3-2「感謝の意は真摯に伝えよう」
俺が「生きている」と言う事を噛みしめていると、ふとお隣から身動ぎする気配がした。
「うぅん……」
どうやら彼女も無事、目を覚ましたようだ。
これで、一安心といった所かな。
「やぁ、目が覚めたみたいだね? よかったよ」
状況が呑み込めてない感じで、呆けている彼女に声を掛ける。
まぁ状況がよく分かっていないのは自分も同じようなもんだが、その辺は追々彼女と情報のすり寄せでもすれば何とかなるだろう。多分。
ひとまず、俺はフレンドリーな感じで声を掛ける。
「貴方……えっと、ここは?」
「ここがどこなのかは、ちょっと俺には分かんないかなぁ。俺もさっき目が覚めたばかりなんだ。見た感じ、草原っぽいけど」
「そう」
相槌を打ちつつ彼女も身を起こして、不意に思い出したように自分の身体を――むしろ消失した傷口を見て、唖然とした表情を見せる。
きっと、俺と同じこと思ってんだろうなぁ。
そりゃ、決して浅くない傷を負ったはずなのに目が覚めたら防具ごと治ってんだから、さぞビックリしたに違いない。なんで!? と思うよね、普通。
他人事みたいに言ってるけど、俺自身、なんで!? って思ってるしな!
「え!? うそッ!? どうして?」
「不思議だよねぇ…。その気持ちよく分かるわ~」
「まさかとは思うけど、これ、貴方が?」
「そうだ、って言えたらカッコいいんだろうけど、違います。ってか、むしろ俺も、割と致命傷貰ってたはずなのに何でか治ってるクチだしね」
「そ、そう……」
「不思議だねぇ」
「不思議ねぇ」
「…………」
「…………」
話が途絶えた。どうしよう?
あ! そう言えば――――
「そう言えば……」
「なに?」
「助けて貰ったお礼がまだだったな~って。
森の中では、化け物に襲われてた所を助けて頂き、ありがとうございました!」
まだ、彼女に感謝の言葉を送ってなかった。
助けて貰ったら、まず「ありがとう」と言うのは人とコミュニケーションを取る上で最低限必要なマナーだろう。
そんなわけで、感謝の意を述べ頭を下げる。
「え、いや、私の方こそ、あんま役に立てなかったと言うか、助け切れてなかったというか、えーと、なんかゴメン……?」
感謝の言葉は真摯に伝えるべきだと思って頭も下げたわけだが、受け取った側の彼女はどこか困惑気味というか軽くテンパってる感じで、逆に疑問形の謝罪をされるというよく分からない結果になってしまった。
ちょっと堅苦しかった、かな?
でも、実際、俺にとって命の恩人なのは間違いないし、そこは真摯に対応してこちらの感謝の意が伝わったのなら良しとしよう。
ただ、これだけは伝えておきたい。
「そんな事ないさ。あのままじゃ俺は今頃、あいつに喰われて間違いなく死んでただろうし」
不用意に|《運命天秤》《スキル》の試しをして、結果的に化け物を引きこんでしまい、最期は魔物に貪られて死ぬ。
あの時、目の前の彼女が助けに入ってくれなければ、ほとんど確実に待っていたであろう、未来。
それを考えれば――いや、それ抜きにしても、俺という足手纏いを庇いながらAランクという途轍もない強敵と戦ってくれた彼女を、どの口が責められようか?
「だから、ありがとう!」
「えーと、その、どう致しまして」
戸惑いながら、照れくさそうに、でも満更でもない風な彼女の微笑は、戦っている時の凛々しさとは一線を画し、正直言って実に可愛らしかったです。




