3-8「ギルドに登録を申し込む」
ガキン! 金属を叩く音。
バキッ! 金属が破砕する音。
ガラン、カラ、カラ、カラ、ララ…… 金属が地面で数回バウンドしながら落下した音。
一連の流れに、先ほどまでと違ったざわめきに包まれるギルド内。
予想とは全く違った結末に驚く声もあれば、その結果を出した者を悪戯に囃したてる者、はたまた逆に不甲斐ない無様を曝した者を嘲笑する者、少数派としてはその結果を独自に分析して探るような視線を向けてくる者も居る。
ただでさえ無意味に注目を浴びてしまった感があったのに、今となっては完全に当事者である。 ――――いや、最初から当事者ではあったんだけれど。
ただ、思うんだ。
『なんで、こうなった!?』ってさ。
事の起こりは、およそ十分前にまで遡る。
メイさんの本来の仕事である『ナシワーツ樹海定期調査』の調査結果をギルドに報告する為に俺達はギルドにある応接室へと通され、そこで樹海での出来事を仔細に報告した。
樹海内の魔物の分布をはじめ報告内容は多岐に渡るが、その中でも重要案件として報告されたのは、やはり、クレイジータイガーの一件。
通常、クレイジータイガーほどの魔物は樹海でも中心部にほど近い場所を縄張りとしているのが普通で、森の外側を調査する定期調査に引っ掛かる事は通常ない。だが、実際、クレイジータイガーは森の外周で目撃され、これが意味する事はクレイジータイガーの《はぐれ》化が予測されるということに他ならない。ギルドとしても由々しき事態であった。
更に今回、もう一つ報告がなされる事と成った。
――――まぁ、俺の事なんだけど。
後からメイさんに聞いた話なのだが、ナシワーツ樹海というのはダンジョンと呼ばれる魔窟の中でも凶悪・最凶と名高い指折りの危険地帯である。高レベルモンスターがウジャウジャし、過去に無謀な冒険者が樹海に入り込んだ挙句に、逃げ帰ってくる際にいわゆるモンスタートレイン状態になり、高レベルのモンスターが数体同時に《はぐれ》となって街へと迫る事態となった。その時にはAおよびBランクの冒険者パーティーを数組選抜してなんとか討伐に成功し、事なきを得た。
以上の教訓から、樹海への立ち入りにはギルドの承認が必須というルールが制定され、これを破ると最低でも街とギルドにそれぞれ多額の罰金を支払い、悪質と判断されればギルドからの除名、最悪奴隷落ちの可能性すらある重罪とされている、らしい。
そんなわけで、個人的に若干心配だった樹海への不法侵入に関しては、俺が――ルールを知らなかった事も含め異国人だと言う事もあったのかその場で厳重注意されるに留まり、別段問題視される事は無かった。まぁ、その辺は結果オーライって事で。
後は、基本的にメイさんの報告に頷いたり相づちを打っていたくらいで、俺としては特に何もしていない。精々、最初にクレイジータイガーと遭遇した時の状況をちょっと説明したくらいか。
そんなわけで一通り報告が済むと、もうしばらく話があるというメイさんを部屋に残し、俺は再び受付カウンターへとやってきていた。
彼女の勧めもあって、冒険者ギルドに登録する為である。
俺は、先ほどメイさんと一緒に向かったのと同じ受付嬢さんに話しかける。
「受付、まだ大丈夫ですか?」
「あぁ! さっきメイちゃんと一緒だった方ですね? 報告は終わったんですか?」
猫耳をぴこっと動かして、受付嬢さんが朗らかに対応してくれる。
ちなみに、この受付嬢さんだが――もうお分かりであろう、猫の獣人である。まぁ獣人とは言っても猫耳がはえている以外、外見的には普通に人と大差はないのだが、それでも生の猫耳というのはいかにも異世界っぽくて内心、それだけでテンションは上がりました。
ともあれ。
「まぁ一応は。メイさんはまだ話があるらしくて、部屋に残ってますよ。
それで、ギルド登録お願いしたいんですけど、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ! では、こちらに必要事項をご記入下さい。代筆は必要ですか?」
ついうっかり忘れがちだが、ここは異世界で、今話している言葉も日本語ではない。
コミュニケーションツールとして万能のスキル《言語習熟》の恩恵で、こちらの言いたい内容が自然と異世界語に変換されて口から飛び出すので喋るのは問題ない。
だが、文字の方はどうなのだろうか?
《言語習熟》というくらいだし、多分、文字にもこのスキルは有効だと思うが検証したわけではないので不安は残る。
一応記入してみて、日本語しか書けないようなら代筆を頼もう。
「多分、大丈夫です」
受付嬢さんから渡された申請書には氏名、年齢、性別の他、自らのスキルを記入する欄もあり、氏名以外どの程度まで書くかは各自で判断していいとのことである。
あまり手の内を曝したくないと思うのであれば全て空欄にすればいいし、逆にスキルや得意な武器などを予め記入しておけばそのスキルや武器が役立つ依頼を優先的に斡旋される場合もある。
さっきの門番をしていた兵士の話から察するに、《アイテムボックス》のスキルなんて最たる例であろう。
とりあえず、スキルに関しては《アイテムボックス》と《マッピング》の二つを記入し、他のスキルに関しては無記名とした。特に《運命天秤》に関しては、あまり触れ回っても碌な目に遭わない気がする。黙っているが吉、だろう。
武器は、短剣。
魔法は、使えない。ただし、魔力はある。――――いずれ、使い方を師事して魔法をつかってみたいものである。
「これでお願いします」
「はい。お預かりします! では、プレートを作製してきますので、少々お待ち下さい」
彼女は申請書を片手に、カウンターの奥へと消えていった。
プレート――――おそらく会員証のようなものを作りに行ったのであろう。
手持無沙汰となった俺は、壁に設置されたコルク(っぽい素材の)ボードに無造作に貼り付けられている依頼書を眺めながら時間を潰す。
薬草採取から魔物討伐、護衛依頼にお使いなどの雑用まで多種多様な依頼があり、その難易度によって得られる報酬も大分違う。討伐や護衛の依頼はリスクが高い分総じて報酬が高いが、採取系や雑用依頼はランクに関係なく受けられる代わりに報酬は微々たるもののようだ。
俺としては、あまり危険な依頼は受けたくないので、雑用依頼があるなら雑用をこなすだけでも万々歳である。命あっての物種と言うし、危険を推してまで魔物討伐などやりたいとは思わない。日々の生活が送れれば、とりあえずはそれでいいのだ。
そんな感じで、何となしに依頼書を眺めていた時の事である。
「オイ! そこの野ネズミ!」




