわけで、農耕都市における俺の拠点がようやく決まりました。
仕事が立て込んできたので、当初の自己ルールだった毎日更新が達成できない日がちょこちょこ出そうですorz
その分、書ける時には一気に書いていこうと思ってます。
拙作ではありますが、少しでも楽しんで頂けたら幸いですm(_ _)m




