4-1「アズエルの創り話と獲物の取り分」
「――――と言う訳で、私がハセさんのサポート役を仰せつかりました♪」
俺がこの世界に来るきっかけとなった元凶、残念美人ことアズエルが満面の笑みでその経緯を語った。
勿論、俺がべつの世界から転生した事や、アズエル自身が天使である事等は大胆にスパッとカットし、ちょっと突けばボロが出る様な出任せ混じりの出鱈目だが一応は整合性が取れてる(?)創り話を披露。
それによると、いつの間にか俺は東の果てにあるとある島国のとある街の、とある名士のとある三男と言う事になっており、お家の事情によりこの地へ修行の旅に出す事が決まる。しかし、お家の秘儀! 空間転移を実行した所、術の座標設定に不具合が発生して当初の目的地とは大分かけ離れた場所に飛ばしてしまった事が発覚! 寄りにも寄って、その場所とは世界屈指のダンジョン、ナシワーツ樹海! このままでは俺があっさり死んでしまう! さぁ大変! ということで、アズエルが急遽サポート役として跡を追ってやってきた。 ――――という微妙に事実(に近い)話と全くの出鱈目が混ざり合っていて性質の悪い創り話であった。
――――まぁ、いろいろ言いたい事はあるが、とりあえず最初に「とある」が多い! 多すぎで、かえって分けが分からなくなっているよ!
次に、三男坊なのはまぁ良いとして、なんでお家の都合でいきなり自分と全く係わりのない国外に飛ばされんの!? それって最早、島流しじゃね!?
お家の秘儀って、何やねん! ってか、秘儀をこんな所で暴露していいのか!?
しかも、(その話を真実だとするなら)結構重大な事故が発生してのはずなのに、「さぁ大変!」って意外と余裕あんな!? すぐさま、救援送れや!
いつの間にか周りにたむろしていた酒盛り中の冒険者達も聞き耳を立てており、先程までの空気が一変して同情的な視線が突き刺さる。
うん。その話って聞きようによっては、居なくなっても困らない奴を口減らしも兼ねて国外に放り出した挙句、術の失敗でよりによって最悪と名高いナシワーツ樹海に放置された哀れな三男坊っていう風にも取れるもんな!
「大変だったな」「頑張れよ」的な視線が、非常に居心地が悪い。
中でも――――
「えー、と。貴方もなかなか苦労してるのね……」
隣にいたメイさんからの憐憫の視線が結構、クリティカルでした。
◆
「それはさて置き、コレはどうしましょうか?」
場をしんみりした空気に変えておきながら、アズエルはその話はもうどうでもいいとばかりに話題を変える。
――ってか、コレって何の事だ? 主語を言ってくれ、主語!
「さっき仕留めたクレイジータイガーですよ。ギルドに売却します? それとも、持ち帰ってご自分でお使いになりますか?」
「「「「「「はぁ!?」」」」」」
直接問われた俺とメイさんの他、周囲も冒険者一同驚愕の声を上げた。
なに言ってんの、この人!? さっき仕留めたクレイジータイガー!?
「一応、とどめは私が刺しましたが、ハセさんの攻撃も魔核に届いていたようですし、戦闘参加者には一定の権利があるものと思われますが?」
えっ!? 貴方が言ってるクレイジータイガーって、俺とメイさんが半殺しの目に遭ったアイツの事っすか? つうか、てっきり見逃されたのかと思ってたけど、あんたがとどめ刺してたんかい!? いや、だからこそ、俺とメイさんが生きてるのか。それなら、確かに納得、か?
「ちょ、ちょっと待ってくれるか?」
ある種の戸惑いが蔓延するこの場に、ついさっき聞いたばかりの男の声が割って入ってくる。
いつの間に来ていたのかギルドマスターがカウンターの方から歩いてくる。その表情は、驚き一色に染まっている。
まぁ無理もない。実際に戦ったから分かるけどクレイジータイガーって魔物はまさに化け物と呼ぶに相応しい強さを持っている。本来なら高レベルの冒険者達がパーティを組んでレイド戦を仕掛けるべき相手を、線の細い儚げにさえ見える女性が単独討伐したなんて話は眉唾もいい所だ。しかし、先ほどのメイさんの報告を聞いて《はぐれ》化したクレイジータイガーの討伐も視野に入れて本腰を入れようとしていた矢先にこの話を聞いてしまい、ありえないとは思いつつも「まさか!?」といった心境なんじゃないかな。
「貴女が、クレイジータイガーを討伐した、と?」
「正確には、ハセさんとその隣にいる子が最初に戦って、私が後を引き継いだんですけどね」
「ちなみに、どのように討伐したのかお聞きしても?」
「どう、と言っても、単に《ライトニングレイ》を頭から撃ち込んだだけですよ?」
「《ライトニングレイ》!?」
「マジかよ!?」「雷って滅多に使い手の居ない属性だろ」「あの術を使えるって奴、初めて聞いたぜ」「そんな魔術師なら、あの化け物も仕留められるか」「だな」
聞き耳を立てていた冒険者達がざわめく。
俺にはイマイチピンと来ないが、アズエルが使ったと言う《ライトニングレイ》なる魔法は相当に高位の魔法だったようだ。
ギルドマスターも、ついでにメイさんも驚きのまま表情が固まっている。
――――えーと、そんなにすごいの? 正直理解してないから、思いっきり乗り遅れた感があるんですけど。
「……あー、疑うわけではないんだが、証拠はあるか?」
「まぁ亡骸はそっくり回収してますから、何ならここに出しますか?」
「いや! ちょっと待て! こんな所に出されちゃかなわん! 向こうにあるギルドの解体所に出してくれ」
結局、その後、ギルマスとアズエル、それに俺とメイさんが付き添い、その他興味津々といった様子の冒険者達がゾロゾロと集結する中、アズエルはクレイジータイガーの亡骸を《アイテムボックス》から放出すると、いよいよをもって感嘆の声が上がる事となった。
そして、俺としてはただ死にかけてただけなので受け取れないと拒否し、メイさんも同様の反応だったのだが、それでもアズエルが当然の権利だと頑として譲らず、挙句、俺が未だ防具を整えていない点やメイさんも今の革鎧では上級の魔物との戦いでは不安がある点を指摘してクレイジータイガーの皮で革鎧を作ってもらうと良いって話に持っていかれ、結局、クレイジータイガーの毛皮が俺とメイさんの取り分と言う事で決着を見た。
ちなみに、当のアズエルだが素材を売却するに当たって冒険者登録を行い、異例のAランク登録と相成っていた。
Aランク指定のクレイジータイガーを、ほとんど使い手の居ない雷属性しかも高位魔法の一撃で葬ったという実績は、誰にも文句が言えない確かな実績となったようである。




