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3-5「農耕都市モスティス」

 最凶との悪名高い“ナシワーツ樹海”から東に移動する事、徒歩換算でおよそ二日。そこに王国でも随一の穀倉地帯を擁する農耕都市『モスティス』は存在する。

 仮にも都市とはいえ『農耕』都市と言われると一見閑散とした農村をイメージさせるが、実際のモスティスはと言うと、むしろ大都市と言って過言じゃない規模を誇る一大都市である。

 王国の食糧の大よそ5割が、ここモスティス周辺の農産物で賄われ、その品質も一級品と名高い。各地のやんごとなき方々の食事だとか、一般階級でもやや上に見られる傾向のある王都の市場で流通する野菜類は、ほぼこの地方産の物で占められるらしい。

 全体の5割を一つの都市が担っているのは驚異的と言えるだろうし、その重要性については語るまでもない。

 国の半分を養える規模の農耕から生まれる富も当然莫大であり、富める地には働き口を求めた大勢の人が集まり、都市は更に農地開発を推進して生産性も向上。そして、人が集まれば、そんな彼らを相手に商いをする商人達もまた挙って集まり、次第に職人達も自らの腕を売り込みに集まってくる。

 そんな好循環のおかげもあって、モスティスの街は王都に勝るとも劣らない大都市としての発展を遂げた。

 ――――と言う話を、道中、メイさんに聞いた。


 俺達が目を覚ました場所は、そんなモスティスに近い場所だったらしく、当初は徒歩移動と言う事で野宿も覚悟していたが、結果的には日が暮れる前に到着する事が出来ていた。

 街道から大きく外れていた為に現在地を見失っていたのが不運と言えば不運だったが、行先が分かれば思いの外速いもので、さらにその道中でたまたまモスティスに向かっていた行商人と遭遇し、交渉の末に馬車に乗せて貰えたのも大きかっただろう。久々に、実にツイてると思った。


 そんなわけで、モスティスの入り口である。

 モスティスの街は、都市全体を10メートルほどの高い壁で囲われており、一般に開放されている出入り口は一か所に限られている。

 これは、防犯もあるが一番に非常時における安全上の理由が存在しており、ざっくりと言えば魔物対策である。

 なにせナシワーツ樹海にほど近く、高レベルモンスターの《はぐれ》が出没する地帯である。そんな魔物が、いざこの都市に攻めてきたとなれば、ちょっとやそっとの壁では容易く壊され、街は蹂躙されてしまう。だからこその城砦並の壁であり、いざとなれば門を閉じて籠城できるだけの堅牢さを備えているのだ。

 ちなみに、畑は都市の周辺にあちこち点在しており、冒険者達による警護の元で農作業を行うらしい。また、都市の名産品に位置づけられる特定の農産物に関しては、その畑もまたこのような壁で周囲を囲っているようだ。


「あの門で検閲を受ければ、モスティスの街よ」

「しっかし、壁もデカけりゃ、門もデカいな。何人掛かりで開けるんだ、アレ?」

「なんでも絡繰りと魔法の併用らしいけど、詳しくは公開されてないわ。まぁでも、初めてこの都市を訪れた人にとっては、あの門の開閉もなかなかに壮大で、あれ自体街の名所の一つよ」

「へぇ~」


 そんな話をしている内に、順番が巡ってくる。

 そこにはプレートアーマーで全身を固めた兵士と思われる人物が三人ほど詰めており、その内の二人の手にはヴージュ――長い柄の先端に出刃包丁のような刃物が備え付けられたポールウェポンの一種――が握られ、残りの1人は腰に剣を提げてこそ居るが一応は手ぶらである。

 ヴージュを持った兵士が周囲の警戒に辺り、手ぶらの兵士が対応する役割分担らしい。


「おぉ、メイじゃないか!? 樹海の定期調査は終わったのか?」


 兵士とメイさんは顔見知りのようだ。

 まぁ都市を出入りするのに、必ずこの門を通るのなら、それも当然かも知れない。

 増してこんな可愛い子なら、俺なら絶対に忘れない自信がある!


「えぇ、いろいろ酷い目にもあったけど、なんとか生きてるわ」

「……なにか、あったのか?」

「それを含めてギルドに報告したいのだけど、通して貰える?」

「そうか。分かった。早いとこ報告してくれ」

「ついでに、彼も一緒に通してくれないかしら?」

「ん?」


 メイさんの発言で、兵士の視線がこちらを向いた。

 多分、メイさんの次で順番待ちしている一般人Aくらいの立ち位置だったんだろうな。

 メイさんに言われて、初めてその存在に気付いたみたい。


「彼は?」

「樹海に迷い込んで、私が保護したの」

「なにッ!? 無断でナシワーツ樹海に入り込んだのか!?」

「彼、異国の出らしくてあそこが禁足地だと知らずに迷い込んだらしいわ」

「異国……ねぇ?」


 一応、メイさんには、俺は(多分)ここより東の国の出身で、原因は分からないけど気が付いたらあの森の中に放り出されていたと説明してあった。

 流石に、俺が異国どころか異世界の出身である事を含め、手違いで死んだ挙句に女神様に転生させられた――なんて部分はざっくりカットした説明で、結構、怪しさはあるだろうけど――――

 実際、兵士が俺を見る目は、胡散臭いものを見る様な猜疑心が透けて見えるようだ。


「まぁ出身や樹海云々はギルドに任せるとして、正規の手続きはして貰わにゃいかん。異国の出って言うくらいだ、身分証もあるまい?」


 実際、俺は身分を示すものは何も持っていないので、頷く。

 すると兵士は「ならこっちに来てくれ」と顎で行先を示し、俺は彼に指示されるまま門の脇に建てられた詰所と思しき小屋へと向かった。

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